隣で外国人が働く時代、
日本人ビジネスパーソンと日本企業の心得とは?
利重直子 とししげ なおこ 1979年 山口県生まれ。広島県の呉大学(現:広島文化学園大学)社会環境情報学部を卒業。大手人材サービス会社の営業を経て、2010年外国人派遣・紹介サービスの(株)グローバルパワーに入社、2012年取締役に就任。外国人雇用とマネジメントのすべてがわかるWEBサイト「グローバルパワーユニバーシティ」編集長。 |
誰もが「隣で外国人が働く時代」がすぐそこに
日本の有効求人倍率(季節調整値)は、バブル期を超える高水準を記録している。また、少子高齢化の下で深刻な人手不足の状況にあり、東京都の飲食店やコンビニエンスストアでは、外国人店員を見ない日はなく、日本社会を支える働き手として外国人の存在感は年々高まっている。
2018年12月、在留資格を新設して外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が可決・成立し、政府はこれまで認めてこなかった単純労働の受け入れにカジを切った。これから、ますます外国人の働き手が増えていく中、「同僚は外国人」「部下は外国人」「上司は外国人」という、誰もが「隣で外国人が働く時代」がすぐそこに来ているのだ。
察してほしい日本人と察してくれない外国人
ただ、同じ人間とはいっても、生まれた環境や文化によって物事の受け止め方は違う。そして世界に目を向ければ、多様な価値観で満ちている。
「ハイコンテクスト文化」という言葉をご存知だろうか。いちいち言葉で表現しなくても、状況や文脈で伝えたいことを相手が理解してくれるという文化をいう。日本がその最たる例であり、もっともハイコンテクストな国だと言われている。対して「ローコンテクスト文化」とは、伝えたい情報がすべて明確な言葉で表現される文化であり、ドイツやスイスなどがこれに当てはまると言われている。
では、このハイコンテクスト文化で育った日本人とローコンテクスト文化で育った外国人が一緒に働いた場合、いったいどうなるだろうか。例えばこんなシーンが想定される。
【シーン1】日本人上司が外国人部下に仕事をお願いした時、外国人社員が即座に「できません」と回答。仕事を断られたことに対して日本人上司は怒った口調で「もう、いいよ」と言い放ち、別の社員に仕事をお願いする。
日本人上司は口調や態度で「仕事を断ったことに私は怒っているぞ」「仕事に対するその姿勢は良くないぞ」ということを伝えたいのだが、文脈を読まず言葉どおりに受け止めるローコンテクスト文化で育った外国人には、「もう、いいよ」は「分かりました、OK」という同意でしか認識されない。こうして怒っていることを"察して"くれない日本人上司は、怒りをどこにぶつけてよいか分からずストレスとなる。
【シーン2】会社で部下に「お客さまと話をするときは、足を組まないほうがよい」と注意をする。
日本人であれば「~をしたほうがよい」と言われたら「やってはいけない」と同等の意味だと理解し、態度を改める。しかし、ローコンテクスト文化で育った外国人は「お客さまと話をする時、足は組んでもよいが、組まないほうがよい」という、言葉どおり、文法どおりの受け止め方をし、お客さまの前でまた足を組んでしまう。こうして注意をした日本人上司は、「注意をしたのに態度を改めない」「お客さまの前で足を組むことのリスクが伝わらない」と、またストレスを溜めることになる。
すべての外国人がこのようなローコンテクスト文化圏の人ではないにしても、ハイコンテクストの極みである日本人からすると、ほとんどの外国人が「察してくれない」「行間を読んでくれない」「忖度(そんたく)してくれない」のだ。
外国人とのコミュニケーションは明確に、
メリット・デメリットも伝える
では、日本人はどうしたらよいのか。
まず、仕事の指示や考えを、相手に言葉で具体的かつ明確に伝えることを常に意識するとともに、コミュニケーションを取り続けるのをあきらめないことだ。外国人部下に仕事を「できません」と断られたら、「時間がないからできないのか」「知識がないからできないのか」を確認し、時間が理由であれば、この仕事の優先順位が高い理由をしっかり説明し、知識が足りないのであれば、上司として知識を与えなくてはならない。
また、お客さまの前で足を組む外国人部下がいれば、「足を組まないほうがよい」というような曖昧な言い方をせず、「お客さまの前で足を組んではいけない。なぜなら日本では目上の人の前で足を組むのはマナー違反であり、そうした態度があなたと会社の評価を下げ、取引にも影響するからだ」と明確な言葉でデメリットまでしっかり伝えなければならない。
働き方改革に有効? 生産性向上のソリューション?
「ただでさえ仕事というのはストレスフルなのに、外国人と一緒に働くと、もっとストレスが増えるではないか」と思った読者も多いのではないだろうか。
だが、よく考えてみてほしい。「察してくれない」「行間を読んでくれない」「忖度してくれない」のは、なにも外国人だけではない。自分と10歳以上離れた日本人とは、うまくコミュニケーションがとれているだろうか。昭和生まれの人からすると「平成生まれの若者は、仕事が受け身で察しが悪い」と思うだろうし、平成生まれの若者からすると、昭和生まれの人は「頭が固く仕事の指示が曖昧で、仕事と私生活のメリハリに欠ける」のだ。
こうしてみると、もしかしたら、「察してくれない」「行間を読んでくれない」「忖度してくれない」組織のほうが、何事も明確で無駄がなく、高効率で生産性が上がるのかもしれない。
日本は少子高齢化で労働力不足、さらに人口減による国内市場縮小もあって、もはや企業のグローバル化は避けられない。日本企業は、外国人のみならず・若者・シニア・LGBT・子育て世代・介護世代など、どのような人材でも能力を発揮し活躍してもらえる組織づくりをしていかなければ生きる道はない。いつまでも"鎖国状態"であってはいけないのだ。