2017年08月25日掲載

Point of view - 第94回 森本英樹 ―人事担当者に知ってほしい、産業医との上手な付き合い方

人事担当者に知ってほしい、産業医との上手な付き合い方

森本英樹 もりもと ひでき
森本産業医事務所 代表

医師、医学博士、日本産業衛生学会産業衛生指導医、社会医学系指導医、社会保険労務士、労働衛生コンサルタント
勤務医・大学・専属産業医を経て2013年大阪市に森本産業医事務所を開業。社会保険労務士資格を持つ開業産業医として労働衛生に関わるコンサルティングや企業の嘱託産業医、実務家視点でのセミナー講師、執筆等を行っている

人事労務担当者が、産業医との上手な付き合い方や連携に苦慮する場合の大半は、産業医に求める機能が不明瞭もしくは適切でないために起こっているように感じる。

そこで本稿では、産業保健部門で必要とされる機能を分類した上で、上記のような苦慮を解消するためには、人事労務担当者と産業医とでいかにその機能を分担・連携したらよいか、話を進めたい。

産業保健部門で必要とされる「3機能」

産業保健部門で必要とされる機能の分類には種々あるが、ここでは、①プレイヤー機能、②マネージャー機能、③コーディネート機能の三つに分ける。

①プレイヤー機能

業務を一つの単位として抽出できるものを指す。具体的には、メンタルヘルス等休職者・不調者の面談、長時間労働者やストレスチェックでの高ストレス者に対する医師の面接指導、健康診断後の面談、その他健康相談などの面談機能に加え、職場巡視、衛生委員会への参加、教育実施などがある。

このプレイヤー機能には、体(フィジカル)と心(メンタル)の両者が含まれる。

②マネージャー機能

社内で産業保健の全体像をつくり、運営する機能である。具体的には、年間計画の立案・進捗管理(予算管理含む)、新たな法令等を踏まえた社内制度策定(ストレスチェック制度や化学物質のリスクアセスメント制度への対応、働き方改革や健康経営への対応など)、従来からの安全衛生・健康管理施策の運営(健康診断の適正運営や産業保健に関係する研修計画)などがある。

これらは社内リソースを勘案しながら担当者を決め、進捗を確認しながらつくり上げていく必要がある。社内のどの部門でも、マネージャー機能がないと組織は円滑に進まないが、産業保健部門においては、その必要性を理解する者がそれほど多くないように感じる。

③コーディネート機能

例えば、健康診断やストレスチェックの運営・実施などにおいて、社内で不足する機能を社外リソースで補う場合に両者をつなぐ役割を指す。

人事担当者は、全国の事業所において(時には海外事業場や関係会社への対応も含めて)、これらの機能を誰がどう担うかを整理する必要がある。

産業医は「3機能」を担えるのか

産業医資格を持つ医師は、9万人程度いるとされる。しかしながら、産業医を専門・専業とする医師は少なく、日本産業衛生学会の専門医と指導医の合計は600人程度といまだ少数であって、専属産業医のいる大企業や企業外労働衛生機関、開業産業医を除き、第一線の産業保健を担っている大半の医師は開業医や病院の勤務医である。医者に必要なのはプレイヤー機能だと思われがちだが、医学も"個"と"集団"を対象にした学問であって、マネージャー機能も当然必要である。ただ、大半の医師は、日常診療においては個別対応が中心であることから、「3機能」のうち、プレイヤー機能以外の業務を不得手とすることが多い。

一方、産業医を専業として行う医師の場合は、企業の実務や実態に通じていることからマネージャー機能やコーディネート機能に対する企業側の期待値も高く、実際にこれら機能を担える可能性が高い。ただし、上述のとおり産業医を専業とする医師は少なく、マネージャー機能やコーディネート機能を担うためには、プレイヤー機能とは違う能力・研鑽が必要であり、中長期的な育成が必要である。

なお、人事担当者・産業医以外で「3機能」を分担できるものとして、産業看護職(保健師・看護師)、心理職、社会保険労務士がいるが、本稿では紙幅の都合から割愛する。

産業医と良好な連携をとるためにすべきこと

産業医がいずれの機能を担う場合でも、人事労務担当者と産業医との間で定期的なミーティングを開催し、守秘義務に反しない範囲で従業員についての意見交換を行うことが望まれる。

プレイヤー機能の面では、休業者・不調者・就業配慮者のリストを作成した上で意見交換することは必須である。産業医がプレイヤー機能のみを担うケースであっても、例えば、ストレスチェック制度によって産業医の面接指導が発生した場合には会社書式での報告書様式を事前に産業医に渡しておくなど、マネージャー機能を持つ担当者は産業医に対し、マネージャー機能やコーディネート機能の現状と進捗状況を定期的に伝達することが望ましい。ほかにも、今後の働き方改革に伴う労働時間規制について、会社としてどのように取り組む予定であり、産業医の面接指導をその中にどう組み込んでいくか、労働時間の情報をどのように産業医と共有するかなども重要なテーマとなるであろう。

なお、このミーティングは、衛生委員会での審議とは別枠として考えてもらいたい。衛生委員会の審議の重要性は言うまでもないが、衛生委員会では個々の休業者・不調者・就業配慮者の情報までを議論することは難しく、おのおのの産業保健施策の進捗まで共有することもまた困難である。

ミーティングの参加者として、上述した産業看護職や心理職、社会保険労務士などを含めることも検討するとよいだろう。事業規模によって所要時間は異なるが、このようなミーティングを実施していない事業所ならば、月に1回・1時間程度からまず始めてはいかがだろうか。

定期的なミーティングで見えてくるもの

こうした機能分類や役割分担について、方針が決まり規定化が進んでいる場合でも、実際に機能するか否かは担当者の力量に左右される側面があり、せっかくの役割分担も担当者の異動によって変化することもある。

定期的なミーティングを繰り返す中で、お互いの考え、あるいはお互いにできること・できないことが見えてくる。人事労務担当者は労務管理の観点から、産業医は医学の観点から、と視点が違うからこそ、この役割分担が活きてくることを念頭に置いて、相互理解に努めてもらいたい。