管理職必見! 思わぬ相談をされる前に必要な気配りとは
大野萌子 おおの もえこ 企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメント、ハラスメント対策の分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関等で年間100件以上の講演・研修を行う。著書、メディア出演多数。 |
なんで突然、そんな相談を……
「辞めます」という直接的な申し出でなくとも、「何を突然?」というような思わぬ相談を受け、困惑するケースは後を絶たない。
日ごろから、人材管理はコミュニケーションが大切と意識しつつも、具体的にどうしたらよいか分からず、何となく今までどおりに接していたら、思いもかけない一言が部下から発せられて面を食らう――なんてことはよくある話だ。部下のことをよく見て、分かっているつもりであっても、実際には、大きな隔たりができていたことに違いはない。そんな行き違いをなくし、変化を見逃さないようにするのも、マネジメントの一部と考える。
「けど」「でも」「ても」に注意
「やっておきますけど……」「分かりました。でも……」「そうおっしゃられても……」
あなたの部下は、こんな言葉を発していないだろうか。このフレーズは、裏に必ず部下としての「言い分」があるというサインだ。「やっておきますけど(やり方に自信がないので具体的に指示してほしい)」「分かりました。でも(一人では難しいので、誰か補助する人を付けてほしい)」「そうおっしゃられても(困っているから相談しているのに)」というように、何か含みがある表現なのだ。
したがって、このフレーズを相手が使ったときにはスルーせず、相手の気持ちや言いたいことを聞く態勢があることを示さなければならない。意を決めて相談してきたかもしれないのに、「頼むね」「任せたよ」といった対応では、部下は、言うことを諦めてしまう。場合によっては、上司に対して不服や不信感を蓄積させることにもつながる。とんでもない行き違いを起こさないためにも、相手が、このフレーズを使ったときには、「何か問題ある?」とフォローを入れたり、話を聞く姿勢を見せることが必要だ。
以心伝心は通じない
同じ職場で仕事をしていれば「当たり前に分かるだろう」と思うことでも、言葉で伝えることが大切だ。「そのくらい分かるでしょ」では、言い方によってはハラスメントに抵触する可能性もある。
一昔前までは「察しろ」「見て判断しろ」が主流だったかもしれないが、それは生活全体に経験値の蓄積があったからこそ、可能だったことでもある。今の若者世代は、バーチャル世代でもあり、実体験の積み重ねが極めて乏しい。先日、TV番組で、「公衆電話を掛けられるか」というテーマで、街行く若い人に実践させたところ、ほとんどの人が電話を掛けることができなかったというのを目の当たりにした。これは一例だが、「分かるように伝える」ことは今や必須事項であり、「当然できる・分かる」と思うのを改める必要がある。
ペットボトルから水を飲んだことがない人に、ボトルを渡して「飲んで」というのは、乱暴なのである。まず、キャップの取り方を教える必要がある。そのひと手間ができるかどうかが、溝をつくらない一歩になる。「言わなくても分かるだろう」という思いになりがちだが、それが大きな落とし穴になることを意識し、あと一言、具体的な言葉を添えることを心掛けてほしい。
曖昧な表現を避けることも大切
「後で」という言葉がもとで、トラブルになることもある。
「後で報告して」と言った上司は、30分後くらいを想定していたのに、半日たっても部下から何も報告がなければ、イライラは募るばかりである。どちらが悪いわけでもないのだが、ちょっとしたすれ違いが相手への不信感となる。
このように、日ごろ使ってしまう曖昧表現はたくさんある。社内だけではなく、顧客からのクレームも案外、このような些細なやり取り・感覚の違いから起きるケースは多い。
「ちゃんと」「徹底的に」「適当に」なども、注意すべき表現だ。
「徹底的に安全確保して」では、人の感覚に頼らざるを得ず、具体的な指示がないために、事故が起きる可能性が高まる。これらの曖昧な言葉は単独で使わず、具体的な表現と合わせて使うことによって感覚のズレを修正し、トラブルを防ぐことが望まれる。
思いがけない相談を受けたときは
それでもなお、思いがけない相談を受けた場合は、部下が訴えてきたことに対して「なぜ!?」を発しないことだ。「なぜ」は、問題解決に必要な思考だが、相手を心理的に追い詰める一言にもなる。結論はどうあれ、まずは、訴えてきた相手の気持ちに寄り添い、そこに至った「気持ち」を受け止める必要がある。
思いがけない相談・トラブルは、コミュニケーション不全の先に起こることが多い。それを防いでいくためには、相手に伝わる表現を身につけることが、何よりも大切だ。相手からどう思われているかではなく、話の内容が相手に正確に伝わっているかに意識を向けるようにしよう。
関わり方の意識をほんの少し変えるだけで、信頼関係を深めていくことができる。部下との関係構築の一助になれば幸いである。