ピンチを戦略的に乗り越える!
謝罪を成功させる三つのポイント
越川慎司 こしかわ しんじ 国内外の通信会社に勤務し、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米国マイクロソフトに入社、後に日本マイクロソフトにて品質責任者や業務執行役員Office事業本部長を歴任。2017年にクロスリバーを設立し、クライアント企業の売上拡大や働き方改革を支援している。著書『謝罪の極意~585件の謝罪で勝ち取った63億円の仕事術』(小学館)はベストセラーとなっている。 ※アグリゲーター…複数の企業に関わり、短期間に社内外の多様な能力を集め、差別化した商品・サービスを市場に負けないスピードでつくりあげる新しい職種。 |
トラブルを100%防ぐことは不可能である以上、仕事においてミスや過失が発生した場合には、トラブルから逃げずに適切な対処をすることが求められる。「ピンチはチャンス」と言われるように、正しい対処をすればむしろ以前より関係を強化することができ、次のビジネスにつながることもある。私が在籍していたマイクロソフトでの500回を超える謝罪訪問を通じて得た学びを現在の顧客にアドバイスしたところ、2年間で計63億円の追加契約をもらうことができた。その再現性のある「謝罪の極意」について、三つのポイントを紹介する。
謝罪とは、頭を下げに行くことが目的ではない。謝罪訪問をする場合、目指すべきは「信頼回復」と「自分の幸せ」である。そのため、顧客が求めていることを理解した上で臨む必要がある。自分勝手に「伝えること」を目指すのではなく、相手の状況を踏まえて伝えるべきことが「伝わること」を目指すべきだ。
ポイント1 情報を把握する
謝罪訪問の成功は準備で70%決まる。事前にさまざまな状況を理解して、謝罪訪問したときに「そんなことも知らないのか」と火に油を注がないようにしないといけない。また持参する謝罪文に情報の漏れがあっては先に進まない。顧客の担当者と連携し、「誰が、なぜ、われわれを呼び出しているのか」「何に対して怒っているのか」という、怒りの原因となっている情報(第一次感情)できるだけ収集する。それらを理解し、「先方が何を知りたいのか」「どうしてもらいたいのか」を想定できれば、事前に適切な準備ができる。
相手に伝わるためには、水が飲みたい相手にコーヒーを出してはいけない。以下に、顧客側の情報として、確認しておきたい点をまとめた。
・どの部分で問題が起こっているのか
・どのような損失が発生しているのか
・利用状況はどうだったか
・キーマンは誰なのか
・謝罪訪問時、誰が出席するのか
・謝罪訪問を通じて何を期待しているのか
また、上司や同僚に協力を依頼し、顧客目線に立って次の社内情報も集めよう。この事実経緯をしっかりと把握できないと、再発防止策を作ることはできない。
・いつ発生し、いつ解決したのか
・まだ解決していない場合、いつ解決しそうなのか
・まだ解決していない場合、顧客が取り得る回避策は何か
・解決できそうか分からない場合、それはなぜか
・そもそも、なぜ問題は発生したのか
・その問題発生を避けることはできなかったのか
・その問題発生にどの部門が関わっていたのか
・問題解決のためにどの部門(誰)が関わったのか
・社内ではどのような情報がいつ共有されたのか
・管理職、経営陣はどのような対応をしたのか
・問題が解決した場合、その対処で問題が再発しないのか
ポイント2 再発防止策を作り上げる
謝罪訪問に持参するのは「誠意」「謝罪文」「再発防止策」の3点である。このうち、再発防止策の作成には、問題の根本原因を掘り下げることに注力する。事実経緯を時系列で整理して、「なぜその問題が発生したのか?」を5回以上繰り返し、根本原因にたどり着く。表面的な問題解決は一時的なものになりがちで、顧客はその軽薄さを見抜くだろう。例えば「人為的ミス」や「機械の故障」では不十分である。「なぜ?」で掘り下げ、本質的な原因を見つける必要がある。「人為的なミス」を阻止できなかったのは、それが起きることを前提とした管理ができていなかったからである。それが管理できなかったのは、その認識や必要性を持たず、管理体制を整備せず……。
問題の根本原因にたどり着いたら、それを防ぐための対策を5W1Hで作り上げる。ここで重要なのは、「問題が二度と起こらないようにする」ことではなく、「また起こったとしても顧客にできるだけ影響を与えない(もしくは影響を限定させる)」仕組みにすることだ。そのために解決策は社内でしっかり協議する必要がある。その点をしっかり準備してきたかどうかを顧客は見る。再発防止策がうまく伝われば、その後の関係強化につながっていく。
ポイント3 謝罪文に記す内容
謝罪文は「原因」と「再発防止策」、そして「経緯」が記載されたものだ。当日は参加予定者よりも多く準備して持参しよう。含めるべき内容は以下の8点である。
①責任部門・責任者
どの部門が責任を持って報告し、その責任者は誰なのかを記載。一般的に会社が謝罪文を公式に出すときは、会社の代表であるべきだ。
②事実
どのような問題が起きたのか、具体的に記載。
③時系列による経緯
最も重要な要素の一つ。トラブルがどのように発生したのかを分単位で詳細に記載。ここで顧客に与えたインパクトの日時に差があると、説明が進まないため、信憑(しんぴょう)性のある情報を基に、確実なデータを書き入れる。
④発生原因・根本原因
トラブル発生の原因と、顧客にインパクトを与えることになった原因、そしてそのインパクトを限定的にできなかった根本原因をそれぞれ具体的に記載。
⑤発生時の対処方法
初動をどのようにしたか記載。影響が拡散しないよう努めたことなどを併記する。
⑥瑕疵、反省すべき点
振り返って何を反省し、どのような課題をもっているかということを記載。損害賠償の可能性があれば、社内の法務部門と話し合って記載すべきである。
⑦再発防止策
顧客が最も知りたい内容。ポイント2で説明した内容を記載する。
⑧今後のスケジュール
上記の再発防止策を、いつまでに誰がやるかを約束する。チェックポイントを設け、 それぞれの進捗を顧客に対して定期的に報告することを盛り込む。決してできない約束はしてはいけない。
これら三つのポイントが、1万38時間におよぶ謝罪訪問によって得た再現性のある成功方式である。しっかり準備して成功すれば、相手もあなたも幸せになる。ピンチから逃げることなく信頼を得て次のビジネスへつなげてほしい。