これからのマネジメントがすべきたった一つの行動
山田 理 やまだ おさむ 大阪外国語大学を卒業後、1992年に日本興業銀行入行。2000年にサイボウズ入社、取締役として財務、人事および法務部門を担当。同社の人事制度・教育研修制度の構築を手掛ける。2007年に取締役副社長 兼 事業支援本部長に就任。2014年グローバルへの事業拡大を企図しUS事業本部を新設、本部長 兼 サイボウズUS社長に就任。同時にシリコンバレーに赴任。著書に『最軽量のマネジメント』(サイボウズ)がある。 |
マネジメントが"ボトルネック"になる組織の構造上の問題
そもそも、ほとんどの会社組織は階層構造になっています。これはインターネットが普及する前の、「人が同じ場所に集まって仕事をすること」を前提としたものです。この構造は、メンバーは課長に情報を伝え、課長は部長に、部長は担当役員に、担当役員は社長に情報を集約していくのにとても効率的だったんだと思います。
組織図はトーナメント表のようになっていて、勝ち上がった人がマネジャーになり、重要な情報を得る。上に行けば行くほど機密性の高い情報を持ち、重要な意思決定をする権限が与えられる構造になっています。そして、権限が与えられるのと同時に、その部門を管理する責任も持たされます。こうした組織構造も、事業が安定し、年功序列で、メンバーが終身雇用を前提に忖度してくれているうちはよかったかもしれません。
昨今は、事業が複雑化し、価値観の多様化したメンバーが増えている中、マネジャーの役割は"臨機応変に"増えてきました。プロジェクトマネジメント、人材マネジメント、報告調整業務、場合によっては担当者を兼務。これだけの役割を滞りなくこなしていくことが期待されるのです。これは至難の業です。
しかも、マネジャーは社長なんかより圧倒的に数が多い。それだけの人がこの役割を担わざるを得ないので、変化を余儀なくされる企業であればあるほど、マネジャー育成が会社としての課題となります。マネジャー側からすると、とてもプレッシャーが掛かり、ストレスフルな役割になるのです。
この問題を解決する課題は「情報共有」
このマネジャー問題を解決するためには、①すべての役割を実行できるようなマネジャーを育成するか、②その役割自体を減らすか――のどちらかが必要になります。前者は、巷の研修やマネジメントの本に譲るとして、ここでは「どうすればその役割を減らせるか」について考えてみます。
前記のとおり、組織のヒエラルキーは情報を1カ所に集めるためにできていて、情報が集まるから権限も集まります。であれば、逆に情報を分散させれば、役割も分散しやすくなるのではないでしょうか。予算管理や進捗管理、経費精算や人材マネジメントなど、社内もしくはチーム内で関連する情報を共有することで、マネジャーが担う役割を分担できたり、権限を委譲しやすくならないでしょうか。
マネジャーには不正や間違いを防ぐ役割もあります。それなら、情報がオープンなところのほうが悪いことをするのは難しくなりますし、間違ってないかどうかの確認程度であれば、それほど承認者に権限を必要としないものも多いのです。「情報共有が大事」。これだけだと「そんなこと分かってる。既に情報共有はしていますよ」という人も多いでしょう。でも、「情報共有」という言葉の捉え方が、昭和世代とミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれ、2000年代に社会人になった世代)では全く違います。このことを知らない人が、実は多いように思うのです。
マネジャーが持つべき覚悟
昭和世代の情報共有は、インターネットが普及する前の、物理的に人に会う、もしくは、手紙や電話で個別に情報を交換する時代の習慣から来ています。ITを使ったとしても、効率的になっただけの話で、メールの「To:」と「CC:」で情報をコントロールして伝達しているのです。必要な情報を意図した相手にだけ伝達する――それが、情報伝達に対する昭和世代のスタンスでした。
一方で、ミレニアル世代のネットネイティブの若者たちは、オープンにされている情報を当たり前のように検索して知っていきます。自分が発信したい情報をオープンにし、興味ある人がフォローし、アクセスしてきて共有する。ミレニアル世代は、隠そうとしている情報は漏れて当然、知りたい情報は知れて当たり前――そういう世界の中で生まれ育っているのです。
そんなミレニアル世代に対して、マネジャーがすべきことは、「自分が必要だと思う情報を伝達すること」ではなく、「情報を隠さないこと」です。さらに言うと、「会社にとって、自分にとって都合が悪いかもしれないと思う情報こそオープンにすること」なんです。
そうすることで、メンバーに情報が行き渡り、役割を分担することもできます。同じ情報を得ることでチームに対して主体的になれますし、いろんなアイデアが出てくる可能性も増えます。何より、信頼されていると感じて「心理的安全性」(社員が自分の考えで自由に発言・行動しても危険や不利益はない、と安心できる状態)が生まれ、公明正大な風土がチーム内に醸成されていきます。つまり、マネジメントがまずすべきことは、マネジメントのスキルを磨くことではなく、情報をオープンにすることです。
これは、「できる/できない」という能力ではなく、「するか/しないか」というだけの覚悟の話です。マネジャーに大切なのは、「清水の舞台から飛び降りる覚悟」ではなく、「清水の舞台から飛び降りるのが怖いと言える覚悟」なんです。
昭和世代とミレニアル世代の橋渡しとなりたい
もともと『最軽量のマネジメント』は、ミレニアル世代でこれからマネジメントをする、もしくは、既にマネジメントをし始めたものの、不安や迷いを抱えているような若い社会人の皆さんに、肩の力を抜いてもらおうと思って書いた本でした。自分自身がマネジメントしてきた経験、そして、組織をつくりマネジャーを育成してきた経験から見えてきた、マネジャーに対して負担が掛かってしまう組織の構造上の問題。その中で、どうしたら負担を軽くできるのか――そんなことを伝えられればいいな、というところから始まりました。
ただ、昭和世代の私が無意識のうちに学びながらやってきたことは、ミレニアル世代の皆さんにとっては、とても当たり前のことでした。逆に、昭和世代の人たちにはとても敷居の高いことなんだということにも気が付きました。ミレニアル世代の人たちがこれからマネジメントをしていくには、昭和世代の理解が必要なんです。
最軽量のマネジメントを実現していくには、昭和とミレニアルの世代を超えた理想の共有が必要です。それを橋渡しすることで、皆さんの会社がよりチームワークあふれる会社になればいいなと思います。