2015年08月14日掲載

Point of view - 第47回 河本英之 ―画一的ではない、戦略的に育てる採用

画一的ではない、戦略的に育てる採用

河本 英之  かわもと ひでゆき
シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
上智大学経済学部経営学科卒業。2005年、新卒で株式会社リンクアンドモチベーションへ入社。
2010年、シーズアンドグロース株式会社設立。
採用戦略から組織人事領域に従事し、大手・中堅・中小企業など規模を問わずのべ約500社を担当。
採用コンサルティング(求める人物像設計、インターンシップ設計、会社説明会設計、面接官研修、リクルーター研修、内定者研修など)・育成コンサルティング(新入社員研修、マネジメント研修、理念・ビジョン策定など)の経験を持つ。
シーズアンドグロースWEBサイト
http://seeds-and-growth.p1.bindsite.jp/

 

■就職サイトに頼るだけでは、採用成功はない時代

 就職サイトの出現により、新卒採用へのエントリー学生の数は格段に増えた。企業側としてはより多くの学生に集まってもらえるようになり、採用活動における母集団形成を以前よりも楽に行えるようになった。これは、事実であり、多くの企業が就職サイトを利用する理由であると思う。
 しかし、そんな就職サイトにも、少しずつ疑問の声が上がりつつある。ある企業の人事の方からは、「母集団が多くなりすぎて、本当に全学生が当社を志望しているか分からない」という話も聞く。エントリーが簡単になり、その分動機の弱い学生も増えたことで、「本当に自社を志望しているのか」を見極める必要が出てきた。
 適性診断やWEBテストなど、数値で学生を評価する選考フローを取り入れる企業もある。確かに効率性という面では、人事の負担を減らすことができる。ただ、そこでフィルターをかけたはずが、自社への理解が著しく低い学生が上がってくるなど、「本当に適性診断やWEBテストで、学生を見極めることができているのか」については、疑問の残る結果も出ている。
 学生としても、就職サイトの出現により職業選択の幅、企業選択の幅は大幅に広がったが、「企業数が多すぎて、正直、違いが分からない」という声もよく聞く。また、多くの企業にエントリーが可能になったことに伴い、エントリーシートやWEBテストの期限に追われ、企業研究に割く時間が少なくなっている現状もあるようだ。そんな状況が続けば、「この会社に入りたい」という強い入社動機を持つ学生はますます少なくなってしまう。
 就職サイトやWEBテストなどは、採用活動を効率的に進めることを可能にした。その反面、企業・学生双方にとって、お互いにとって適切な相手を見つける上では、根本的な解決策にはなっていないのではないだろうか。

■「集める」だけではなく「育てる」採用へ

 こうした背景を踏まえ、これからの時代は、就職サイトを使って「集める」だけの採用から、学生を「育てる」ことを見越した採用が主流になる、と考えている。「育てる」採用とは、選考を通して学生自身に働くことを考えさせることで、自分で決断できる状態まで成長させる採用活動のことである。
 以下では、拙著「本質採用」(クロスメディア・パブリッシング刊)に記載している、「集める」採用から、「育てる」採用に変える方法を、一部ではあるが皆様にお伝えしたい。採用活動でお悩みの人事の方々の一助となれば幸いである。

■入社後のキャリア(期待)を明確に示す

 まず採用活動を抜本的に変えていくために、私はお客様企業に対して、「学生に入社後どうなってほしいか」を明確にするところから始めてもらうようにしている。おそらくどの企業も、「人事ポリシー」などの形で入社後の理想像について、言語化ないし具体化しているものがあると思う。しかし、言語化し、かつ明確な定義づけができている企業は、あまり多くないのではないだろうか。
 例えば、「常にチャレンジし、成長を目指す人財」という人事ポリシーがあったとする。この場合、「チャレンジする」も「成長」もあくまで手段であり、「何を目指すか」が明確になっていないことが分かる。これでは、学生も入社後「何を目指す」べきなのか、はっきりとしたイメージを持つことができない。
 一方で、弊社の場合、「5年で(既存・新規事業の)経営者、3年で一流のコンサルタントとなること」という目標を学生に提示している。経営者とは、営業・制作・マネジメントの三つができる、究極のビジネスパーソンと定義している。その上で、入社1年目から5年目まで年次ごとに分けて、何を学ぶべきかを言語化している。
 このように、まず入社後の目指すべき姿を明確に言語化・定義づけする。そして、どのようなステップを踏めば、その姿になることができるのかまでを描く(弊社では、これを「人事ロードマップ」と呼んでいる)。そうすることで、学生にこの会社に入ったらどんな働き方を求められるのかを端的にイメージさせる。学生が持ちやすい「内定がゴール」という誤った認識も覆すことができ、入社後に向けて在学中に何をすべきかを考えさせることにもつながる。
 人事ロードマップができたら、次はそこから採用活動における、「求める人物像」に落とし込んでいく。最終的に目指してほしい姿になってもらうには、入社前にどのような素質を持っていてほしいかを考えるのである。

■大切なのは、「伝える」ではなく「伝わる」コミュニケーション

 求める人物像をもとに、次は一つひとつの選考フローでどんな事柄を伝えるか、従来の選考フローを見つめ直しながら考えていく。
 重要なのは、いかに学生に働くことの実際を伝え、自社「らしさ」を訴求できるかである。例えばグループワーク一つをとっても、説明会で伝えた内容の理解度を測るだけ、もしくは単に学生の能力を見極める目的だけで行うより、自社「らしさ」や仕事のリアルを体感させるものにするべきだ。なぜなら、学生側に自社特有の「仕事の深さ」を理解させる機会にできるからだ。
 実際の施策を例に挙げると、業界トップクラスの建材商社であるJKホールディングス様に提案した、「企業DNAワーク」がある。"企業DNA"とは、その企業らしさを四つの要素として挙げ、四つの連関性を示すことで、自社にしかない魅力を表出させたものである。このワークでは、ハイパフォーマーの社員の実際の仕事を一つのストーリーとしてまとめ、学生に読ませ、そこから四つの企業"らしさ"である、"企業DNA"を抽出してもらった。
 ストーリー形式で読むため、学生はより自分が社員になったような気分で読むことができる。そして表層的な業務のやり方だけでなく、現場社員の仕事へのこだわり、なぜその仕事を行っているのかという、「仕事の深さ」の部分を擬似体験することにもつながった。また最終的に"企業DNA"という形でアウトプットすることで、その企業らしさとは何かを学生自身が深く考えるきっかけづくりともなった。こうした施策を通じて、同社の採用人数の確保・内定者の質は向上した。
 最後に、企業の人事の方々に伝えておきたいことがある。まず、「"自社らしさ"のない企業はない」ということ。そして大切なのは、その自社"らしさ"をどのように学生に「伝わる」コミュニケーションとして意識させ、自社で働くことを考えさせられるか、ということである。
 本稿を読んでご興味を持たれた方は、ぜひ一度『本質採用』を読んでいただきたい。自社の採用改善の糸口としていただければ、幸いである。