2015年04月24日掲載

Point of view - 第40回 入澤敦子 ―夫の家事・育児参加が、社会の新たな絆を生む

夫の家事・育児参加が、社会の新たな絆を生む

入澤 敦子  いりさわ あつこ
旭化成ホームズ株式会社 共働き家族研究所 所長
シニアライフ研究所 所長
日本女子大学家政学部住居学科卒業。入社以来、一貫して生活研究・生活提案型商品企画およびキッチン・収納システム等家事関連の部材開発を担当し、その販促支援、社員教育に携わる。本テーマに関しては、1992年に共働き家族向け住宅「DEWKSⅡ」の商品企画以降研究開発に関わり、昨年、「DEWKSⅢ」を主幹・リリースした。合わせて高齢者関連分野を専門領域とする。一級建築士・ 早稲田大学理工学術院非常勤講師。

 

共働き家族を見つめて四半世紀・その今とむかし

 共働き家族世帯が、専業主婦世帯を逆転しようとしていた1989年、弊社に共働き家族研究所が設立されました。
 86年に「男女雇用機会均等法」が施行されたものの、女性が仕事と家庭を両立するのは、非常に厳しい時代でした。当時の妻は、言ってみればテニスコートで孤軍奮闘するシングルプレーヤーでした。コートの向こうの対戦相手は、家事・育児ばかりでなく、妻が働くことに眉をひそめる、夫や親、さらに会社をはじめとする社会の風土です。仕事をずっと続けたかった当時の私は、ここまでスーパーウーマンでないとダメなのかと、大変なショックを受けました。
 それから四半世紀を経た今、やっと !? 妻と共にコートに立つ夫が出現しました。待機児童問題等社会整備の遅れはあれど、家事育児に共に向き合うダブルスプレーヤーの出現です。コートサイドで、両親や育児支援制度を整えてきた会社も応援してくれるようになりました。

ポスト団塊ジュニア世代が、子育て共働き家族をけん引

 研究の結果、このダブルスプレーヤーは、ポスト団塊ジュニア世代が中心であることが分かりました。低成長時代しか知らない彼らは、夫だけが働くことを「生活のリスク」と捉える傾向にあります。中学・高校での家庭科男女共修世代で、夫婦で家事・育児をすることに抵抗がありません。面談で「得意なほうがやればよい」、と答える彼らは、至って自然体です。さらにその親世代、特に母親は、四半世紀前には、多くが選択肢もなく「子育て中は専業主婦」だった人たちで、子育てしながら夫婦で働こうとする子供に理解を示します。この親子両世代が、新たな家族像や生活価値観をけん引する家族だと言えるでしょう。

鍵を握るのは、「チョイカジパパ」

 イクメン・家事メンは、メディアで花盛りですが、知りたいと思ったのは、ポスト団塊ジュニア以降、30代子育て共働き世帯の夫は、本当のところどうなのか? です。弊社の調査によると、彼らの多くは、妻が子育てしながら働くことを望み、家事・育児の面でも、妻を支えたいと考えています。家事への参加状況を25年前と比べると、「食事の後片付け」は、13.6%から、46.5%に、「洗濯物を干す」は、11.7%から45.2%と大幅にアップします。とはいえ、多くの夫は、掃除や育児に参入できても、料理や洗濯には二の足を踏んでいるのが実情で、そこにトライしても空回り気味、妻からのダメだしに凹(へこ)むこともしばしば…という人たちです。この夫たちを称して「チョイカジパパ」と名付けました。

■イマドキの子育て家族30代パパ

※旭化成ホームズ株式会社 共働き研究所:2014年「子育て期共働き家族・専業主婦家族 調査」

 イクメン/家事メン(弊社では「スゴカジパパ」と命名) とはなかなかいかず、かといって、家事育児にほぼ関与しないノン家事パパは少数派、なのがイマドキの30代夫です。4割を占めるチョイカジパパは、言ってみれば伸び代が大きい夫たち。その成長が家族の幸せ、ひいては、新たな男女協働社会のカギを握ります。

チョイカジパパが、新たな男女協働社会の絆を生む

 チョイカジパパが頑張れる要因は、子供たちの笑顔です。調査から、パパが家事に向かう姿を見ている子供のほうが、よくお手伝いをするという結果が出ています([別表]参照)。家事に参加する夫の背中が、次の世代の意識と行動を変えていくのだと思います。
 一連の研究で出会った共働き夫婦で気になることがありました。心身共に逞(たくま)しく元気な妻たちに比べて、夫たちは「とにかく大変なんです…」と伏し目がちにつぶやき、元気がなかったことです。妻は時間と体力の面では、知れば知る程大変ですが、その生き方は社会的に認知されています。しかし、家事・育児のスキルアップを望むチョイカジパパこそワーク・ライフ・バランスをとらなければ生活が回らないのに、社会的に、また職場でも、共通認識されていないのだと推察します。彼らは家庭人と社会人との板挟みの状態にあり、自分の行動に迷いもあり、ため息も出るのだと思います。
 はっきりしていることは、彼らは、男女協働が基盤となる家族と会社への架け橋をつくり、自ら渡ろうとしている人たちだということです。取り巻く関係者がその実態と悩みを理解し、総出で後押しをすることが今一番必要だと思っています。

■別表:父親の家事育児への関与とその子供のお手伝い状況の比較

※旭化成ホームズ株式会社 共働き研究所:2014年「子育て期共働き家族・専業主婦家族 調査」