2015年10月23日掲載

Point of view - 第52回 竹中淳人 ―自社の10年先を見据える人事採用担当者である「次世代プロフェッショナルリクルーター」の育成を!

自社の10年先を見据える人事採用担当者である
「次世代プロフェッショナルリクルーター」の育成を!

竹中 淳人  たけなか あつと
ATConsulting 代表
2005年大学卒業後、ワークスアプリケーションズ入社。採用責任者として、インターン志望者数No.1や「後輩にお勧めしたいインターンシップ」6年連続No.1を実現し、年間応募者数を800%UPの8万人まで拡大。
2013年に「顧客の自立を促すコンサルティング」をコンセプトに独立し、「戦略的リクルーティングデザイン」「次世代プロフェッショナルリクルーター」等の採用論を構築。採用戦略や採用ブランド、分不相応人財採用等のコンサルティングや経営者や人事担当者向けの研修を行う。
 ATConsulting webサイト: http://www.atconsult.jp

 

今後さらに人財獲得戦争が激化し、「採用力」の差が「競争力」の差に直結する時代へ

 10年後の2025年、東京オリンピック開催から数年後、これまで以上のボーダーレス化や技術進化に伴い、業務の種類・専門性は増し、企業間競争も加速すると想定される。
 労働市場は、2025年に45歳以上が労働人口の約60%を占め、全体として現在より約200万人が減少すると予測されている。働き方自体の多様化に加えて、介護等で働き方に制限がかかる人たちも増加の一途である。
 各社では、労働力を確保するため既に外国籍採用も進めているが、日本の良さでも、悪さでもある「曖昧さ」「不透明さ」から、外国人にとって入社したい企業に日本企業はほとんど選ばれていない(一例を挙げると、universum社「世界で最も魅力的な企業ランキング」など)。
 質的にも、日本の中・高等教育における基礎教育・専門教育が現在とあまり変化がない場合、ビジネス界との人財要件の需給バランスは悪化の一途をたどるだろう。採用市場も、質的な要件を満たせない状態に加えて、量的にも不足することが想定される。マクロ的には国内市場の需要が縮小すれば、逆に労働力過剰になる可能性もあるが、それは多くの企業が高い成長を続けることが困難になることを意味する。企業競争力は採用競争力で決まるといっても過言ではない「人財獲得戦争」時代に突入していく。

人事の重要性は上がってきているが、人事採用担当者の重要性は?

 その当時賞賛された、終身雇用年功序列時代に培われた人材マネジメントは、現在以下のような歪みを生じさせている。

  • 新卒一括採用が中心で、労働市場の流動性が少ない状態が継続
  • 面接数時間で雇用を決めるが、雇用規制により、入社後約40年間は基本辞めさせられない
  • 労働組合との交渉力・調整力が重視される管理型マネジメントが主流で、採用や育成よりも、制度設計や報酬・評価に重きを置く
  • 労働市場の流動性の少なさが、ミスマッチの生みやすさ、失敗できない文化、フィーリング型HRM(組織内での立ち回りがうまい人間が昇進するなど)を醸成

 その結果、今では人事活動の多くは、先進国の10~15年近く遅れていると言われる。
 採用領域においても、人事担当者が片手間で採用活動を実施する「季節労働的採用活動」、2~3年で人事採用担当をローテーションし、前任の踏襲または話題性優先の打ち上げ花火的採用を行う「ジョブローテーション型人事」、採用支援企業の提案をそのまま受け入れる「採用支援企業依存型採用」といった状況が継続している。
 これにより「採用競争力=企業ブランド順」という構図は揺らぎないものになっている。

日系企業は、「戦略人事」の前に、「戦略採用」を

 日本でも「管理型人事」から経営に貢献する「戦略人事」への転換が必要と言われて久しいが、D.ウルリッチの人事の四つの役割(戦略のパートナー/管理のエキスパート/従業員のチャンピオン/変革のエージェント)である「戦略パートナー」「変革エージェント」にはなかなかたどり着いていない状況がある。
 個人的に、日系企業には「戦略人事の前に、戦略採用が必要であり、戦略採用が前提で、戦略人事が成り立つ」と考えている。
 たとえ話になるが、企業が動物園だとした場合、日系企業の人事活動は不思議なもので、動物園のおり(制度)の種類・強度、餌(報酬)の種類、餌やり(評価)のルールや仕組みを作ることに一生懸命で、その根本である「どんな動物園にしたいのか?」「どんな動物を入れるのか?」が抜けていることが多い。
 すべての種類の動物を集めたいのか? 肉食動物だけなのか? 鳥だけなのか? という「人財理念」を決めるところから、まずはスタートする必要があるのではないか。

企業ブランドに頼らずに優秀な人財を採用できる
「プロフェッショナルリクルーター」の育成を

 日本では採用活動の多くを採用支援企業に任せてしまうことが多く、自らの力で採用ブランドを培っていく経験をしている人事が非常に少ないように思う。
 特に採用マーケティング・採用ブランディングに疎く、人事が自社を魅力的に表現できない段階では、優秀な人財と接触することは難しいであろうし、採用するためには、その優秀な人財から見て、魅力的な人事でないと、採用にはつながらない。
 したがって、採用競争力を向上させるためには、外部ベンダーに採用を任せるのではなく、優秀な人財と接触でき、かつ魅力的に思われる人事採用担当者をまずは育成する必要がある。
 その解決策となるのが、採用競争力を生み出す源泉となる『次世代プロフェッショナルリクルーター』である。
 次世代プロフェッショナルリクルーターとは、

  • 経営陣と同水準で、5年後10年後の経営を見据える
  • 人事責任者と同水準で、人財マネジメントに長けている
  • 自社の経営戦略から、人財戦略・採用戦略を立案できる
  • 企業の5年後10年後を見据えた採用をデザインできる
  • 毎年変化する外部・内部状況に柔軟に対応する
  • 国・人種を越えて、必要な人財を定義する
  • 適した母集団を集め、選考し、入社までを促す
  • それを踏まえた採用組織体制を整え、採用競争力を向上し続ける

 という要件を満たす存在である。

 経営資源である「人・もの・金・情報」で一番重要なのは何か、と問われると、ほとんどの場合は「人」と答えるだろう。経営コンサルタントである大前研一氏も、『経営の要諦は、20世紀は「人・物・金」の時代から21世紀は「人・人・人」の時代になる』と述べている。
 しかし、どこの企業も『人材を重要視している』と標榜するが、それは本当に本気と言えるだろうか?
 私が人事採用に10年強携わる中で、採用に本腰を入れている企業は以下の要件を多く実施しており、そうした企業群は、毎年高い成長率を維持していた。
 以下の要件を「採用本気度チェックリスト」として一部提示するので、ぜひ自社の現状と比較していただきたい。

 ○ 企業理念を実現する上での人財理念・人財観がある

 ○ 採用を「マーケティング」と捉えている

 ○ 売上の10%以上を採用予算に割いている

 ○ 採用を経営課題とし、経営陣が採用にコミットしている

 ○ 全社員が人事担当者、採用担当者、もしくは採用機能を担っている

 ○ トップクラスの優秀な人財を採用担当者にしている

 ○ 「集まってきた人財」ではなく、「欲しい人財」を採用している

 ○ 経営陣と共に採用担当者が、人財に対するディスカッションをする機会が
 定期的に設定されている