2017年10月27日掲載

Point of view - 第98回 野崎大輔 ―「ハラスメント」が起きない組織風土の構築法

「ハラスメント」が起きない組織風土の構築法

野崎大輔 のざき だいすけ
日本労働教育総合研究所 所長

中小企業の人事労務分野における紛争予防解決コンサルタントとして労働問題に対応し、支援した90%超の企業を各社が望む解決案に導いた実績を持つ。顧問先の労働問題の発生率を低減させており、社内トラブルによる無駄なコストや労力をなくし、事業の発展に専念できる環境づくりを行っている。専門誌への寄稿、取材対応、テレビ出演など多くのメディア実績を持つ。著書に『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(講談社+α新書)ほか多数。

新たなハラスメントによって疲弊する職場が続出!

最近、"分かりやすい"ハラスメントは減っているが、ハラスメントに該当するか否かの判断が難しい事例が増えている。誰でもインターネットで検索すれば簡単に情報が取れる時代だから、暴力によるパワハラや異性に対しての露骨なセクハラをしたらいけないことは分かっている人は多くなってきている。このことが、分かりやすいハラスメントが減っている背景にある。

また最近は、どちらが加害者なのかが分からない新たなハラスメントの問題が起きている。従来のハラスメントは加害者と被害者の構図が明確だが、最近は被害者が厄介な存在になり、周りが困っているという状況に悩まされている企業が多い。

上司が同じミスを何度も繰り返す部下に対して注意指導をするのは当たり前のことである。しかし、この注意指導をパワハラと言ってくる社員が増えてきている。

管理職として当たり前のことをしているのに、パワハラの加害者扱いされてしまうおかしな状況になるので、会社としてもどのように対処すればいいのか悩まされる。

筆者はこのように「ハラスメントという大義名分を武器に、言いがかりに近いことを言って周囲を困らせる行為」を「ハラスメント・ハラスメント」(以下、ハラ・ハラ)と定義した。ハラ・ハラが起きると「これはハラスメントにならないだろう」と放置しておけば「相談したのに何も対応しなかった」と今度は会社が責められるので、明らかに「それはパワハラではないだろう」というケースであっても対応しなければならず、不毛な労力が割かれてしまう。

そしてパワハラ扱いされた上司も、このハラ・ハラ社員に対する注意指導に気を遣うようになり、非常にやりにくくなっていくのだ。

誰もが幸せにならないこのハラ・ハラ問題にどのように対応していくか? これは一筋縄ではいかない問題なのである。

「裸でカラオケ」がセクハラにならない職場と、誕生会がハラスメントになる職場

昨年、ある会社の忘年会に招かれた際、セクハラと思われる場面に遭遇した。

宴が進み、社員による出し物が行われたのだが、上半身裸でカラオケを熱唱する男性社員がいたのである。

この会社の7割は女性で、セクハラと言われても仕方がない状況だった。筆者はこの様子を静観していたが、嫌そうな人はおらず、むしろ盛り上がっていてアンコールまで出ていた。後日も「あれはセクハラです」と言ってくる社員はいなかったそうだ。

一方、別の会社では社員の誕生日会を就業時間後に開催していて、みんなそれを楽しみにしていた。しかし中途入社した女性社員が、「自分は年齢がばれるのが嫌だから、こんなイベントはやるべきでないと思う」「誕生会は年齢差別に当たるのでハラスメントだ」などと言ってきた。

今までこんなことを言う社員がいなかったので社長は悩んだが、面倒なことになりそうだったので、今後は誕生会をやめることにした。

この二つの事例は対照的だ。「裸でカラオケ」がハラスメントにならない会社と、社員の誕生会がハラスメントになる会社を客観的に見れば、前者はセクハラに該当する可能性があるが、後者は普通、問題ないはずであろう。しかし実際は、前者は問題にならず後者は問題になるという不思議な結果になった。この差をどう理解すべきだろうか。

筆者は極論を言えば、一般的にパワハラ、セクハラと判断される行為であっても、当事者がそう感じなければよいのではないかと思う。

ハラスメントに限らず、労働問題は単に法律に違反しているという理由だけで起きるのではない。根本的には人間の感情、職場での人間関係、個人の価値観が複雑に絡み合ってトラブルが生じるのだ。

どんなに正確にハラスメントの定義をして予防策を講じたとしても、行為者が誰で、受け手がどのような感情を持つかによってハラスメントと感じるかどうかが変わってくるのだから、研修を実施したり、規程を制定したり、相談窓口を設置したりしても万全な予防策を講じることは難しいのである。

ハラスメントが起きない職場にするには?

では、不要な問題の発生を予防するにはどうしたらよいか?

一言でいうと、職場を良い組織風土にできるかどうかで決まってくる。これには次の三つのポイントがある。

①関係性

職場の人間関係が良好なほうが問題は起きにくい。職場における人間関係とは、上司と部下、先輩と後輩といった縦の関係と同僚間の横の関係である。

人間関係を良好にするといっても、馴れ合うことや仲良しクラブになることではない。良いことも悪いことも本音で話せるかどうかだ。そのためには職場内で信頼関係が築けているかどうかが重要となる。

②価値観

ここでいう価値観とは、仕事をするに当たっての考え方をいう。人によって物事の考え方や基準が異なるのは当たり前で仕方のないことだ。価値観がバラバラだから、まとまらないしトラブルが発生する。そこで価値観を共有する必要が出てくる。

仕事をする上でどのような意識で取り組むか、どのような行動が望まれるかといった点を明確にして共有することが大事である。

③感情

人間は感情の生き物である。理屈や正論は分かっていても、感情の影響が大きく、それによって行動が変わってくる。

ネガティブな感情を持つと些細なことでも会社に不満を持ちやすく、トラブルが起きやすくなる。職場において社員の関係性が良くなり、価値観が共有され、浸透すると働きやすい環境になるため、メンバーの感情もポジティブになってくる。ポジティブな感情の人が増えると互いの関係性も良くなり、組織風土も改善される。

これら三つのポイントを理解した上で良い組織風土をどのように築いていくかを考えていくわけだが、そのために最初にやるべきは理想とする組織像、現状、課題を明確にすることだ。それから具体的に何をやるかを考え、実行していかなければならない。