2019年11月05日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [169]『連鎖退職』

 

(山本 寛 著 日経プレミアシリーズ 2019年6月)

 

 前著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(2018年/日経プレミアシリーズ)で、社員を定着させるために求められるマネジメントを探った著者が、今度は、ある一人の退職を皮切りに次々と社員が辞めてしまう「連鎖退職」を取り上げ、その原因と予防策、起きた際の対処法を探ったものです。

 本書では、連鎖退職はどんな組織や職場で起こりやすいのか、きっかけになる出来事とは何か、連鎖退職によって職場や組織、さらには同僚、本人自身がどのような影響を受けるのかについて、企業の人事部門、連鎖退職した社員、連鎖退職状況の中でも辞めずにとどまった社員などに聞き取りを行い、連鎖退職の実態を探ったとのことです。

 第1章「連鎖退職はこうして起こる」では、連鎖退職が起こるきっかけ、連鎖退職のパターン、連鎖退職が起こりやすい組織・職種、連鎖退職の組織への悪影響などについて解説しています。ここでは、連鎖退職は「同調行動」の一種であるとして、中小企業やベンチャーで起こりやすい「ドミノ倒し型」と、大企業で起こりやすい「蟻の一穴型」という二つのパターンを解説しています。前者は、1人欠けることで残ったメンバーに負荷が掛かり、さらなる退職を誘発するもので、後者は、1人の退職をきっかけに潜在化していた職場の不満が顕在化し、次々に退職者が出る状況を指すとしています。

 第2章「どんな人が『危ない』のか?」では、実際に連鎖退職をした人やその周囲の人への聞き取りをもとに、連鎖退職の実態に迫り、第3章「そのとき上司・同僚は」では、連鎖退職が起きた職場の管理職と同僚への聞き取りから、周囲の人たちの思いを紹介しています。

 第4章「予防のために、会社と管理職にできること」では、連鎖退職を起こさないためには、組織全体として「簡単に辞めないほうがトク」と思わせるような風土づくりが必要であるとし、組織や管理職にできる、いわば平時の対策として、採用前の詳細な説明・情報提供、定期的な配置転換、残業・長時間労働削減など10項目を挙げています。また、各部署でできることと、人事部門と部署の管理職が連携して行わなければならないことを挙げ、ヨコだけでなく、タテ、ナナメのコミュニケーションの強化を図るべきであるとしています。

 第5章「一人の退職を『蟻の一穴』にしないために」、第6章「被害を最小限にするには」では、実際に退職者が出た後の、さらには連鎖退職が起きた際の、組織のトップや管理職向けの連鎖退職対策を述べています。

 前著同様、調査データや退職者および周囲の関係者の生の声をもとに課題を抽出・整理しているため、シズル感があって分かりやすく、説得力もあります。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはないようにも思いました。

 リテンション・マネジメントを説いている点では、前著の続編とも言えます。本書では、「簡単に辞めないほうがトク」と思わせる組織づくりというのが一つポイントかと思いましたが、そのための施策はどれも組織風土改革に連なるのであり、どれか一つやってみるのもいいですが(分かっていてもできていないことも多い)、これらを複合的に機能させていく必要があるのだろうと思いました。その意味で本書は、実務書であると同時に、気づきを促す啓発書であるかもしれません。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年7月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー