ユニークな制度で社員の帰属意識・働きやすさを向上
先進的な取り組みをしている企業の現場をレポート
[企業ZOOM]IN⇔OUT
会社概要:2000年創業。歴史的建造物やモダン邸宅、自然豊かなものなど美麗な結婚式場を展開し、ウエディングドレスやレストランなどのサービスも手がける。新入社員の約8割が女性で、「子育てサポート企業」や「なでしこ銘柄」に認定されるなど、働きやすい職場づくりにも注力している
本社:東京都中央区銀座1-8-14 銀座YOMIKOビル4F
資本金:1億円
社員数:1690人
<2017年12月末現在>
http://www.novarese.co.jp/
取材対応者(取材当時):
総務人事部 部長 小高直美氏
取材・文/滝田誠一郎(ジャーナリスト)
1.数々のユニークな制度で、社員がイキイキと働ける環境を作る
ノバレーゼは、青森から福岡まで日本各地30カ所に展開している結婚式場を中心に、ドレスショップやレストランなどのブライダル事業を運営している会社である。
同社では、最高賞金100万円の『年間MVP』、退職するまで毎年120万円を自由に使うことができるクレジットカードが付与される『殿堂入り制度』といったインパクトのある報奨制度や、学生時代の奨学金を返済している社員に最大200万円を支給する『奨学金返済支援制度』といったユニークな制度を設けている[図表]。
[図表]ユニークな報奨制度等の概要
名 称 | 概 要 |
年間MVP | 毎年、全7部門から1人ずつ、1年間の業績や貢献、人間性を総合考慮して最も活躍した社員を年間MVPに選出する。最高賞金は100万円で、副賞としてモンブランの高級ボールペンを贈呈(注1) |
殿堂入り | 年間MVPを複数回受賞した社員や、毎年ノミネートされるような"業界の宝"ともいえる優秀な社員を表彰する。退職まで毎年120万円が自由に使用できるクレジットカードとプラチナ製の社章を付与 |
新規事業提案制度 | 新規事業提案について毎年アイデアを募集し、役員会で最優秀賞、優秀賞などを決定する。最高賞金は100万円(注2) |
奨学金返済支援制度 | 学生時代に奨学金を借りていた社員を対象に、勤続満5年、10年の節目で、返済残額に応じて最高100万円を支給する。返済残額は入金一覧表などで確認し、返済後も同様に返済が完了していることを確認できる書類の提出を義務づけ |
[注]1.7部門は、プロデュース、衣裳、レストランサービス、レストランキッチン、ルーキー
オブザイヤー、本社スタッフ、店舗スタッフの各部門。これらに加えて、特別な貢献が
あった場合はベストマネジメント賞と特別賞のMVP表彰が行われる。
2.年1回募集する新規事業提案のほか、業務改善提案について通年で募集を行っている。
こうした、他に類を見ないユニークな制度は、人を大切にするという同社の考え方から生まれている。
「当社は、『Rock your life 世の中に元気を与え続ける会社でありたい』という経営理念を掲げ、人々に感動を届けられる会社を目指してサービスを提供しています。結婚式という直接目には見えるものではないサービスにおいて、お客様と接するスタッフは重要であり、会社成長の原動力と考えています。そのため、スタッフ自身が幸せで、やりがいを持ってイキイキと働き続けられるようにする必要があります。会社としてのすべての取り組みや制度は、この考え方が基本になっています」(小高氏。以下、発言はすべて同氏)
2.最高賞金100万円が贈られる『年間MVP』
同社には、事業を通じて培ってきた「社員同士が互いに称え合い、感謝の気持ちを伝え合う文化」が根付いている。こうした文化の表れとして、スタッフの活躍を称えるさまざまな表彰制度を導入しており、年間MVPもその中の一つに位置づけられる。
1年間で最も活躍したスタッフが、各部門から1人ずつ選出され、年間MVPとして表彰される。対象となるのは、プロデュース、衣裳、レストランサービス、レストランキッチン、ルーキーオブザイヤー、本社スタッフ、店舗スタッフの7部門。これらに加え、特に優れた活躍が見られた場合は、特別賞、ベストマネージメントの2部門についてもMVP表彰が行われる。賞金は部門によって若干異なるが、最高額はプロデュース部門と衣裳部門の100万円。他の部門もそれに準じた金額になっているので、まさに破格の報奨金といえる。
「年間MVPに選ばれるのは、社員にとってとても名誉なことですので、賞金もそれに見合うような金額に設定しています。また、当人がその名誉を実感しやすいように配慮して、額面ではなく、手取りで100万円になる金額を振り込んでいます。また、このほかにも副賞として、年間MVP全員に名前入りのモンブランの高級ボールペンを贈呈しています」
年間MVPの選考対象期間は3月から翌年2月までの1年間。この間の業績や貢献度、人間性(勤務態度、他の社員との接し方、リーダーシップ)などを総合的に判断し、必要に応じて現場でのヒアリングなども行った上で部門ごとに候補者がリストアップされる。
3月に開かれる役員会議(取締役2人・執行役員3人・エリア長3人)で、リストアップされた候補者の中から5人がノミネートされ、さらにその中から年間MVPが選ばれることになる。このノミネートされる段階でも、1年間の業績や貢献度、人間性などを考慮した総合的な評価・選考が行われる。業績が1位ではなくても、人間性が高く評価されて年間MVPに選ばれるケースも少なくない。
業績や人間性を総合評価した場合、順当であれば各部門のマネージャークラスの社員が年間MVPに選ばれそうだが、実際には役職に就いていない社員が選ばれることのほうが多いという。現場の社員一人ひとりまで大事にしているという同社の社風が表れた結果ともいえる。
年間MVPの選考結果は、毎年4月に開かれる社員総会「NOVASPO」で発表される。全社員が見守る中、まずノミネートされた5人が壇上に呼ばれ、その中から年間MVPが発表される。その瞬間、同じ部署の同僚たちが歓声を上げながら壇上に押し寄せ、年間MVPに輝いた社員を祝福するのが毎年の恒例であり、アカデミー賞の授賞式さながらの光景となる。
部門ごとにノミネートされた5人は、各部門における総合評価上位5人ということに他ならない。
「社内では、年間MVPはもちろん、その候補にノミネートされること自体がとても光栄なことと受け止めています。ノミネートされるのは、1年間の実績や仕事ぶりが役員からも高く評価された結果ですので、その社員の自信にもつながり、将来に向けてのモチベーションにもなります」
3.年間120万円使用可能なクレジットカードが付与される
『殿堂入り制度』
年間MVP を複数回受賞した社員や、同賞の候補に毎年ノミネートされるような極めて優れた社員を対象にした報奨制度が『殿堂入り制度』だ。殿堂入りした社員にはプラチナ製の社章と、同社に在籍する限り、毎年120万円を自分のために自由に使えるクレジットカードが付与される。
その選考に当たっては、審査基準や審査項目を明確に規定し、厳正な審査を行っているのだろうとも思われるが、実際には明確な基準や項目があるわけではなく、「割と総合的な判断になっている」という。
「殿堂入りの対象を一言で言うと、会社だけでなく"業界の宝"といえるような希有な存在の人になります。そういう人に該当するかどうかを総合的に判断して選考しているため、審査基準や項目を用意し、それに則った厳密な判断をするという画一的な運用ではありません。むしろ、一人ひとりを具体的に見て、業界の宝といえる人材かどうかを判断することになります」
毎年選出される年間MVPとは異なり、"業界の宝"クラスの人材が対象となる殿堂入りは、2010年に2人(エグゼクティブプランナー/女性2003年入社、エグゼクティブコーディネーター/女性2006年入社)と、2011年に1人(ディビジョンマネージャー/男性2003年入社)の計3人しか、過去に選出されていない。2012年以降は「該当者なし」が続いており、まさに希有な存在といえる。
[写真]殿堂入りを果たした3人と、2017年度の年間MVP受賞者の写真が
オフィスの入り口に飾られている
「殿堂入りを目指してスタッフ同士が切磋琢磨してくれるのが理想ですが、実際には、殿堂入りは"別格"と考えているスタッフが多いかもしれません。ただ、その分だけ殿堂入りした社員の喜びはひとしおだと思いますし、それに見合うだけの報奨も用意しています」
殿堂入りの表彰も、年間MVPと同じく「NOVASPO」の場で行われ、その場でプラチナ製の社章が手渡される。後日渡される、年間の限度額120万円のクレジットカードは、同社を退職するまで永続的に利用できる。年間120万円という金額は、社員に与えるインパクトの大きさなどを考慮して、「月10万円×12カ月=年間120万円」という計算式で決定した。
仮に、クレジットカードの利用が1年間限りであってもインパクトは大きいが、殿堂入りを果たせば、以後毎年120万円を自分のために使えるというのは格別であり、他に例を見ない報奨制度といえる。
120万円の使い道は、基本的には自分磨きや自己啓発に使うことになっているが、実際の使い道はすべて本人任せている。法人契約のクレジットカードなので使用明細書が会社宛に送られてくるが、その内容をチェックすることはなく、領収書も不要である。
「飲食費や遊興費、旅行費用など、自由にどんどん使って構わないということにしています。私どもの業界では、そういった経験が後々のキャリアに生きてきます。さまざまな経験をして、より感性を磨いていくことは、お客様へ感動を届けるという同社のサービスには欠かせないものでもあります」
1年間で120万円という金額は使い甲斐がある一方で、使い切れないことも想定される。その場合には残高分が商品券で支給される。例えば、年間80万円しか使わなかった場合には、差額の40万円が商品券で支給されるということだ。実際の利用実績を見ると、過去に殿堂入りした3人のうち現在同社に在籍しているのは2人(1人は退職し独立)だが、このうちの1人は毎年120万円をほぼ使い切り、残る1人は6割くらいを使い、残りを商品券で受け取っているという。
4.新規事業提案制度の賞金も最大100万円
同社の新規事業提案制度「ノバレーゼレボリューション」(略称:ノバレボ)もまた、最優秀賞が賞金100万円と型破りな制度である。新規事業提案制度自体は多くの企業が取り入れているが、最高賞金が100万円というのはあまり例がないだろう。
「ノバレボ」はこれまで、新規事業、業務改善、商品開発の3部門で提案応募を行っていたが、2018年からは年1回の新規事業提案と通年で受け付ける業務改善提案の2本立てに改められている。ちなみに2017年には、新規事業84件、業務改善101件、商品開発80件の計265件の応募があったそうだ。賞金100万円という魅力的な金額の効果もあり、応募件数はかなり多い。
応募のあったアイデアは、まずノバレボ事務局で選別される。ここで絞り込まれた提案を、提案者自身が役員にプレゼンテーションし、最終的に役員会で最優秀賞、優秀賞などを決定する。
「毎年、各地区ごとに開催し全社員が出席する6月の月初ミーティングで『ノバレボ』の募集を告知します。毎回、募集用の映像を作って上映するなど、演出を凝らしています。最優秀賞の発表は10月の月初ミーティングで行います。単に全社員宛のメールで募集を告知したり、結果を発表したりするのではなく、演出を凝らしたイベント仕立てにすることで社員のワクワク感を醸成し、モチベーションアップを図ることが狙いです」
最優秀賞の獲得者はまだ現れていないものの、「ノバレボ」での提案から、すでにいくつかの新規事業が生み出されているという。
5.最大200万円を支援する奨学金返済支援制度
同社が2012年に導入した「奨学金返済支援制度」もまたユニークかつ目を引くものだ。学生時代に借りていた奨学金を返済している社員を対象に、勤続5年目に上限100万円、勤続10年目に上限100万円、合計で最大200万円支給する制度である。
日本学生支援機構の「平成28度学生生活調査」によると、大学の授業料や日々の学生生活を支えるため、大学生の2人に1人が奨学金を受給しているのが現状である。奨学金に助けられ、無事に大学を卒業して社会人になった途端に、数百万円もの返済に追われるケースが多い。近年では、返済苦にあえぐ若手サラリーマンの実態がテレビや新聞で報じられることも珍しくない。
こうした実態を反映して、香川県や福井県、富山県、鳥取県、京都府など、奨学金返済支援制度を設けた中小企業に対して補助金を出す制度を設ける自治体がここ数年間で急増している。例えば、京都府の場合は入社6年以内の正社員に対して、府と企業合わせて1~3年目は年間で18万円、4~6年目は12万円、6年間で最大90万円を支援する制度を2017年に導入している。
中小企業を対象にした自治体の支援は日本各地に広がっているが、独自に奨学金返済支援制度を取り入れている企業はまだ少ない。
「弊社の場合は、総務人事部の中に奨学金の返済をしているマネージャーがいて、そのマネージャーが自分以外にも奨学金の返済をしている社員が少なからずいることに気づき、何らかの形で会社として支援できないだろうかと考え、この制度が生まれました」(小高部長)
制度を導入した2012年を起点に、5年が経過した2017年に、初めて奨学金返済支援金が支給された。仕組みは単純で、対象となる社員(制度導入以降、満5年勤続した正社員)が返済残額を申告(入金一覧表などを添付)すれば、100万円を上限としてその金額が支給される。残額が50万円と申告した場合は50万円が、180万円と申告した場合は100万円が支給され、それを奨学金の返済に充てる。支援金を支給した後は、奨学金の返済に充てたことを証明する入金一覧表などの提出を義務づけている。2012年から数えて10年目になる2022年の時点で、まだ奨学金の返済をしている場合には、そのタイミングでまた申告をすれば2度目の奨学金返済支援を受けることができる。
奨学金返済支援金は賞与という扱いで対象者に支給されており、年間MVPの報奨金同様、所得税や社会保険料を計算した上で50万円ならば手取り50万円、100万円ならば手取り100万円が支給されるように、きめ細かい配慮をしている。
2017年の有資格者は27人であり、上限の100万円が支給された社員も少なからずいたという。奨学金の返済が若手サラリーマンにとって大きな負担になっている昨今の現状において、こういった支援制度が整備されていることは、従業員に対し、長く働くことへの動機づけとして有効だといえる。
「奨学金返済支援金を受け取った社員の反応は上々です。会社に対する感謝の気持ちはもちろんのこと、帰属意識や組織コミットメントの向上につながっていると思います」
先にも触れたとおり、大学生の約半数が奨学金を借りていることを考えると、この奨学金返済支援制度は新卒採用時の強力なPR材料になり、訴求力も期待できる。
「弊社に興味がある学生の方や親御様たちには大変関心を持っていただいています。奨学金の返済という負担は重く、20代のうちから生活と返済を両立できるのか不安に思う方もたくさんいます。その中で、最大で200万円の奨学金返済支援金が受け取れる同制度は、応募時の安心感や弊社で働きたいと考えるインセンティブにつながっていると思います」
6.働きやすさを高める各種制度
同社には、このほかにもユニークな制度や取り組みがいくつもある。一つ目は「Rockの日」と呼ばれる休暇制度だ。名前の由来は、先述した「Rock your life 世の中に元気を与え続ける会社でありたい」という経営理念に由来する。同社のサービスはブライダルという顧客にとって大切な日をもてなすものであり、それを提供する従業員にも心が揺さぶられるような休暇を過ごし、大切な時間を増やしてほしいという考えから、特別に年2回休暇を付与している。休暇取得日はあらかじめ会社で決められており、営業上支障がない限り、全社一斉に休むことになっている。
取り組みの二つ目は、その年に付与された年休の100%取得を社員に義務化していることである。メリハリある働き方で、社員の満足度向上とより健康的な企業体質を目指すのが狙いだ。「Rockの日」で休暇を付与しても、その分年休の取得日数が減ってしまうのでは本末転倒だが、年休の100%取得を義務化することで、こういった問題は起きず、どちらの取り組みも意義があり、効果的なものとなっている。
また、本社では、毎月第3水曜日を「地球の日」と名付け、ノー残業デーに設定している。19時の定時帰社を呼びかけ、エレベーターでなく階段を使用する、帰社時は各人の本社最寄り駅より一つ先の駅まで歩くなど、小さなことから始められる地球にやさしい取り組みを推奨している。
会社と相談の上で、勤務時間や日数などの働き方を柔軟に変えられる「フレックスキャリア制度」も導入している。これは、正社員の雇用形態のまま、自身のライフステージに合わせて働き方を選ぶことができる短時間勤務制度である。同社の所定労働時間は1日8時間だが、1時間刻みで1日4時間まで勤務時間を短縮できる。また、1カ月の休日は通常は9日だが、これを最大14日まで増やすこともできる。理由のいかんに関わらず、正社員であれば誰でも同制度が利用可能となっている。
「FA制度」として、人材を求めている部署が、社内イントラネット上に"求人広告"を掲載し、広告に興味を持った社員は、上司に知らせることなく求人を出した部署と直接連絡を取り合い、異動の交渉ができるシステムも整備している。社内活性化や社員のキャリアアップの実現が狙いである。
言うまでもなく、こうした制度・取り組みの目的は、先に触れた報奨制度と同様に、同社のスタッフがやりがいを持ってイキイキと働き続けられる職場づくりを進めることにある。その甲斐あって社員の会社への愛着は高く、平均勤続年数も伸びており、社員の定着や働きやすさの向上に寄与しているという。こうした成果を踏まえ、これからも同社では、社員のモチベーションを高める仕組みの拡充に向けて工夫を重ねていくこととしている。