2018年05月11日掲載

Point of view - 第110回 坪谷邦生 ―人事担当の「あなた」にできることは何か?

人事担当の「あなた」にできることは何か?

坪谷邦生 つぼたに くにお
株式会社アカツキ 人事企画室WIZ 室長

IT企業にて人事マネジャーを経験した後、リクルートマネジメントソリューションズ社にて人事コンサルタントとして50社以上の人事制度を構築し組織開発を支援する。モバイルゲームを中心に急成長しているアカツキにて人事企画室WIZを立ち上げる。人事コンサルタント・中小企業診断士・Certified ScrumMaster。
主な著作として『人材マネジメントの壺(2018、壺中天)』がある。シリーズとして1.HRM、2.等級、3.評価、4.報酬、5.リソースフローの5巻刊行済み。全8巻刊行予定。
ブログ: https://kochuten.wordpress.com/

1.あなたは何タイプ? ―人事担当者の4タイプ

仕事柄、さまざまな業種・規模の企業の人事の方とお会いしてきた。その経験から、人事担当者は以下の4タイプに分かれていると感じている。あなたはどのタイプだろうか?

①ルール厳守事務作業タイプ

ルールや法律に詳しく作業が正確である。的確に仕事が進むため上司から信頼され一定以上の仕事を任されている。しかし、社員の気持ちや「とはいえ」が通じないので現場から相談されたり、頼られたりすることは少ない。事務的で冷たい印象を与える。定時で帰る。
②現場に寄り添う憤慨タイプ

現場で起きていることに詳しく、社員の気持ちを誰より分かっているという自負がある。現場から信頼され、相談されることも多く、みんなのためになる仕事なら苦労をいとわない。経営が現場の苦労を「分かっていない」ことに憤慨しているため、上司には煙たがられている。
③経営絶対の御用聞きタイプ

社長や上司の意向が最も重要と考えており、会社が決めたことを実行するのが自分の役割だと思っている。口癖は「戦略人事」で、社員のモチベーションが上がる「スイッチ」はどこか常に探している。経営会議に参加できることを誇りにしている。
④指し示す人事のプロタイプ

「目的」に向けて自律的に行動し成果を上げる。そのためにプロフェッショナルとして必要な「専門性」を磨き続けている。人事としての「意志」を持っている。経営や現場のどちらに対しても時に毅然(きぜん)とした態度をとる。社外の勉強会によく参加している。

さあ、あなたはどのタイプだっただろうか。ほとんどの人事担当者は①~③に含まれるのではないか。私も10年間企業で人事担当をやってきたが、長い間②で一時的には③だったのではないかと思う。しかし、④の方も確かに存在する。私が人事コンサルタント時代にお会いした中で「この人事はすごい」と感じさせる人事担当者はこのタイプだった。

この4タイプは人事として何を大事にしているか、つまり「価値観」によって分かれている。

2.人事の目的は何か? ―人をもって事をなす

あなたは人事として何を大事にしているか、そして、それは何のためかを即座に答えられるだろうか。そもそも人事とは何を「目的」に行う仕事なのだろうか? 本質的な問いだが、それだけに答えるのは難しい。少し学術の力を借りてみよう。

ミシガン大学のディビッド・ウルリッチは、『Human resource champions』(邦訳『MBAの人材戦略』日本能率協会マネジメントセンター)の中で、人事の目的(HRMの提供価値)を次の四つだと言っている。
 ➊戦略を達成する
 ➋生産性の高い組織の仕組みを築く
 ➌従業員のコミットメントとコンピテンシーを向上させる
 ➍組織の変革を実現する

日本では学習院大学の守島基博教授が『人材マネジメント入門』(日本経済新聞社)において、人材マネジメントの目的は「人材を活用して、会社の戦略を達成し、さらに次の戦略を生み出す人材を提供する」ことだと表現している。どちらの定義においても「人を生かすことで、短期、長期の組織の成果(パフォーマンス)をあげる」ことがうたわれている。

つまり「人事」の目的は、その文字のとおり「人をもって事をなす」ことなのだ。

さらに、守島教授はこうも言っている。「経営と人、短期と長期といった一見対立する2つの価値の交差点で仕事をするのが人事だ」と。変わり続ける環境の中、人と事の両面をにらんで個と組織を支え続けるのが「人事」なのだ。前出の①~③タイプの人事担当者は、この対立する「価値の交差点」で踏ん張り続けていない。ルール、現場、経営、いずれかに偏った「価値観」で仕事をしているため「目的」を外してしまっているのだ。

偏らない価値観を持って、目的に向けて自律的に行動し成果を上げ続けるのが"プロフェッショナル"である。人事のプロフェッショナルになるためには、どうすればよいだろうか。

3.プロフェッショナルとは何か? ―自分の仕事の価値を決める

プロフェッショナルの語源は「Profess」、宗教に入信する際の「宣誓」である。つまり宣言してある集団に参加することだ。プロになるとは自分の「専門領域を決めて」誠実さを宣誓することにほかならない。

プロフェッショナル「宣誓」の原点は、2500年前の名医「ヒポクラテスの誓い」にある。これは医師の倫理・任務についてギリシア神へ宣誓した文章で、患者の生命・健康保護の思想、患者のプライバシー保護、専門家としての尊厳の保持、徒弟制度の維持や職能の維持などがうたわれている。ここで特に大切なのは「知りながら害をなさない」という倫理観だ。

自分の専門領域を腹決めしていること。その専門領域を深め続けていること。プロフェッショナルが誠実さを誓うのは経営者や社員や社内ルールではなく、その専門領域に対してである。すなわち、その専門領域で上司も口を出せない自律した存在にならなければならない。

日本語の玄人(くろうと)の語源は、暗闇で素人(しろうと)には見えないものが見えることだ。素人には見えないものが見えるだけの専門知識と経験を持ち、それを正しく使える倫理観と実践する力を持っていることが求められる。

さて、あなたは人事担当として、どこを「専門領域」としているだろうか?

あなたの「顧客」は誰だろうか? 経営者か、上司か、全社員か、現場マネジャーたちか。

あなたの貢献による「価値」は何だろうか? どんな成果が求められているのだろうか。

あなたの「意志」はどこにあるだろうか? あなただからこそできることとは何か。

まずは自分の仕事の価値を、意志と共に明確に説明できることが第一歩だ。そして、そこさえ決められれば、後はその領域を深め続けるだけである。