2017年12月22日掲載

Point of view - 第101回 世古詞一 ―1on1ミーティングを日本企業でどう実装するか

1on1ミーティングを日本企業でどう実装するか

世古詞一 せこ のりかず
株式会社サーバントコーチ 代表取締役
株式会社VOYAGE GROUP フェロー

1on1ミーティングで組織を変革する人事コンサルタント。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。一部上場企業から五輪・プロ野球選手など一流アスリートまで幅広く、個人と組織の変革と目標実現をサポートしている。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』(かんき出版)などがある。

組織課題の処方箋としての1on1ミーティング

「安心して任せていた優秀な部下が辞めてしまう」
「ちょっと厳しくするとすぐメンタルに支障が出る部下がいる」」
「言われたことしかやらない部下ばかり。自分で考えて動かない」

私は、組織人事コンサルタントとして日々このような声を企業から耳にします。一方、企業を取り巻く環境は「働き方改革」という旗印の下、効率的に結果を出すことに目が向けられて人材育成にまで手が回っていません。

企業が継続的な結果を出し続けていくためには、優秀な層が辞めずに自社で活躍をし、従業員が効果的に育成される仕組みをつくらなければなりません。本稿では、その処方箋として、上司と部下の一対一の対話である「1on1ミーティング(以下1on1)」の導入に向けて、人事担当者が行うべきことをご提案します。

まずそもそも、なぜ忙しいマネジャーが1on1を行わなくてはいけないのか? そこに腹落ち感がない限り、実施はされません。そこで、マネジャーに対して「①実施理由の説明、②メリットの理解、③イメージの構築」というフレームで、その動機づけを行います。

マネジャーへの動機づけ「①理由、②メリット、③イメージ構築」

まずは、1on1を行う理由です。現在、組織で行われているコミュニケーションには2種類があります。一つは、短期的な結果を出すための業務に焦点を当てたいわゆる「仕事の話」。二つめは、社員の今と未来を考える「個人に焦点を当てた対話」です。実は、現在の日本企業は、この後者のコミュニケーションが圧倒的に足りていないのです。

そして、このコミュニケーションの不足が引き起こしているのが、優秀な人の突然の退職(ビックリ退職)や、メンタルに支障が出る人の増加、評価に対する不満など、人や組織に関する諸問題です。ですから、こうした目の前に起こっている問題に対処するために、一対一の対話が必要なのです。

さらにマネジャー自身に深く理解してもらうためには、一対一の対話が必要な個人的な理由について確認をしていくとよいでしょう(例えば、まだ関係性が浅くて仕事の価値観が理解できていない等)。

次に、1on1を行うことで得られるメリットをマネジャーがしっかりと理解していくことです。ここでは、私のクライアントで見られた、1on1を行うことで得られる定量・定性的なメリットを挙げていくので参照ください。

① 部下の評価納得感の向上
② 部下の能力アップ
③ 部下の心身不調の早期発見と処置
④ 部下のやる気アップ
⑤ 部下の目標達成確率アップ
⑥ 部下の早期の配置転換による飽きの防止
⑦ 部下の退職率低下
⑧ 話のキモが伝わりやすくなる
⑨ 部下の企業ロイヤリティの向上
⑩ 人材マネジメントコストの軽減
⑪ 上司との信頼関係の構築

1on1の時間を定期的に取ることで、このような人材マネジメント業務で「後手の対応」ではなく「先手の対策」が打てるようになり、人材のごたごたに振り回されなくなることを、マネジャー自身がメリットとして考えられるようにサポートしていきます。

三つめは、マネジャーが1on1を行うことができるように、「イメージの構築」を行っていきます。人は「イメージできる」ものにはモチベーションが湧きます。そこで、「なるほど、こうやればいいんだ」と具体的にイメージできる「マニュアル」を用意します。我々日本人は、マニュアルを上手に活用します。

拙著『シリコンバレー式 最強の育て方』では、1on1の全体像がひと目で分かるよう「話し合うべき7つのテーマ」をマップ化して解説しています。そして、実際の1on1の流れを一から詳しく示すとともに、NG会話例とOK会話例を比較し、話し方や会話の持って行き方などを分かりやすく説明しております。これを参考に、自社独自の「質問集」などを作成されるとよいでしょう。

人事担当者として心掛けるポイント

マネジャーがやる気になって、やり方が分かって1on1が実施されたならば、後はどう継続させるかです。そこで、人事担当者が押さえるポイントを二つご紹介します。

(1)強制的な制度設計にしない

やらされ感のある対話は、部下にとっても逆効果になりかねません。まずは、人事が推奨という形でやる気のあるマネジャーを支援していき、成功事例をつくることを目標にしていきましょう。

(2)定期的な1on1フィードバック会の実施

個別ないし複数のマネジャーを集めて、実施内容を共有して改善していきます。また、ここで成功事例を収集したり、トレーニングを行うなどの活用を行いましょう。

1on1ミーティングを機能させるために最も大切なこと

1on1ミーティングは「部下のための時間」です。一方、従来の評価査定を中心とした「面談」は「上司のための時間」でした。その大きな違いは上司が実施することにあります。つまり、「助言する」のではなく「聴く」こと。「判断を下す」のではなく「判断を引き出す」こと。この根底にあるのは、上司と部下は人として「対等」な存在だということです。

部下は、人としてリスペクトされていると感じることで「心理的安全性」の土台が築けて、能力が開花していきます。この前提を上司が持つことが、1on1を機能させる上で最も大切なことであり、人事担当としても気にしていきたいポイントです。

ぜひ、このようなことに意識を配りながら1on1ミーティングを導入して、組織活性化の一助としていただくことを願ってやみません。