2014年11月14日掲載

Point of view - 第30回 齋藤敦子 ―仕事を楽しむ「机」の整え方

仕事を楽しむ「机」の整え方 

齋藤敦子  さいとう あつこ
コクヨ株式会社 RDIセンター 主幹研究員/WORKSIGHT LAB.
コクヨ株式会社に入社後、設計部でワークスタイルコンサルティングからコンセプト作り、空間設計等に従事。特に、働き方や企業経営の視点で、アクティビティをベースとしたワークプレイスの構築から運営支援までを専門とし、「日経ニューオフィス賞」など受賞企業のワークプレイス構築に数多く携わってきた。現在は同社の研究開発部門であるRDIセンターに所属し、未来の働き方や働く環境についてリサーチからコンセプト発信、新規事業開発などに携わっている。また、2012年に未来の働き方と学び方をテーマとした研究機関WORKSIGHT LAB.を立ち上げ、外部協創による新しい働き方を実践している。著書に『コクヨ式机まわりの「整え方」』(KADOKAWA)。

 

処理から工夫へ、変わる仕事

 どんな職種であっても、与えられた仕事を時間内に処理するという定型的な仕事は減っている。もちろん事務作業やアシスタント業務などに携わる人は多いし、工場とオフィスを行き来するような仕事もなくならない。
 だが、この20年余で、計算や照合、検索などの作業はコンピューターがやってくれるようになり、今では分析や予測もある程度はできる。さらにロボットが仕事の一部を引き受けてくれる時代がやがて来るだろう。ビジネスの面からみても、コンピューターの処理速度がどんどん速くなり、インターネットで世界がフラット化すると、厳しい価格競争の中でこれまでの商流も変わる。新しい価値をつくり続けなければ企業は存続できないからこそ、オフィスで働く人たちの知恵や現場の創意工夫が大切なのだ。
 だが、日々変わりのないオフィスで働く人たちは毎日の仕事を楽しめているだろうか。よく例えられる「2人の石工」の話、「ただ石を積み上げている=単純労働の石工」と「世界一美しい教会をつくっている=大目的のある石工」とでは、同じ石を積み上げていても必ず仕事の成果は変わる。
 目先の仕事にとらわれていると目的を見失う。目的を見失うと無駄で雑把な仕事が増える。それは石工であれば道具や一つひとつの石の扱い方、オフィスワーカーであれば机の上や業務の手順に現れる。そして、大目的を持っている石工のように、積み上げることが楽しくなるといろいろなアイデアも浮かんでくる。
 机の整理ができずに困っている場合は、仕事の進め方になんらかの問題があるはず。仕事の目的、時間、楽しさという三つのポイントをまず考えてみてはどうだろうか。

机が変わると気分も変わる

 私は十数年オフィスデザインの仕事をしてきたが、オフィスはそこで働く人たちのコミュニケーションや組織文化をつくる重要な「場」であることを痛感している。自宅の間取りや家具にこだわる人が増えているが、光や配置を工夫するだけで人間の気持ち、行動やふるまい方は変わる。今は企業経営と働き方、そしてオフィス環境の関わりについて研究しているが、実際の事例も踏まえながら、「机」にまつわる話をいくつか紹介していきたいと思う。
 国内外のオフィスを訪問する機会がよくあるのだが、外国人と日本人の大きな違いは、自分が働く環境への苦情の量と質。自分が働きやすい環境であるかどうかを重視する外国人に比べて、日本人は我慢しているうちに環境に慣れてしまうようだ。だが、オフィスについて聞くと「打ち合わせする場所がない」「書類を置くスペースがない」「電話の声がうるさい」などの問題は続々出てくる。これらの問題は一見、大きな改装でもない限り解決できないようだが、個人や部門レベルでできることもある。それが「机」を整えるという考え方だ。
 日本人は真面目で仕事も丁寧である一方で、机まわりやオフィスが汚いことが多い。ごちゃごちゃしているからこそ創造性が生まれるという天才タイプもいるが、整理整頓されているオフィスのほうが組織としての生産性は高い。これは机やオフィスという物理的環境だけではなく、仕事も整理整頓=見える状態にしておくことがポイントである。机の上になにも置かないというのではなく、目的と時間軸でなにをどこに置いたら仕事がしやすいのかを自分で考える癖をつけて、毎週1回10分でも整理整頓の時間を決めれば、机をいつも最適な状態にできる。
 また、アイデアを練りたいときや集中したいとき、場所を変えるのも効果的だ。人間は同じ環境だと飽きてしまい想像力も働かなくなる。離席していると「サボっている」という会社もあるかもしれないが、自席周りのちょっとした打ち合わせや休憩コーナーを工夫して、シンキングコーナーなど名前をつけると仕事の場所は広がる。

コミュニケーションが生まれる机を

 オフィスにある「机」は大別して、一般的な仕事をするデスク、打ち合わせや会議をするテーブル、物や書類をやりとりするカウンターという三つのタイプがある。デスクで個人作業を行い、テーブルで共同作業をするイメージが強いが、先進オフィスはこの境目が曖昧だ。デスク周りで共同作業をしたり、テーブルで個人作業と共同作業を交互に行ったり、カウンターでアイデア出しをしたりする会社も少なくない。
 なぜかと言うと、仕事の中身が処理から工夫へと変わったため、個人の集中作業とチームの共同作業がシームレスにつながる必要があるからだ。もともとベンチャー企業はこういう働き方で事業を成長させてきたが、大企業になるとこのようなダイナミクスが失われることが、今問題になっている。
 コミュニケーションの問題を挙げる企業は多い。自席と会議室を行き来するだけでは良いアイデアは生まれないし、日々起きている問題も解決できない。フラットに話ができるラウンドテーブル、短時間でアイデアが出せるハイカウンター、マネジャーに話かけやすい机の配置など。机の上に話題の本を一冊置いておくだけでも、コミュニケーションが生まれやすくなる。
 多くの企業が未来の顧客ニーズに応える商品やサービス、市場を創っていかなければならない時代に、全社員が楽しみながら創意工夫できる会社は強い。同時にインターネットによるコミュニケーションの希薄化に陥らないためにも、リアルに顔を合わせながら働くオフィスへの期待も大きい。自分なりの「机」の整え方を、ぜひとも考えてもらえればと思う。