なぜ、採用は変わらないのか。採用を変える
ために大切な三つの視点
菊池龍之 きくち たつゆき 株式会社コヨーテ 代表取締役 1976年生まれ。同志社大学卒業後、人材コンサルティング企業に入社。2011年に株式会社コヨーテを設立。長年、国内外300社を超える採用事例を研究。そこで得たナレッジやノウハウを生かし、経営者、人事向けの講演活動や、数々の企業の採用をプロデュースしている。また人事担当者向けの定期勉強会「COYOTE CLUB」を主催。人材採用研究家として朝日新聞、日経新聞、クーリエ・ジャポン、WIREDなどのメディアでもその活動を取り上げられている。 株式会社コヨーテ ホームページ: http://www.coyo-te.co.jp/ |
「採用は大きな曲がり角に来ている」
当社で調べたところ、経団連加盟企業の採用広報活動時期が後ろ倒しになる影響で、約5000社近い企業が、インターンシップを口実に、学生と早い段階で接触を図ろうとしている。その数は3年前の6倍だ。今、採用活動は大きな変化の時期にきている。
私は長年、日本のみならず海外の採用市場や採用事例を調査、研究してきた。そこで得たナレッジやノウハウを、セミナーや講演、コンサルティング活動等で生かしている。今回は、こうした活動を通じて学んだ、"採用を変えるために大切なこと"をまとめて三つ紹介してみた。
"欲しい人材を採りにいく"スタンスを持つ
企業の多くは「入りたい人の中から欲しい人材を探す」ことが採用活動と解釈している。もちろん、入社意欲のある人じゃないと採用しても意味がない。ここで言いたいのは、採用に対する「姿勢」のことだ。受け身で待っていてもいい人材は来ない。"欲しい人材を自ら採りにいく"ことが重要である。自分たちが欲しいと思っている人材に対して、志望動機を高めていくぐらいの気概がないと、この採用激戦時代に、欲しい人材は採用できない。
かつて、ある外資系の人事担当者が大手就職サイトを使って新卒採用をしようとした時に、本国(アメリカ)のHR(人事担当部門)からこう言われたそうだ。
「どうして、10人しか採用しないのに、1万人近くの応募者を集めるのか?あなたの仕事は、私たちが欲しいと思う人材を10人、目の前に連れてくることだ」
もちろん、「集める」ことも重要ではあるが、採用は集めることが本来の仕事ではない。改めて、自分たちが欲しい人材にフォーカスした採用活動をすることが変革の第一歩であると考える。
採用活動に"個性"はあるか。
以前、ライフネット生命の採用動画が話題となった。それは、学生が企業から同じような質問を繰り返し受け続ける様子を皮肉ったものだ。最後に、こんなメッセージが流れる。
「同じような質問をする企業、同じような回答をする学生、日本のシューカツ、なんだかヘンだと思いませんか?」
最近の学生は個性がないと言いながら、企業はどれだけ「個性」を出しているだろうか。自社ならではの魅力を打ち出せているだろうか。共感は得られているのだろうか。
新潟に本社を置く米菓メーカーの三幸製菓㈱は、おせんべいへの想いを評価する「おせんべい採用」や、学生時代の活動成果に重点を置く「ガリ勉採用」など数々のユニークな採用方法を打ち出した。動画共有サイトを運営するドワンゴは、エントリー時にお金をもらうことで「とりあえずエントリー」をなくそうとした。こうした採用手法を選択する理由は、単に話題形成ではない。その背景には企業のメッセージが隠れている。こうしたメッセージに共感する人材を探しているのだ。
それは、就職サイトに載っている告知文言を変えるだけではない。説明会や選考のやり方、リクルーターの対応の仕方にだって、"個性"が打ち出せるはずである。
"徹底的に考える"採用をする。
海外で開催される人事担当者が集まるイベントなどに出席すると、非常にアグレッシブな議論をしていることに圧倒される。他社の事例を知ることにも熱心で、最新の心理学や組織学をどう採用に入れ込もうかと考えている。Googleの成長要因の一つは「採用」にあると言われているが、彼らは世界中から自分たちが欲しい人材を獲得するため、「徹底的な研究と検証」をしている。先日、彼らは「学歴はGoogleで活躍するためには重要な要素ではない」ことを公表した。これも入社後のパフォーマンスを調査してきた結果である。ちなみに、海外の採用担当の求人募集などを見ていると「リクルーティング・アナリスト」なる職種も存在する。入社後のパフォーマンス分析から、採用すべき人材を割り出し、効果検証を行うプロである。
これまでさまざまな採用成功事例を研究してきた中で、共通する要因の一つは、採用活動において「考える、つくる、振り返る」を重要視し、時間を割いていることだ。それは就職サイトや出展するイベントをどれにするかを考えることではない。「自分たちが採用したい人材は誰なのか」「どのようにして共感してもらうか」「どんな方法で獲得できるのか」を徹底的に話し合い、考えている。そして、採用活動終了時の検証も徹底することで、採用の精度は高まっていく。
採用がもっとクリエイティブな活動になると、獲得する人材はきっと変わってくるはずだ。