2019年05月24日掲載

Point of view - 第135回 福島創太 ―変わる学校教育、新しい世代。企業は彼らをどう迎えるか。

変わる学校教育、新しい世代。
企業は彼らをどう迎えるか。

福島創太 ふくしま そうた
教育社会学者

1988年生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルートにて「リクナビNEXT」の企画開発など人材ビジネスに携わる。退社後、東京大学大学院にて、若者のキャリア形成ついて研究。現在株式会社教育と探求社にて、中高生向けのアクティブラーニング型教育プログラムの開発に従事しつつ、同大学院博士課程に在学中。近著に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。

1.大転換期を迎える学校教育

「固定概念にとらわれない発想は、知らないからこそ生まれるということを改めて気づかされた。常にそういう発想ができるようにするためには、常日頃から多様性を認める文化をつくる仕組みの構築が必要だと思う。生徒に関わることで、社員が失っているものに気づくことにつながりよかった」
 これは、高校の授業に協力いただいた企業の経営者の方からの振り返りでの言葉だ。2018年に筆者らは、経済産業省が進める「"未来の教室"実証事業」として、「福岡市内の中学生・高校生が、自分たちが住む地元の企業にイノベーションを起こす」というプロジェクトを実施した。中学生・高校生たちが、自分の通う学校の授業(合計16コマ)の中で、企業にイノベーションを起こすためのプロセスを学び、企業人に取材をしたり、実際に企業を訪問したりしながらイノベーションにつながるリソースを探究し、企画を作り上げ、企業人に対してプレゼンを行った。
 その会社で働く社員でさえ気づいていないリソース、あるいはリソースの予想外な使い方を探究して考えたイノベーションプランは、多くの社員を驚かせる奇抜な企画ばかりだった。例えば、大手百貨店に対して、商品展示やきれいで素早いラッピングなど、そこで勤める社員が持つスキルに目をつけ、一般の人向けに有料で講習を実施しつつ、その講習の中で積極的に商品をPRしながら販売売り上げも得るという企画が提案された。小売店で廃棄される食料品とその時間帯を集約して一斉配信するサービスを、webマーケティングを行う企業に提案したチームもあった。企業内にとどまらず社会全体に目を向け、「廃棄食材」をリソースとして捉えたのだ。
 自分の身の回りにあるものを存分に活用して、社会問題までも解決するイノベーションプランを企業に提案する中学生・高校生の姿は圧巻であった。しかもこの取り組みをたった2カ月間、企画を検討した時間数でいえばほんの5~6時間で行ったことがさらに驚きである。

 いま、学校教育は大きな転換期にある。2020年には、学校で何をどのように学ぶかを定める学習指導要領が改定され、小学校からプログラミング的思考などの情報活用能力育成や外国語の授業が始まり、大学入試も大きく変わる。明治維新以来とも言われる学校教育改革が目前に迫る中で、紹介したようなさまざまな取り組みが多くの学校ですでに始まっている。
 ベネッセ教育総合研究所が行った「第6回学習指導基本調査」(2016年)によると、「心がけている授業方法」を教員に尋ねた結果では、「グループ活動を取り入れた授業」について、小学校と中学校では約半数が「多くするように特に心がけている」と答えている(小学校:49.9%、中学校:47.5%)。2010年の同調査結果と比較すると、小学校で8.4ポイント、中学校では10.4ポイント、高校ではなんと15.8ポイントも増加し、高校については「多くするように特に心がけている」に「まあ心がけている」を加えると、31.3ポイントも増加しているのだ。
 さらに注目すべきは、高校における探究学習・課題解決学習の実施率である。公立高校の普通科でも、すべての生徒を対象に実施している割合は40.3%、一部の生徒やコースを対象とする学校を含めると、実施率は約6割に上る。さらに、総合学科では9割、専門学科では8割の学校において実施されている(ともに「一部の生徒やコースを対象として実施している」を含む)。
 社会に開かれた学びや企業とのコラボレーション、あるいは大人たちが当然のように受けてきた知識伝達型の授業ではない、課題解決や企画開発、探究型の学びなど、答えのない問いに向き合う中で仲間と力を合わせて自分たちなりの答えを生み出すような学びに取り組む生徒が実は年々増えているのだ。

2.ゆとり世代以上のインパクト

 ゆとり世代が企業に入ってきた約10年前、「ゆとり世代が来た!! どう接すればいいんだ!?」という言葉がさまざまな場面で聞かれ、新人研修以上に新人育成を担うマネージャーや中堅リーダーへの研修マーケットが大きく広がった。昨今では、その次の世代として「さとり世代」という言葉も聞かれるが、「ゆとり世代」という概念は2002年に改訂された学習指導要領による教育を受けた世代、というのがそもそもの始まりである。つまり、教育改革が行われた数年後には、社員の世代ごとの価値観の違いに企業はどう向き合うのか、という課題が発生するのである。
 当時の改革を超えてさらに大きな変革が起ころうとしている学校教育、そしてその方針にのっとった教育を受けた若者がすでに社会人としてのスタートを切り始めているいま、企業には何が求められるのか。「ゆとり世代」のときと同じ状況を生まないためにも、今のうちから準備できることがある。

 第一に重要なのは、彼らの発言や考え方には彼らが生きてきた社会状況や受けてきた教育が大きく影響している、と認識しておくことであろう。社員一人ひとりの個性や特性を世代論一つで片づけるべきではないが、それぞれの世代が生きてきた社会的背景や受けてきた教育は、彼らが持つ価値観の土台となる。
 例えば、アメリカなどでは、1990年代後半~2000年頃生まれの世代を、「ミレニアル世代」に次ぐ「ジェネレーションZ」(Z世代)と呼び、そのうちの25歳以下の人たちは「デジタルネイティブ」とも呼ばれる。その特徴について、デロイト トーマツ コンサルティングの田中公康氏は「本物志向」「自律成長」「フラットな信頼関係」「社会的価値提供」「デジタルとの高い親和性」という五つを挙げている(アデコ㈱『Power of Work』2018年10月号より)。このように、世代の中で共通し、ほかの世代とは明らかに異なる特徴が間違いなく存在するのだ。

 具体的な場面を考えてみよう。例えば、「今どきの若者は頭でっかちで言い訳が多い」という言葉をよく耳にする。よく聞いてみると、上司からの指示に対して「なんでそれをやるんですか?」という質問をしてくる若手が多いというのだ。組織において、意思決定は上司や経営層が行い、若手は最初の数年間は決まったことに忠実に取り組み、できることを増やし、徐々に意思決定にも関与していくべき、まずはなんでもやってみることが重要――という考え方を「前提」とすると、若者の問いは理解できないものだろう。
 しかし、経済成長が鈍化し、"一度入社してもその会社での終身雇用などあり得ない""変化の激しい時代においては前例を疑い、自らの頭で考え、自分たちらしい答えを見つけながら生きていかなければならない"という「前提」を人生の中で無意識に構築してきた若者からするとどうか。「なぜそれをやるのか?」「それは本当に必要なことなのか?」という問いを持つことは、必然かもしれない。決して「やらない理由」を探すからではないのだ。
 さらに、学校教育においても「決まっている答えをいち早く出すこと」ではなく「自分なりの答えを自分らしいやり方で出すこと」が重視されていたら、彼らが発する言葉の意味は変わってくる。互いの前提の違いを理解することが重要なのである。それによって、無用なコンフリクトが避けられ、相互理解も進んでいくだろう。

3.組織変革に向けた有効活用

 企業に求められる準備の二つ目は、こうした若手の存在を自社の組織変革のきっかけに用いるということである。一つ目の準備として紹介した内容を読むと、彼らの価値観を受け入れることに組織としての不安を持たれる方も少なくないだろう。先ほどの例で言えば、「何でもかんでも理由を説明していたら効率性が下がる」「それでも若いうちは考えすぎずなんでもやってみるべきだ」といった意見はあるだろう。そういった部分は確かにあるかもしれない。
 しかし、グローバルカンパニーで注目される最先端の組織の在り方は、むしろ若者の意識に親和的だ。2018年に最も読まれたビジネス書の一つに、『ティール組織』(フレデリック・ラルー著、英治出版)という本があることは多くの方がご存じだろう。この組織が大切にすることは、自主経営(セルフ・マネジメント):目的実現のための自主的な創意工夫をする、全体性(ホールネス):個人の能力が最大限発揮できる状態、存在目的を重視する経営、とされている。そしてティール組織の重要なコンセプトの一つは、中央で強いガバナンスを持つのではなく、明確な目的やミッションの下、それぞれが考え、意思決定は必要な構成員が行っていく、ということである。
 もちろん、組織における意思決定は、それまでのやり方や、その前提となっている情報を踏まえることが重要な場面もある。しかし、変化が激しいこれからの時代、既存の枠組みに捉われず新たな価値を生み出していかなければ生き残っていけない状況の中では、ここで紹介したような考え方の重要性が高まっていることにも異論はないだろう。それでも、歴史ある大きな組織はガバナンスの最適化が進み、変わりづらいというのが日本の多くの企業の現状であろう。そうであるとしたら、新しく組織に入ってくるメンバーの周辺からこれからあるべき組織の形をつくっていくことは有効かもしれない。重要なことは、彼らに合わせた組織変革をする、というのではなく、これからの時代にとってよりよい、より豊かな組織づくりのために、彼らが持っている特性や素養を用いる、ということである。

4.社員育成のための学校との協働

 三つ目の準備として、先輩後輩、上司部下の関係が始まることに先立って彼らと接点を持つべく、学校教育に積極的に関わっていくことを提案したい。そしてこのことは、「若手人材との接し方を考える」ということ以上に、大きなメリットが三つある。
 皆さんも心当たりがあるかもしれないが、中学校・高校の授業というのは生徒のすべてが常に積極的に、前向きに取り組んでいるわけではない。得意不得意があり、学習意欲やその時間のコンディションもさまざま、知識量もバラバラである。そうした多様なメンバーを集めて、正解のない問いに取り組む――これは数年前から日本でも多くの企業で取り組まれているオープンイノベーションの状態に似ている。
 イノベーションを起こす、という共通の目的を持っている分、大人たちのほうがよほど進めやすいかもしれない。しかしながら、多くのオープンイノベーションの取り組みはうまく進んでいるとは言い難い。
 ボストンコンサルティングとミュンヘン工科大学は、ドイツ・スイス・オーストリアにある171の企業を対象として2016年に実施した調査を基に、組織の多様性とイノベーションの量(この調査の場合は直近3年間の収入に占める新商品・サービスの割合)に相関関係があることを証明している。そうとはいえ、多様な個性を持つメンバーを集めて正解のない問いに向かうことは容易ではない。そんな中で学校教育に積極的に関わり、中高生のメンバーとともに、課題解決に取り組むことは、その訓練になり得る。社内のメンバーでイノベーションに取り組む際にも、答えのない問いに取り組むことになるわけで、そうした際の議論をどのようにリードすべきなのか、どんな話し合いの場をひらくべきなのかということへの知見も得られるかもしれない。

 数年前から注目されている「サーバントリーダーシップ」も、今日の学校教育にビジネスパーソンが関わっていくことで培える素養かもしれない。これが二つ目のメリットだ。ロバート・グリーンリーフ博士が提唱したこのリーダーシップは、前に立ちみんなを引っ張っていくようなリーダー像からの転換で、支援型のリーダーシップとも言われる。
「後輩との接し方にも関係するのかなと思うんですけど、教えてはいけないんだな、引き出さなければいけないんだなっていうことは、子どもたちと一緒にいて学んだかなと思います」
「やはり、あまり教えすぎないとか、課題だけ与えてソリューションは考えさせるというか、主体的に動いてもらうということ。僕は(経営側なので自社の中では)どうしても"教育""教育"って言っているんですけど、でもそれが本当の教育なのかな、教え過ぎなんじゃないかな…ということは気づかされたところでした」
 これらも冒頭で紹介したコメントと同様に、企業人が学校教育に関わったことへの振り返りで聞かれた言葉である。例えば自社の課題に中高生が取り組むとする。当然自分たち企業人のほうが企業の現状や課題についてはよく知っているので彼らに何かを教えたり、進もうとしている方向に意見したりしたくもなる。しかしそれでは「正解のない問い」に向き合っていることにはならないし、中高生のモチベーションは維持できない。何より、企業が自分たちで解決できるような課題であれば、彼らとともに取り組む意味がない。
 中高生の新鮮で斬新な発想に企業人が驚かされる場面をこれまでよく目にしてきたが、それは中高生が主体的に問いを見つけ、取り組み、自分たちの頭で考えたときにしか起こらない。そのために先輩であるビジネスパーソンにできることはなにか。それを探究し、さまざまな接し方を模索することはこれから求められるリーダー像に近づく手がかりとなる。

5.新たなチャレンジと豊かな組織づくりへ

 そして最後が、内発的動機の醸成である。これはティール組織にも通じる部分だが、どのような組織で働くとしても、自らが自らの内なる声に耳を傾け、「なぜ働くのか」「なぜこの仕事をしているのか」に意識を向け、最大限のパフォーマンスを発揮することが重要である。そうした状態をつくる上で、実は、中高生の真摯な問いは非常に効果的である。
 中高生を前に教壇に立ったとき、多くのビジネスパーソンは「かっこいい自分」を演じようとする。しかし中高生は、その言葉が本音か、心から出てきているものなのかを見分ける純粋な感性を持っている。ビジネスパーソンがその仕事をしている理由を話すと、「本当にそうか?」「もしそうだとしたらその思いを実現した仕事の話をしてほしい」と質問が続く。その中で、大人は鎧(よろい)を脱ぎ、「本物の自分」でなければ彼らに言葉が届かないということに気づく。新しい時代をつくっていく若い世代を前にして、彼らの純粋でやや野性的な問いに向き合うこと、その中で自分の言葉を紡ごうとする局面は、やや乱暴ではあるが、コーチングを受けるよりも自分の内面に強制的に目を向ける貴重な機会になり得る。
 もちろん、この三つのメリットは、何の準備もされていない状態、何もコーディネートされていない状態で突然企業人が学校に赴いたからといって実現できるわけではない。出前授業や企業と協働する授業も増えているが、実際にうまくいっているのはごくごくわずかだ。しかし、環境を整えれば、企業にとって本質的な価値が得られる要素が学校教育との協働の中にはたくさんあるということも事実である。

 企業という組織を持続的に発展させようとしたら、新規参入者である若手は常に不可欠な存在となる。一方で、社会は変化し、学校教育も時代とともに変化していく。そうした変化を受けた価値観を持つ若手を、組織としてどう迎えるのか。多様性を広げ、組織としての新しいチャレンジをけん引する存在として迎え入れ、さらに強く豊かな組織づくりにつなげていけるかは、企業側の構えにかかっている。