2020年06月26日掲載

Point of view - 第159回 後藤功太 ―新型コロナウイルス禍であらためて見直すべき新人教育と関わり方

新型コロナウイルス禍であらためて見直すべき新人教育と関わり方

後藤功太 ごとう こうた
ふくしえん社労士事務所 代表 社会保険労務士
人材定着コンサルタント

日本福祉大学卒業後、介護施設運営会社に入社し、介護業務担当に加え新人・中途社員の受け入れ・面談・育成企画などを担当。職場改革を抜本的に行った結果、離職率を20%から5%に改善させる。ふくしえん社労士事務所を設立後は、介護・医療事業者を中心に採用から育成、定着までの仕組みづくりの一環として、人事評価制度構築、マニュアル作成、研修事業を展開。コミュニケーション改善による社員の人間関係構築・離職率を低減し、人事評価・労務環境の改善による社員のモチベーションや定着率向上の支援をしている。

「明日会ったときに話そう」が通じなくなってくる

 新型コロナウイルス感染拡大の影響は、既に全世界で広まり、企業でも新入社員に限らず多くの方が不安を感じている状況かと思う。その中で、教える立場である先輩・上司にとってもこれまで経験したことがない事態のため、おそらく「絶対的な正解」はなく、誰もが探りながら進めていくしかない。
 ただ、一ついえることは、新型コロナウイルスによって、これまでの関わり方を大きく変更する点と、これまでと変わらない点がはっきりするということだ。
 まずは、働き方について。面と向かって話す機会が減っている以上、一つひとつの関わりに注力していかないと、相手の異変や要望に気づかないことが大いに考えられる。「今日言わなくても、明日会ったときに話そう」といっても、翌日は会社出勤ではなくリモート出勤の可能性があるので、結局話せずじまいということも起き得る。
 そのため、「まあ、また今度で」という関わり方が、今後は通用しなくなることを意識しておく必要があるのだ。

「分かっていないかも」を前提としたフォローが大事

 現状の世の中で、今まで以上に気を付けなければいけないことがある。それは、「今後への不安感」。イメージとして、新人たちは通常の2倍以上の不安を抱えながら仕事に取り組んでいると思っても大げさではない。なぜなら、初めてやる業務に加えて、初めてやるリモート作業と、それに周りの先輩スタッフも慣れていないとなれば、環境の変化に不安を感じないわけがないからだ。また、教育する立場である先輩スタッフも、いつもの勝手が違うのに、「知っているだろう」「分かってくれているはず」という考えの下で進めてしまうと、一気に「辞めたい」と思うスタッフも出てくる危険性がある。この場合、いつもよりも「知らないかも」「分かっていないかも」という疑いを持ちながらの関わり方が必要になる。
 一方、「初めてだから分からない」というのをいいことに、緊張感がなく安易に考えている新人もいる。実際に、新人研修をリモートで開催した際に、周りに先輩スタッフがいないことで、居眠りや肘をかけながらの受講など、これまでの研修とは全く違う新人たちの姿勢に戸惑った教育担当者がいたことを聞いたことがある。気を引き締めるために、リモートの中でも相手の表情一つに注意を向けて、問題があれば画面上でも叱責をする姿勢が大事になってくる。

基本原則のコミュニケーションは怠らない

 これまでは毎日、面と向かってコミュニケーションを取っていた習慣があったことで、ちょっとした変化に気づくことができて、都度フォローもできていたかと思う。ただ今後は、その習慣が覆る可能性があり、1回1回のコミュニケーションの「質」も求められるようになる。
 例えば、久しぶりに会う部下に対して、以前と違う点がないか「過去と比べてみる」こと。そのためには、過去がどうだったかを覚えておく必要があり、あらためて部下の状況をメモしていく必要性が高まってきた。「2週間前には、新しく取り組む仕事に意欲的だった」「1週間前は、分からないことでミスを犯し、自信を失っているように見えた」など、会ったときの表情や姿勢、気持ちの変化などを適宜メモしておくことで、久しぶりに面と向かった際に変化に気づきやすくなるのだ。そしてその変化への気づきが、スピーデイーで適切な対応につながっていく。

「監視」ととられる関わり方はNG

 一方、部下の表情や姿勢を注視するに当たっては注意が必要だ。特に、リモート勤務となってから、よく挙げられている従業員の不満に「上司からの監視で働きにくい」といった声が多く出ている。良かれと思った行動であるかもしれないが、注視するのと監視するのとは違うことを理解する必要がある。相手にとって威圧感があり、ちょっとした仕草に反応されてしまうと、それは効果がないと言わざるを得ない。
 この場合、相手の行動を「見る」中で、「何か困っていることがあったら、いつでも画面上から質問してもいいからね」と声をかけることが大切だ。くれぐれも、間違い探しをしたり、相手の癖を指摘するような関わり方をしないこと。ポイントとしては、上司はやることよりも"やらないこと"をはっきりさせて行動することだ。いつも以上に関わろうとするあまり、余計な言動や行動が逆効果になることも考えられる。であれば、いっそ必要のときにだけ画面共有した上で話し合いをすることも選択肢の一つといえよう。

人材定着に向けて、今のうちに取り組むべきこと

 非常時の中でも、しっかり人材定着を図るためには、やはり職場環境を整備する必要がある。その一つが、マニュアル作成だ。「見て覚えろ」が通用しなくなってきた環境のため、あらためてマニュアルの必要性が求められているのだ。
 誰がやっても同じ結果をもたらすことができるのが、マニュアルの効果であり本来の役割である。そのため、この機会にマニュアルを見直し、新人だけでなく部下も同じ行動ができているのかチェックしておくことをおススメする。そして、マニュアルも紙ベースだけでなく、ネット上でも閲覧ができるようにしておくことも今後求められるだろう。また、文字だけでなく動画マニュアルも効果的なので、時間が許す限り優先順位を高く持って作成に取り組んでいくとよい。
 マニュアルだけでなく、それを教えてチェックをするOJTの体制も見直しする必要がある。今までより、状況を確認する時間が限られてくるため、いつの間にか何かができていないことでミスやトラブルが起きてしまうといった危険性も考えられる。そのため、「教える」「できているかチェックする」「フォローする」といったOJTの一つひとつの体制を、これまでよりも少ない時間になる一方、「回数」を増やすことで補うようにするとよい。例えば、教えるポイントを細分化して、一つひとつの教えるボリュームは少なめにし、その分教える回数を増やして覚えてもらえるようにする。できているかチェックする1回当たりの項目は少なくして、その分何度もチェックしておくことで定着させていくようにする、など。
 一気に教えることや一気にチェックするほうが効率的であるが、それによって定着しない危険性がある。そのため、リモート勤務の中でもOJTができる体制を整えておくことも必要なのだ。

 ここまで、新型コロナウイルスの影響によって、新人スタッフや部下との関わり方が大きく変わってくる点について伝えてきた。特に、新人スタッフの不安を払しょくし、職場で仕事に就いたときにはしっかりと頑張ってもらえるように、そしてこうした非常時の中でも自社のスタッフとして定着してもらえるように、どのようなことを考え、行動していくべきかがとても大事になってくる。
 そのために、「コミュニケーションの先延ばし意識を控えること」「通常よりも2倍以上の不安を抱えているという前提で、分かっていないという疑いを持ちながら接すること」「監視は厳禁。"やらないこと"を明確にして関わりを持つこと」「今こそ、マニュアル整備・OJTの見直しを徹底しておくこと」を意識して、この錯綜さくそうした世の中でも働きやすい環境づくりに励んでいただきたい。