2017年07月21日掲載

Point of view - 第91回 多田洋祐 ―即戦力人材の転職活動から見る、プロ・リクルーターの重要性

即戦力人材の転職活動から見る、プロ・リクルーターの重要性

多田洋祐 ただ ようすけ
株式会社ビズリーチ 取締役

中央大学卒業。エグゼクティブ層に特化した人材紹介会社を立ち上げてトップヘッドハンターとして活躍。2012年、人事部長として株式会社ビズリーチ入社。現在はキャリア事業のトップとして、「ダイレクト・リクルーティング」の本格的な普及に努める。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」、20代のためのレコメンド型転職サイト「careertrek」、戦略人事クラウド「HRMOS」などを展開。
http://www.bizreach.co.jp/

少子高齢化および労働力人口減少という構造的な問題により、即戦力人材の獲得競争は激化し、人事担当者の重要性が見直されつつある。そこで今注目されているのが採用のプロフェッショナルである「プロ・リクルーター」の存在だ。アメリカをはじめとした海外では、「プロ・リクルーター」が自社で採用したい即戦力人材を自ら探し出して声掛けし、社員や経営陣などとの面談・面接を積極的に設定するなど、ダイレクト・リクルーティングを通じた採用活動を行っている。

今回は、日本における人材獲得競争の背景を解説するとともに、当社サービス「ビズリーチ」の会員を対象に実施した調査から、転職活動における「プロ・リクルーター」の役割をお伝えしたい。

1.日本で人材獲得競争が進む背景

日本で人材獲得競争が激化してきた背景には、産業構造の変化が挙げられる。総務省統計局「産業(3部門)別15歳以上就業者数の推移」によると、戦後高度成長期の日本では、製造業を含む第2次産業が全産業の30%強、サービス業を含む第3次産業は45%程度となっていた。

しかし、2000年代から始まったインターネットの普及に伴い、状況は大きく変化している。直近では、第2次産業は全産業の20%台まで低下した一方、第3次産業は約70%を占めるに至っている。

この産業構造の変化は、転職大国といわれるアメリカでも、今から約30年前に起こっている。大規模な設備投資や原材料が必要な製造業を中心とした第2次産業から、サービス業を含む第3次産業にシフトする中で、従業員のパフォーマンスが業績に及ぼす影響度合いが高くなり、結果として人材の力が経営に直結する時代になっていった。

もともと「企業は人なり」というように社員をきちんと育てる文化の強い日本ではあるが、このような時代の変化の中で「企業経営における採用力=経営力」がますます重要視されつつあるのだ。

こうした背景から、経営層をはじめとした即戦力人材を、社外から幅広く採用する動きが熾烈(しれつ)になり、人事担当者の役割の重要性が見直されつつある。そこで今注目されているのが、冒頭にも触れた採用のプロである「プロ・リクルーター」の存在だ。

LinkedIn社の『Global Recruiting Trends 2017』では、「人材採用チームが新たに雇用したい職種」として「リクルーター」が全体の33%と最も多く、「プロ・リクルーター」の注目度をよく表している。そして日本でも、外資系企業を中心に「プロ・リクルーター」は活躍し始めている。

2.「スカウトをきっかけに面談・面接をしたことがある」が57%に上る

「ビズリーチ」では、即戦力人材が企業からのスカウトをどう感じているのか調査するため、会員1515名(約8割が管理職クラス以上・平均年収996万円)を対象にアンケートを実施した。

その結果、80%が「興味がない/知らない企業からスカウトされた場合、会ってもよい」と回答。さらに57%が「実際にスカウトをきっかけに面談・面接をしたことがある」と答えており、企業からのスカウトを好意的に捉えていることがうかがえた。

さらに、企業との面談・面接を受けたことがある会員を対象に、面談・面接後の感想について質問したところ、面談・面接で人事担当者や社員に会ったことで、「その企業や仕事内容に対するイメージは良い印象に変化した」(82%)、「転職する際に、人事担当者の印象は、その企業への入社を決意する決め手のひとつになると思う」(90%)と、面談・面接は転職先を選ぶ上で大きな影響を持つことがうかがえる結果となった。

その一方で、今後のキャリア形成のための時間の確保について質問すると、53%が「転職も含めて今後のキャリアについて考えたいが、応募先を探すなどの時間をとれていない」と回答した(下図参照)。

そのため、ビジネスパーソンの中には企業からのスカウトをきっかけに、実際に人事担当者や社員、経営者などに会うことでその企業や仕事に興味を持ち、さらに転職やキャリア形成について考える人もいることが推測される。

3.企業は即戦力人材採用のために「プロ・リクルーター」を活用・育成すべき

企業の人事担当者や社員、経営者との面会は、企業への入社に影響を与える要因のひとつであることがわかった。また企業が、日本だけでなく世界でも競争力を維持する上で、自ら積極的に即戦力人材を探し出す「プロ・リクルーター」の存在は、今後ますます重要になってくると考えられる。

こうした動きの中で、当社でも「プロ・リクルーター」を活用した人材採用を進めている。その役割は、ヘッドハンティング会社出身で採用マーケットの相場観や採用ノウハウなどに知見を持つ社員や、営業出身で数字感覚に強く、事業現場をよく理解した社員が担っている。なぜなら「プロ・リクルーター」には、経営幹部や事業部長から経営戦略を日常的にヒアリングすること、採用活動のPDCAを回しながら今後必要となる人材の要件定義、採用計画の立案・実行など、幅広いスキルが求められているからだ。

今後の人材獲得競争の中で、「プロ・リクルーター」はさらに必要とされていくだろう。

しかしその一方で、「プロ・リクルーター」の要件を満たす人材は限られており、その育成が課題となっている。日本における採用担当者の在任期間が短く、採用を経営の重要課題に押し上げ、体系立てていくには時間が足りないため、専門職として育ちにくいことが要因だ。企業によっては、営業やエンジニアなど事業の最前線で活躍していた社員を、「プロ・リクルーター」として配属・活用する例も見られている。企業において採用活動が重要となっていく中で、今後は日本でも専門職として「プロ・リクルーター」を育成していくことが急務となるだろう。