2014年10月01日掲載

人事総務担当者のための今月のお仕事 - 第1回 標準報酬月額の切り替え


永井 由美 ながい ゆみ 永井社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士

今回から毎月1回・計12回にわたり、人事総務担当者の業務として月ごとに定例的に発生するもの、社員の入退社などに伴って発生するものなど、基本的な手続きとその内容について社会・労働保険関係を中心に解説していきます。
各種様式や法令に関する官庁情報など、最新の情報にアクセスできるリンクを本文や資料に可能な限り多く織り込んで紹介していきますので、実務の確認や知識の振り返り・習得等にぜひご活用ください。

1.定時決定とは

[1]標準報酬月額の決定
 実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差異が生じないように、毎年7月1日現在で事業所に在籍する被保険者の4月から6月に支払われた報酬を基に、新たな標準報酬月額を決定することを「定時決定」という。そのため事業主は、毎年7月1日から7月10日までに「算定基礎届」(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届)を提出しなければならない。新たに決定された標準報酬月額はその年の9月分から翌年の8月分まで適用される(「算定基礎届」という届出書をもって手続きを行うことから、実務では「算定」と一般的に言われる)。

[2]決定した標準報酬月額の適用期間
 算定基礎届の提出は7月1日現在の全ての被保険者と70歳以上の被用者について行う必要があるが、資格取得の時期などによって提出が必要な者と不要な者に分かれ、標準報酬月額の適用期間も変わってくる。
 前述のとおり、9月分からは新しい標準報酬月額が適用されるとともに、厚生年金保険料率も変わるので、各人の標準報酬月額が正しく管理されているか確認する必要がある。

事由別にみた標準報酬月額の決定方法
事由 対象者*1 定時決定 適用される
標準報酬月額の
決定方法
決定された標準報酬月額の
適用期間
通常 7月1日に在籍する者
(休職中の者を含む)
必要 定時決定 その年の9月分から
翌年の8月分まで
入社 5月31日以前に入社 必要 資格取得時決定※2
その年の8月分まで
(9月分以降はその年の定時決定における標準報酬月額)
6月1日以降に入社 不要 翌年の8月分まで
退職 6月30日以前に退職 不要 前年の定時決定 退職日の翌日の属する月の前月分まで
(例) 6月30日退職=7月1日喪失⇒6月分まで
7月1日以降に退職 必要
その年の定時決定
ただし、9月29日以前に退職の場合は前年の定時決定
変更 7月に「月額変更届」を提出する人 不要 随時決定 翌年の8月分まで
7月に「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出する人 不要 育児休業等終了時改定
8月または9月に「月額変更届」を提出予定の人※3 不要 随時決定
8月または9月に「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出予定の人※3 不要 育児休業等終了時改定

 ※1 社会保険は月単位で徴収するので、被保険者期間が1日でもあれば1カ月分納付することになる。
  2  資格取得日=入社日、資格喪失日=退職の翌日。
  3  8月または9月に月額変更届、育児休業等終了時報酬月額変更届の提出を予定している人で、月額変更届、育児休業等終了時報酬月額変更届が不該当と判明した際には、算定基礎届を速やかに提出する。

2.厚生年金の保険料

[1]平成26年9月分(同年10月納付分)からの厚生年金保険料(厚生年金基金加入者は除く)

区 分 変更前
[平成26年8月分まで]
変更後
[平成26年9月分から]
一般の被保険者 17.120%(8.560%) 17.474%(8.737%)
船員・坑内員の被保険者 17.440%(8.72%) 17.668%(8.844%)
(例) 
一般の被保険者
(標準報酬月額 20万円)
34,240円(17,120円) 34,948円(17,474円)
<708円(354円)の増額>

※(  )内は被保険者負担分。
 被保険者負担分=その被保険者の標準報酬月額×保険料率÷2(保険料は事業主と被保険者とが半分ずつ負担する)

[2]厚生年金保険の保険料率の段階的引き上げ
 平成17年9月以降は毎年9月分より0.354%ずつ(船員・坑内員は0.248%)引き上げられ、平成29年9月以降については18.300%に固定される。

適用期間 厚生年金保険料率
一般 船員・坑内員
 平成26年9月分から平成27年8月分まで                  17.474%                   17.688% 
 平成27年9月分から平成28年8月分まで 17.828%  17.936% 
 平成28年9月分から平成29年8月分まで 18.182%  18.184% 
 平成29年9月分以降 18.300%


3.標準報酬月額の切り替えに伴う実務

 給与計算前に注意すべき点をリストアップして、チェックしながら処理を進めるとミスを防ぐことができる。以下、チェック項目とその留意点を説明する。

<給与計算時>
年金事務所より送付(8月上旬から9月上旬)されている「標準報酬決定通知書」に記載のある標準報酬月額と、給与計算で使用する標準報酬月額は一致しているか?
給与から控除する保険料額と厚生年金保険料額表※の金額は一致しているか?
※全国健康保険協会(協会けんぽ)管掌の健康保険の保険料率については、都道府県ごとに異なるので、都道府県別の保険料額表を使用する。また、健康保険組合における保険料額表等については、加入する健康保険組合の設定による。

[参考]給与ソフト使用の場合は、給与ソフト会社から送られているお知らせに従い、ソフトの保険料率変更を行う。給与計算を外注している場合で厚生年金基金に加入している場合は、新掛金率を外注先に報告する。

9月分保険料を控除する給与を確認する。

<給与支払時>
社員に新しい標準報酬月額を通知したか?
※ 定時決定に限らずに、資格取得時決定、随時改定等の際にも、社員本人が自らの報酬と標準報酬月額に違いがないか確認できるよう、標準報酬月額の通知をする必要がある。

[参考]正当な理由なく通知しなかった場合には、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。通知方法は、事業主に任せられており決められた様式はないが、日本年金機構HPで例示されている。

<保険料納付時>
10月20日前後に送付される「納入告知書」(=9月分保険料)に記載された保険料額が、社員の給料から控除した額と事業主負担額の合計額と一致するか?
[金額が大きく異なる場合に考えられる原因]
(ア)給与計算時に、標準報酬月額が正しく変更されていない人がいる。
(イ)資格取得届、資格喪失届、賞与支払届、月額変更届の提出が、年金事務所の締日に間に合わなかったため「納入告知書」の金額に反映されていない(この場合は翌月以降の「納入告知書」で調整されることになる)。
(ウ)9月に40歳※1、65歳※2、70歳※3に到達した人がいる。
到達日は誕生日の前日となるため、注意が必要。
(例)10月1日生まれ=9月30日到達日となる。
※1 40歳到達月以降:介護保険料の加算が始まる。 
 2 65歳到達月以降:市区町村に介護保険料を納付することになり、給与から控除しない。
 3 70歳到達月以降:健康保険料のみの負担になる。
 上記(ア)から(ウ)について確認を行っても原因が分からない場合は、管轄の年金事務所に問い合わせてみるとよい。
[参考]保険料額の簡単なチェック方法
 給料から控除した金額の2倍と、年金事務所への支払額(児童手当拠出金を除く)がほぼ一致すれば問題ない(端数処理があるので1円単位で一致しなくてもよい)。

 

4.保険料控除の間違いに気付いたとき

 給与の支給後に誤りに気付いたときは、社員の了解を得てその後の給与で過不足分を調整する。社会保険料の項目以外で調整を行うと、所得税額が変わってしまうので、必ず社会保険料の項目で行うこと。調整後は、正しい保険料額に戻すことを忘れないように注意する。

5.その他のお仕事

 10月から地域別最低賃金額が変更となるので、パートやアルバイト社員の10月以降の時給が最低賃金を下回っていないかチェックする必要がある。平成26年度の地域別最低賃金は全国加重平均16円(昨年は15円)と増加幅が大きいので注意が必要である。地方最低賃金審議会から答申された改定額は、各都道府県労働局での関係労使からの異議申し出に関する手続きを経て正式に決定され、10月1日から順次発効予定である。
 最低賃金の水準は、厚生労働省のHPで確認することができる。

平成26年度 地域別最低賃金額改定状況

都道府県名 最低賃金額
(円)
引き上げ額
(円)
発効月日
全国加重平均額 780(764) 16  
北海道 748(734) 14 10月8日
青 森 679(665) 14 10月24日
岩 手 678(665) 13 10月4日
宮 城 710(696) 14 10月16日
秋 田 679(665) 14 10月5日
山 形 680(665) 15 10月17日
福 島 689(675) 14 10月4日
茨 城 729(713) 16 10月4日
栃 木 733(718) 15 10月1日
群 馬 721(707) 14 10月5日
埼 玉 802(785) 17 10月1日
千 葉 798(777) 21 10月1日
東 京 888(869) 19 10月1日
神奈川 887(868) 19 10月1日
新 潟 715(701) 14 10月4日
富 山 728(712) 14 10月5日
石 川 718(704) 14 10月5日
福 井 716(701) 15 10月4日
山 梨 721(706) 15 10月1日
長 野 728(713) 15 10月1日
岐 阜 738(724) 14 10月1日
静 岡 765(749) 16 10月5日
愛 知 800(780) 20 10月1日
三 重 753(737) 16 10月1日
滋 賀 746(730) 16 10月8日
京 都 789(773) 16 10月22日
大 阪 838(819) 19 10月5日
兵 庫 776(761) 15 10月1日
奈 良 724(710) 14 10月3日
和歌山 715(701) 14 10月17日
鳥 取 677(664) 13 10月4日
島 根 679(664) 15 10月5日
岡 山 719(703) 16 10月5日
広 島 750(733) 17 10月1日
山 口 715(701) 14 10月1日
徳 島 679(666) 13 10月1日
香 川 702(686) 16 10月1日
愛 媛 680(666) 14 10月12日
高 知 677(664) 12 10月26日
福 岡 727(712) 15 10月5日
佐 賀 678(664) 14 10月4日
長 崎 677(664) 13 10月1日
熊 本 677(664) 13 10月1日
大 分 677(664) 13 10月3日
宮 崎 677(664) 13 10月16日
鹿児島 678(665) 13 10月19日
沖 縄 677(664) 13 10月8日

※「最低賃金時間額」欄の( )内は平成25年度のもの。

永井 由美 ながい ゆみ
永井社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
ホームヘルパー2級 福祉住環境コーディネーター

平成18年永井社会保険労務士事務所開業。年金事務所年金相談員、労働基準監督署労災課相談員、雇用均等室セクシャルハラスメント相談員、両立支援コーディネーターの経験を活かして、講師、年金相談、労務管理を中心に活動中。親の介護を通じて介護保険に興味を持ち、千葉市の介護保険関係審議会委員(平成19~22年度)を務める。著書「社労士業務必携マニュアル」(共著・日本法令)
◆永井社会保険労務士事務所  http://119nagai.com/

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