分厚いビジネス名著を解説するシリーズの第3弾で、原著で上下巻(ダイヤモンド社) 550ページにわたるピーター・ドラッカーの『現代の経営』を分かりやすくかみ砕いて解説しています。
第1部「マネジメントとは」で、ドラッカーの言う「マネジメント」と何か、『現代の経営』の序論「マネジメントの本質」に書かれていることを中心に解説し、第2部「『現代の経営』を読む」で『現代の経営』の序論から第5部、さらに結論までを含めた各部を解説、巻末第3部に「ドラッカーによる経営危険度チェック」というリストが付されています。
人事パーソンにとっての読みどころは、第5章「人と仕事のマネジメント」でしょうか。原著の「第4部 人と仕事のマネジメント」(第19章から第26章、以下の章番号は原著のもの)に当たる部分になります。
第19章「IBM物語」でオートメーション化により人の仕事はどう変わったかを考察し、第20章「人を雇うということ」で、人を雇うということは、他の資源と違って「人格そのものを雇う」ことであり、「個人の強み、主体性、責任、卓越性が、集団全体の強みと仕事ぶりの源泉となるよう、仕事を組織する必要がある」としています。
第21章「人事管理は破綻したか」では、人事管理論や人間関係論が機能しない原因を分析し、その盲点を指摘しています。第22章「最高の仕事のための人間組織」では、チームのメンバー一人ひとりが、チーム全体のニーズに最も合うように、それぞれ自らの作業を配置しなければならないとしています。第23章「最高の仕事への動機づけ」では、外からの動機づけでなく、内からの動機づけを行う必要があるとし、「正しい配置」「仕事の高い基準」「自己管理に必要な情報」「マネジメント的視点を持たせる機会」の四つを企業は提供していかねばならないとしています。
第24章「経済的次元の問題」では、経済的な報酬についての不満は、仕事に対する阻害要因となるとして、継続的に人を雇い続けるための雇用賃金プランの重要性を説き、第25章「現場管理者」では、現場管理者に求められるものは何かをまとめています。第26章「専門職」では、「彼ら(ここではスペシャリストの意味で用いている)は所属する部や課ではなく、彼ら自身の持つ仕事に責任を持つ」という点で経営管理者(マネジャー)とは異なっているとし、専門職を生産的な存在とするための五つの要件を掲げています。
本書は、あたかも逐条訳であるかのように原典に忠実にまとめられ、さらに、太字など用いてポイントが分かりやすくなっています。必要に応じて、書かれた当時の背景なども解説されていますが、60年以上も前に書かれた経営の原理原則が、今もってわれわれの思考に響いてくるというのは、ドラッカーの洞察力のスゴさを物語っているように思います。
著者は『現代の経営』を「世界最古世界最小の経営のツボ全集」としていますが、それでも原著にいきなりとりかかるのはやや覚悟がいるかも。本書は原著の要約本としてもよくまとまっていますが、原著への橋渡しとしても格好の本であるように思いました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年2月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー