ほんとうの働き方改革を支える「言える化」
と「見える化」
沢渡 あまね さわたり あまね 1975年生まれ。業務プロセス・オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータなどを経て2014年秋より現業。企業や官公庁の働き方改革、コミュニケーション活性化を支援。執筆・メディア出演多数。著書に『職場の問題かるた』『職場の問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)ほかがある。 |
働き方改革。政府や企業トップが繰り返せば繰り返すほど、現場の空気はなんだか重苦しくなる。
無理もない。仕事は減らない、人は増やしてもらえない。なのに、労働時間は減らせと言われる。結局、個人の気合と根性でなんとかせい。そんな働き方改革が、うまくいくはずがない。では、どうしたらよいか?
鍵は、「言える化」と「見える化」にある。
1.残念ながら、「見える化」だけでは改善も改革も進まない
多くの企業が「見える化」に着手する。業務量の見える化、プロセスの見える化、「ムリ」「ムダ」の見える化。「見える化」は改善、改革の基本であり、その方向性は間違っていない。ところが、どんなに「見える化」をしても、なかなか良くならない。気がつけば、目先の忙しさに追われて元に戻ってしまう。そして、結局いつもの残業の日々。このような職場は少なくない。それはなぜか?
答えは単純だ。「見える化」したはずの実態が、現場のリアルを反映していない。つまり、そこに本音がないからだ。
「見える化」を進める手段の一つに、社員意識調査がある。人事部門が主管となり、全社員にアンケート調査を行う。ところが…
- 設問がすべて選択式だったとしたら?
- 記名式だったとしたら?
また、こんな話もある。
「今までこの手の調査やアンケートは、散々行われてきた。私は毎回、意見をたくさん書いた。でも、結局何も変わらないし良くならない。だから、書くだけムダ」
なるほど。これでは、社員は本音を言わない。そもそも、社員が組織を信頼していないのである。
現場の「ムリ」「ムダ」「本音」を引き出そうと、経営と現場が対話を行う例もある。経営幹部が社員と膝を突き合わせる。その取り組み自体は素晴らしいが、そこで本音が聞き出せるとは思わないほうがいい。なぜなら、(日本人は特に)部下は上司に本音を言わない生き物だからである。
こうして、言わされた感、作られた感たっぷりの偽りの本音が「見える化」する。それに、何の意味があるだろうか?
偽りの問題に対して改善策を打っても、何も響かない。働き方改革、見事に空振り!
あなたの職場は、「見える化」した気になっていないだろうか?人事部門の自己満足で終わっていないだろうか?
2.まず、「言える化」を進めよう
本音のない「見える化」は終わりにしよう。「見える化」以前に、「言える化」が大事だ。あなたの職場では、チームメンバー(社員、派遣社員、外注スタッフなど)が本音を言えているか?
「このやり方はおかしい」「この資料、ムダだと思いませんか?」「この会議って必要なんですか?」等々。本音の意見や改善提案が言える雰囲気作り、仕掛け作り、きっかけ作りをチーム単位で進めたい。そのヒントを、以下に示す。
- 「ムリ」「ムダ」「改善提案」を言う時間を定期的に設ける
- 出された意見・提案は書き留め、管理職が定期的にフォローする
- 提案者と実行者を分ける
- 進捗(しんちょく)をチームメンバーに共有する
このような「言える化」を進めている組織は、働き方改革を成功させている。
3.「言える化」「見える化」は現場の役割
「言える化」「見える化」は、人事制度でどうにかなるものではない。現場の実態は、職種によっても部門によっても大きく異なる。チームやメンバーの特性にも、大きく左右される。本社が決めた一律の物差しでは測れない。
したがって、人事部門でナントカしようと頑張らないほうが良い。現場との役割分担、すなわち、現場の管理職やリーダーが主体となって「言える化」「見える化」を推進するための協力体制の構築、巻き込みこそが重要である。
例えば、管理職向けの講演会やワークショップを実施し、「言える化」「見える化」促進のヒントやきっかけを与える。「言える化」「見える化」に貢献した人を評価する人事制度を構築する。人事部門が、このような形で現場をサポートすることは十分可能である。なお、「言える化」「見える化」を後押しするツールをまとめた拙著『職場の問題かるた』(技術評論社)が発刊された。レクリエーション感覚で、楽しく本音を引き出すのも手だ。
人事や経営企画部門が見える範囲、できることには限界がある。独り善がりな「見える化」を推し進めて、見えた気になるのは危険だ。現場の管理職と連携し、「言える化」からの「見える化」を進めよう。ほんとうの働き方改革、風土改革はこうして生まれる。