2014年10月10日掲載

Point of view - 第28回 曽和利光 ―「できる」採用担当者の習慣 ~会社を成長させる「口説ける採用担当者」になるには~

「できる」採用担当者の習慣 
~会社を成長させる「口説ける採用担当者」になるには~

曽和利光  そわ としみつ
株式会社人材研究所 代表取締役社長
組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒。㈱リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命㈱総務部長、㈱オープンハウス組織開発本部長と人事採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に㈱人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書に『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール』(東洋経済新報社)、『「できる人事」と「ダメ人事」の習慣』(明日香出版社)、DVD『120分でわかる!! 就職面接の新常識』(ヒューマンアカデミー)。
人材研究所ホームページ http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

 

「ダメ」採用担当者が会社の成長を止める

 人事実務家から転じて人事にサービスを提供する側に回って思ったのは、残念ながら採用担当者が会社の成長の「ストッパー」になってしまっている例が結構あるということである。事業モデルが確立され、ファイナンスにも成功し、さあ今度は組織作りのアクセルを踏むぞという時に、採用が弱いとせっかくの勢いは止まってしまう。

 自分も実務家であったので自戒を込めて申し上げるのだが、採用の仕事は出来不出来が見えにくいために、成果を「粉飾」することができる。いい人を途中で誤って落としても永遠に分からない。採用した人も、結局いい人だったのかどうかは分かるまでに数年はかかる。最初から志望度の高い人だけしか来ないような高いハードルを設けて採用活動を行えば、最終面接や内定出し等の後工程での辞退率は下がり、頑張っているように見える(本当は、チャレンジしていないだけなのに)。経営者からは結果として採用できた人しか見えないので、本当にベストを尽くした結果なのかは分からない。

 このため、(悪意があるわけではないと思うが)採用担当によっては、「採用最適」(自社の採用にとって最も都合のよいやり方で)ではなく、「採用担当者最適」(採用担当者である自分にとって最も都合のよい、楽なやり方で)採用活動を行ってしまうことがある。

「ダメ」採用担当者の見分け方

 一番分かりやすいポイントは「面接数」で、面接をすることを極力避けようとする人は「ダメ」採用担当者と断言してもよい。書類選考などが厳しすぎる人は要注意で、誰が見ても素晴らしいピカピカな経歴の持ち主のみ選考に上げている場合、そういう方は引く手あまたであり競合が多くなかなか採れないため、結局「経歴は立派で中身は微妙」な方を採用するようなことになりがちである。本当は、人知れず輝く「ダイヤの原石」を探し当ててこそ、採用担当者の介在価値があるというものだ。そうするためには一見すると厳しそうな候補者でも少しでも可能性があるならとできるだけ会っていかなければいけない。㈱ビズリーチ社長の南氏もおっしゃっておられたが、まさに「採用力は面接数」である。

 他にも挙げると、一見良さげで、実はダメなのが「口説かない採用担当者」だ。人を採用するのは怖い仕事で、人生を狂わせることもあるため(早期退職やメンタルヘルス問題等)、感受性の強い優しい人(人事には多い)は、その責任を負いたくないと思ってしまう。結果、採用時に「後はあなた自身が決める」と責任を候補者に預け、あまり口説こうとしない。さらに言えば、RJP(Realistic Job Preview = 入社前に実態を伝え、候補者にセルフスクリーニングさせ、ミスマッチを防ぐという考え方)の美名の下、夢を語らないことも多い。今、持っているものだけを伝え、将来目指していることを熱く語らない。
 夢や理想と嘘は紙一重で、話者が「どれだけ信じているか」ということだけが違いである。「いまだ実現していない」という点では同じ。そのため、なるべく責任を負いたくないと思うと、夢や理想を語ることが憚(はばか)られる。しかし、成長途上にある会社に豊かにあるのは現実的な資産などではなく、夢や理想だけではないか。

 また、「完璧を装う採用担当者」も難しい。はっきり言えば、採用は「戦略」(ターゲティングやコンセプト、等)や「戦術」(予算配分やスケジューリングや実施施策、等)で勝ち負けが決まるのでなく、「戦闘」(個々の説明会や面接等での行動のクオリティ)で決まる。つまり、立派な「戦略」「戦術」があっても、日々の活動で細かい部分に神経を使いきちんと実施されてなければ、結果は悪い。
 ところが「完璧な」採用担当者は、何を聞いても「それはやっています」「手を打っています」と言う。本当は「やったか(やろうとしたか)」ではなく「できたか」しか価値はない。結果が悪いならおそらく「できていない」のだが、「できていない」ことはなかなか証明しづらく、担当者が「やってます」と言うなら、それ以上突っ込みにくい。結果、本来改善すべきところがされないままに残り、採用結果の悪さは「会社のポテンシャル」「自社のブランド力なら仕方がない」ということになる。

勇気を持って「口説ける」採用担当者になろう

 以上、三つ例を挙げたが、共通するのは「勇気がない」ということである。採用という責任重大な仕事を目の前にひるんでしまい、そこから逃げようとしている。防御し、無難に過ごそうとしている。しかし、それではダメだ。では、どうすれば勇気が湧いてくるのか。

 一つは、自分の会社や事業を愛すること。自分が信じていない、愛していないものへの入社をどうして積極的に勧められよう。愛するにはまず知ることだ。とにかく自社の現場の人々に会いまくり、話を聞き、夢を語り合うことで、どんどん愛情が芽生えてくるはず。

 もう一つは、理論を学ぶこと。人事や採用は心理学や組織論等の行動科学の応用分野の一つ。そこにはさまざまな知見があるが、現時点では人事に十分に生かされているようには見えない。経理や法務などの他の事務系専門職と異なり、人事は誰でも評論家になれる領域なので、経営者や現場のリーダーの強い力を持つ人々がどんどん介入してくる。もちろん彼らの意見は尊重すべきだが、誤っている時に抗(あらが)えるかが人事の試金石。その際、経験豊富な経営者たちにモノ申す勇気を得るため、理論という武器を持ち自分の考えに自信を持つのだ。

 以上、厳しいことを述べたが、無論自分も完璧でもなかったし、現在苦労されている採用担当者を揶揄(やゆ)するものではない。むしろ、大変さが分かっているからこそのエールと思っていただきたい。皆さん、勇気を持って、「できる」「口説ける」採用担当になりましょう!