2019年07月26日掲載

Point of view - 第139回 上林周平 ―働き方改革を通じて何を実現したいのか

働き方改革を通じて何を実現したいのか

上林周平 かんばやし しゅうへい
株式会社NEWONE 代表取締役社長

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2002年、株式会社シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者として、プログラム開発に従事。新人から経営層までファシリテーターを実施。2015年、代表取締役に就任。2017年9月、これからの働き方をリードすることを目的に、生産性向上やイノベーションなどを支援する、株式会社NEWONEを設立。

企業にとって、働き方改革とは何のために行うのか

「働き方改革」という言葉を耳にしない日がない中で、あらためて企業にとって、働き方改革は何のために行うのか。
各企業に状況を確認すると、長時間労働の抑制やそれに関連する勤務間インターバル制度の導入、有給休暇奨励等のみを行っているという声が聞かれる一方、長時間労働抑制施策以降に何を行えばよいかが分からないという意見をよく聞く。

長時間労働に対する規制が進み、それを守ることは当然のことである。しかし、長時間労働抑制はあくまで手段であって、目的ではない。企業にとっての狙いをはっきりさせないと、組織として強くなることができない。

働き方改革とは、企業にとって新たなチャンス

働き方改革の推進による、一律の長時間労働の抑制。
それは、時間を掛けようと思えばいくらでも掛けることのできたこれまでとは異なり、「罰則付きの上限規制」という全企業統一ルールの下で戦うことになった、市場環境の変化でもある。
すなわち、「新しいルール・市場環境に変わったことにより、新たに戦えるチャンスが生まれた」と言える。

今までの環境下でうまくいっていた企業は、新しい環境でも良いスタートダッシュが切れるように転換が求められるし、今までの環境下では苦戦していた企業はスタートダッシュができるチャンスでもある。

新しいルールにおいて、何が求められているか

そもそも働き方改革の背景にあるのは何か。
それは生産年齢人口(割合)の減少が大きい。働き手が相対的に減っていく中で、打てる打ち手は二つ。
一つは、今まで働けなかった人を働けるようにすること。子育てや介護、遠隔地等の事情から働けなかった人に対して、時短やリモートワーク、保育所の増設などによって働けるようにする打ち手である。
もう一つは、働いている人のパフォーマンスを上げること。この打ち手も大事になってくる中で、企業としてはどれだけ策を講じられるかが求められてくる。

また、前提としてビジネス環境の変化も捉えておく必要がある。
今までのビジネス環境は、一昔前の製造業文化(工場のオペレーション等)から来ているものが多く、稼働時間(労働時間)の確保と稼働率が重要視されがちだった。
一方で、これからのビジネス環境は、創造性が問われる仕事が非常に多い。そうなると、時間を確保すれば成果が出るのではなく、いかに新たな価値を生み出すことができるかに意識を向ける必要がある。

新たな環境下において、この「一人ひとりのパフォーマンスを上げる」「時間の確保ではなく、新たな価値を生み出すことにフォーカスする」ということが大事になってくる。

キーとなる管理職に求められる、
変化に対応するための三つのポイント

一人ひとりのパフォーマンスを上げ、創造性を発揮させていくには、そのメンバーと関わる管理職がキーになってくる。
今までの環境下での「労働時間を確保して成果を出す」という意識を改め、新たな行動を起こしていくことが求められる。
では、具体的にどのような行動が求められるか。それは大きく三つある。

一つ目は、管理職自身が、自部署の最終成果を明確にすること、その際、上司と対話し、きちんと「絞り込む」ことである。言い換えると、全部真面目に行うという思考からの脱却である。
その上で、部署内の業務に対して、最終成果への影響度が高い業務と低い業務を明らかにし、低いものの「簡素化」や「廃止」を行う。今何を行うことが一番大事かを見極め、注力すべきことに注力し、やらないことはやめるという決断力と推進力が求められる。

二つ目は、メンバー一人ひとりのエンゲージメントを高めることである。
一人ひとりのパフォーマンスを高めるためには、何のために働くのかという目的意識が大事であり、一人ひとりの自発的な貢献意欲や仕事に没頭できる状態を高めることがとても重要である。
具体的には、自分の過去のやり方を押し付けるのではなく、一人ひとりの「働く意味」に興味・関心を持ち、それに合わせた仕事環境をプロデュースすることである。最近では、その一つの具体的な手法として1on1と呼ばれる短めの面談が推奨されているが、そういった手段を通じて、会社や仕事とのつながりや愛着を高めることが大事である。

三つ目は、メンバー間の関係性を高めることである。
Google社が発表した生産性の高いチームの共通因子としてうたった「心理的安全性が高い」状態を創り出し、皆が率直に自分の意見を言い合える関係性を作ることが大事である。
その上で、互いの強みや特徴を理解することにとどまらず、期待や承認として相手に伝えることを促進するのもまた大事である。新たな価値は「新結合」から生まれることが多い。お互いに良さを発信し合い、掛け合わせることで新たな価値の創出につなげていく場を創ることが求められる。

働き方改革の先を見据えると、やはり管理職がキーとなる。
その管理職が意識を変え、具体的な行動を行うことで、各社が強くなることを願いたい。