2016年03月15日掲載

目標管理で必ず結果を出す企業の作法 - 第4回・完 確実に成果を上げる目標管理活動と管理職教育の進め方


中村 壽伸
株式会社日本経営システム研究所
代表取締役社長

1.「週間(習慣)ミーティング」の重要性

 前回の解説で、QCなどこれまでの管理・改善活動は基本手順が確立され、成果を上げる下地ができていたのに比べて、目標管理に関しては、そうした確立された手順がほとんどないに等しい状態であることを指摘した。そのため、目標管理の運用プロセスでは、適切な目標を設定するところから計画作成、目標管理活動の進捗(しんちょく)管理、成果の再現性向上や問題の再発防止まで、管理職が部下を的確に指導することを予定した場面がもともと少ない。その原因の一つは、目標管理が人事制度の一部と誤解されているところにあると、この連載では指摘してきた。主体性のある人にしてみれば、目標達成の日常管理は社員が自主的に実施して当たり前と考えるかもしれない。しかし、実際にはそのような人材は少ないとの前提に立って日常管理の仕組みを作らないと、いつまでたっても達成度が上がらない結果を繰り返すことになる。
 目標達成活動を活発化させるためには、チームリーダーが力強くけん引することが欠かせない。忙しい日常業務の合間を縫っての目標管理活動には、「余計な仕事だ」「やらされ感がある」といった反発もあろうが、そうした状態から抜け出して、習慣になるまで粘り強く働き掛けていく外ない。目標管理活動はわれわれの仕事の中心だと理解され成果を出していくには、日常業務に優先させる必要がある。「目標管理は業績向上の重点項目実現活動である」ことへの理解を広げていくためには、日常業務を工夫して時間を捻出することを当然と考える習慣が欠かせないのである。そこで、重要となるのが定期ミーティング、筆者がお薦めする「週間(習慣)ミーティング」である。目標管理活動に成功しているチームリーダーが実践しているポイントをまとめると[図表1]のようになる。

[図表1]週間(習慣)ミーティングの進め方10カ条

1.定期開催
目標管理活動は、チームリーダーが定期的なミーティングを開催し全員で進める。

2.スケジュール化
ミーティングは毎週○曜日の○時から○○分間と定め、手帳に書き込ませて習慣化する。

3.目標管理活動の優先化
日常業務が立て込んでいても、ミーティングへの参加を優先することを固い約束とする。

4.役割分担
メンバーそれぞれにチーム活動における役割を割り振っておき、誰もが居心地の良いチームにする。

5.プランは逆算する
活動は積み上げるよりGOALから逆算するほうが確実に期日に間に合う。

6.見える化する①
目標、スケジュール、役割分担、進捗状況を大きな紙に書いて貼り出す(PCに入れたものは見ない)。

7.見える化する②
週間ミーティングは貼紙の前で実施し、進捗を記入しながら進める。

8.率先垂範
ミーティングはチームリーダーが口火を切って報告し、話し合われたことは壁紙に記載する。

9.支援的態度
遅れ気味でも叱らずに、「どう支援すれば次の期日に成果を報告できるか」と質問して協働姿勢を示す。

10.確認
次回ミーティング日時、修正目標、修正スケジュールを確認して解散する。

 目標管理は「management by objectives through self-control」であるが、活動を部下の自主性に任せよと言っている訳ではない。管理職は部下を、目標に主体的であり、深く考え、精力的に活動する人材に育てよとの意味であり、各人を人として信頼することの重要性を認識しながらも、仕事の成果を信頼しきってはいけないと言っているのである。このような人間観に基づいて目標管理で成果を上げるには、管理職による部下への動機づけや支援的態度が大変に重要なのである。

2.「管理職の目標管理教育」と「考課者教育」の違い

 目標管理を人事制度の一部と理解している企業では、管理職対象の目標管理教育を専門的に実施することが少ないようにみられる。教育らしきものと言えば、考課者教育の一部に取り上げられる程度ではないだろうか。一般的な管理職向けマネジメント教育だけで目標管理への理解が十分に得られるとは言えないので、目標管理専用のカリキュラムによる教育が必要である。目標管理教育は、成果を上げる管理職の育成に大きな効果をもたらす。まさにマネジメント教育そのものである。そこで、一般的な考課者教育と管理職・目標管理教育の内容を見比べてみよう[図表2]

[図表2]考課者教育と管理職・目標管理教育の違い

【考課者教育の一般的な項目例】

(1)人事考課手順と目標管理の位置づけ
(2)考課点数基準
(3)考課誤差の理解とその回避策
(4)評価事例研究
(5)面接の実施方法

【管理職の目標管理教育項目例】

(1)目標管理の業績管理側面と人材育成機能の理解
(2)業績向上の体系的な理解
(3)成果を上げる正しい目標の選び方
(4)自部署の目標達成が企業全体の業績向上にもたらす貢献度(事前測定)
(5)日常の目標管理活動と部下動機づけの進め方

 一般的な考課者教育における目標管理の扱いは、目標設定から達成まで社員の自主性に任せるところをできるだけ多くするべきとの誤解を生み出しやすいだけでなく、「目標管理は主として定期面接を通じて社員を指導する制度だ」と誤解させる内容になりがちである。[図表2]に示した考課者教育の項目例は分かりやすいものだが、目標管理で成果を上げるマネジメント教育としては十分ではない。
 目標管理教育の目的は、管理職が部下全員を巻き込んだ業績管理を通じて、成果向上へ導くための力を養うことにあるが、そのために強調すべきことを二つ取り上げる。
 一つは、自部署の目標達成によって全社業績にどれほどの貢献ができるのかを事前に試算して、それが意味する将来性や利益、資金への影響を共有できるようにすることである。計算自体はそれほど難しくない。損益分岐点は管理職なら通常の会話でよく使用する言葉であるが、実際には計算できる力量を持っていない場合がある。数字に詳しくない管理職であっても、1~2時間の研修ですぐに自社の損益分岐点売上高を計算できるようになるし、また損益分岐点が分かれば、現在の売上高との比較で経営安全余裕率も分かるようになる。ここまでできるようになったら次の段階として、この式を逆算して自部署の付加価値生産性向上の方策や変動費、固定費の削減で自部署が会社の利益向上にどの程度寄与すべきかを理解できるようになる。
 ここまで来れば、管理職が会社の苦しい台所事情を尻目に低い目標を立てることや、あまり意味のない目標や数値を部下に押し付けることが減るとともに、部下に対してデータの裏付けの下に目標の重要性・貢献度を説明できるようになる([図表2]目標管理教育項目例の(2))。社員は直属上司が自信をもって目標の意義を解説する姿を見て、良質な経営センスを習得することになる。
 二つ目は管理職による部下への適切な動機づけができるようになることである。これによって部下は自主的に達成活動を展開する習慣を自然に身に付けることができるようになるのだ。

3.特に重要な動機づけの心理学

 目標管理シートを「チャレンジシート」と呼ぶ企業が増えているように思う。この背景には言われたことしかやらない人や、管理職なのに言われたことさえできない人が増えているからだと想像するが、それにはさらに理由がありそうである。
 90年代初頭にバブルがはじけたころから、企業は社員の失敗を許すだけのゆとりを失ってしまい、そのころ入社した人たちは今や50代に近づいている。そうした世代と、高度経済成長下で激しく働いた世代とでは「チャレンジ」の意味するところが根本的に異なると理解する必要がある。さらに企業で働くビジネスパーソンのうち29歳までがいわゆるゆとり世代に当たるが、彼らは他の世代より現実的だと言われる。この若い世代がバブル後入社組の管理職から指導を受けていて、ダブルで世代間ギャップが広がっている状況を冷静に受け止め、対処を考えなければならない。
 彼らは共に、言われていないことにまで手を出してマイナス評価を受けるくらいなら、失敗しないでおこうとの考え方が強いと言われる。それでも他者承認欲求(人から高く評価されたいと言う欲求)は強いので、管理職が一人ひとりの存在にスポットを当てる気配りを欠かすことはできない。しかし、いくら管理職が部下に声を掛けて回り、それぞれに対して期待を表明し、また担当業務にいかなる意義があるかを説いてみたところで、部下のモチベーションが向上した様子はない。こうした日常に疲れを感じる管理職が少なからずいるのではないだろうか。
 モチベーションの高い企業では、評価点や賞与への影響を気にしている訳でもないのに、仲間に対する自発的な「援助行動」が見られる企業もある。このような精神が具体的な行動として発揮されると、組織業績向上への大きな力になる。例えば、最近までラグビーはメジャーと言えるほどの人気スポーツではなかったが、不可能と思われていた試合で大勝利を得たのをきっかけに注目を集めるようになった。注目されたのはメンバー間の見事な連携プレーであった。一躍スター選手が輩出されたのは全メンバーの協力のたまものだったのだ。
 このように組織への所属意識を高揚させ、好きな組織の勝利に貢献できたことが「自己効力感」を生み出し、それがさらに組織力を強化するという具合に、管理職の上手な働き掛けがあってこそ目標管理は多くの収穫を得ることができるのである。

 目標管理を正しく導入・活用して、御社が大きく羽ばたいていくよう念願して、このシリーズを終わりたい。

※編集部より:本連載は今回で最終回となります。全4回までお読みいただき有り難うございました。

中村 壽伸 なかむら ひさのぶ
株式会社日本経営システム研究所 代表取締役社長
学習院大学法学部卒業。銀行勤務を経て現職。企業の事業戦略と経営計画を実現する人事・組織戦略の専門家。中堅・中小企業から上場企業まで、業種を問わず500社以上の企業をコンサルティングした実績を持つ。セミナー講師としても活躍中。主な著書に「経営者は昇進・昇格する人材をどのように見分けているのか」(日本生産性本部)、「成果主義の人事・報酬戦略」(ダイヤモンド社)、「バカな人事 ~なぜ御社の人事は社員のやる気を失わせるのか~」(あさ出版)ほか多数