"叱れない""伝わらない"人に薦めたい「心の報酬の渡し方」
西村 貴好 にしむら たかよし 一般社団法人日本ほめる達人協会 理事長 「泣く子もほめる!」ほめる達人。ほめる効果を活用し、さまざまな企業のスタッフ・商品・サービスの価値を高める切り口を提供。橋下元知事が大阪府の調査を2年連続で依頼。その様子をNHK「クローズアップ現代」で全国放送。NHKが"日本の心の内戦を終わらせる取り組み"として2年間で20回取り上げる。その他「月曜から夜ふかし」(日本テレビ)などTV出演多数。 著書は「繁盛店のほめる仕組み」(同文館出版)、「ほめる生き方」(マガジンハウス)をはじめとして6冊。 |
ありがとうの反対「当たり前」の中に価値を見つけて伝える
"叱れない"そんな悩みを持つ管理職が増えている。
「相手のためと思って伝えたことが、パワハラだと感じられてしまう」
「マネージメント層が部下とのコミュニケーションがうまくとれなくて組織が硬直化してしまう」
そんな人事担当者の悩みが、当協会に寄せられることが多くなってきている。特に大手企業では、ここ数年その深刻さが増しているようである。
実際、昨年に比べ本年、ほめ達協会の企業研修案件は、一部上場企業を中心に20%以上増加しており、講師の派遣が追いつかないほどのペースでさらに増え続けている。
研修で伝えていることは、すごくシンプルである。そして、誰でも実行可能なこと。
それは、"当たり前の中に価値を見つけて伝える"こと。無意識の意識化である。
人は「本能」でダメ出しをする。「ほめる」ことには覚悟が必要。意識して、相手の良いところを探す、その覚悟が必要なのである。ほめて伝えると、最高の返事(行動)をもらうことができる。
2012年に当協会と同志社大学の太田肇(はじめ)教授、そして住友生命で実施した共同研究では、「ほめ達!」(※)を組織内で実践することで契約数が19.59%上昇することが証明された[図表]。「ほめる」ことは道徳的に良いだけではなく、実務的に経営に効果があるのである。そして、「ほめられた・認められた」という実感は、相手に心の報酬を与えることになる。
※ほめ達!=目の前の人や物・商品やサービス、起きる出来事などに独自の切り口で価値を見つけ出す『価値発見の達人』のこと
[図表]保険会社S社の営業成績
人はただ、ほめられたいのではなく、自分が誰かの役に立っていることを知りたい、誰かから感謝されたい生き物である。「ほめる」というとハードルが高くなるが「ありがとう」を増やすところから始めてみるのがお薦めである。
ありがとうの反対は当たり前。当たり前の中に感謝を見つけることができれば、職場に感謝の量が増え始める。
「ほめずにほめる」八つのポイント
口べたの人でもほめる達人になってしまう方法。それが「ほめずにほめる」。
「ほめる」とは、目上の人から目下に対して言葉を使って良きことを言う。これが辞書に載っている「ほめる」という意味である。しかし、「ほめ達!」は言葉を使わずにほめることもできる人。相手の存在を認める、最も簡単な方法を知っている人である。その方法とはずばり、「目の前の人を味方にしてしまう話の聴き方八つのポイント」の実践。
その八つとは…
・目を見る
・うなずく
・相づちを打つ
・繰り返す
・メモをとる
・要約する
・質問する
・感情を込める
「こんなことならもやっている!」という方もいらっしゃるであろう。しかし、部下や家族にいつでもやっているかとあらためて自分に問いなおしてみると、意外と怪しい。
「ほめ達!」は意識して、この八つを行うのである。特に「メモをとる」というのが有効。相手の話をメモすることで、相手の自己重要感が一気に高まる。逆にやってはいけないのがパソコンを操作しながら、あるいはスマホをいじりながら相手の話を聞くことである。面倒でも、いったん手を止め相手に向かい合うこと(相手の体におへそを向ける意識で)が大切。
この無意識の意識化が相手との関係性の変化を生み出していくのである。
「ほめ言葉」の口癖を持つ
「ほめ達!」が意識して使っている口癖がある。これを使うと誰でもほめる達人になってしまう優れ物である。「ほめ達!3S」=Sではじまる三つの言葉。
それは…
「すごい」
「さすが」
「すばらしい」
これを言ってしまうだけでOK。人間の脳は怠け癖がある一方で、考えている以上に高性能。ほめ言葉を言ってしまうと、必ずそのあとにほめる理由が頭に浮かぶのである。「ほめる」とは、怠け癖のある脳を楽しくこき使うこと。「まずほめよ!あとはそれから考えよ!」である。ぜひ、実践してみていただきたい。
微差の積み重ね
「ほめる」「叱る」のどちらが大切か
ほめる達人、「ほめ達!」は叱らない人なのか
よく聞かれる質問である。この質問に対する答えは、「ほめ達!」はものすごく叱る人。そして「ほめる」「叱る」よりも、もっと重要なことがある。それは、ほめる言葉、叱る言葉を"誰が言うか"という問題。心から尊敬する人からならば、たとえ叱られても「有り難い」と涙が出るほど嬉しい時があるように、言葉を発する人の"人間力"が最も重要なポイントなのである。ダメ出しをしたいという本能に負けず、当たり前の中から価値を見つけ取り出してみせる人。すなわち人としての魅力の高い人、人間力のある人になる。これがほめる達人、「ほめ達!」になるということなのである。
・当たり前の中から感謝を見つけ、それを言葉にして相手に伝えていく。
・普段から「ありがとう」を意識して伝えていく。
・話の聴き方を自分の表現力として活用し、話の聴き方で相手を「ほめる」。
・「ほめ達!」の口癖を普段から活用していく。
これらの微差を積み重ねることで相手の自己重要感や貢献の実感が高まっていく。
これが「ほめ達!」流の心の報酬の渡し方。
すべては微差の積み重ねからである。