ストレス耐性が高い人を見抜くポイントは、○○○能力にあり
武神健之 たけがみ けんじ 外資系企業を中心に年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を通じて、働く人のココロとカラダの健康管理をお手伝いしている。"メンタルヘルス対策なのに、楽しく学べる"研修で、不安とストレスに悩まない、落ち込まない技術を広めている。 |
日々、産業医として診察をしていると、学生時代に優秀だった人や、有名な会社から転職してきた人が、自社でストレスに悩み、心身ともに疲弊しつぶれてしまうというケースを見かけます。一方、学生時代には目立った成績ではなかった人や、全く期待されていなかった中途採用者が、結果をしっかり出し、厚い人望を集めて、どんどん昇進していくこともあります。
この違いはどこにあるでしょうか。産業医として、通算1万人以上と面談する中で見えてきたのは、子ども(学生)時代の過ごし方が影響しているということでした。
認知能力を超える非認知能力
比較的ストレスに強い人に子ども時代について聞いてみると、多くの人に関して、「認知能力」だけでなく、「非認知能力」の面でも継続的に育まれてきたという共通点がありました。
認知能力とは、テストの点数や偏差値、IQなど、数字で測定可能で、従来の学校教育等で重点が置かれてきたものです。"ハードスキル"とも言われ、言われたことをやる、テストの過去問を解く、塾や予備校での学習、丸暗記などの時間効率がよい勉強によって得られやすい特徴があります。
一方、非認知能力は"ソフトスキル"とも言われるものです。数字だけでは測れない、"総合的人間力"を意味します。
勤勉性、外向性、協調性、精神的安定性などが代表的ですが、このほかに、まじめさ、好奇心、社交性、利他性、自己肯定感、責任感、想像力、やり抜く力、自主性、積極性、コミュニケーション力、共感力、柔軟性、忍耐力などさまざまなものがあります。
なぜ"総合的"と呼ぶかというと、例えば、回復力(レジリエンシー)に優れる人がいたとして、その人は回復力に優れるという1点だけで、メンタルヘルス不調になりにくいのではありません。
そのような人は多くの場合、職場で日ごろから上手にコミュニケーションを行っていたり、分からないことを人に聞く素直さや謙虚さ、また、周囲を巻き込む行動力、そして自身の試行錯誤ややり抜く力など、さまざまな要素を持っていたりします。そのため、そもそも回復力をそこまで要さない、仮に回復力を要する事態があったとしても周囲がサポートしやすい人なのです。非認知能力とは、このように複合的なものです。
どうして非認知能力が必要か
もともと学生時代などには優秀だったのに、社会に出て苦戦する人がいますが、多くの方を面談してきて、それは「認知能力の獲得のために、非認知能力を犠牲にしてきた」ことも小さくないと考えています。
ある有名大卒の入社1年目の男性社員は、仕事の飲み込みや分析力は新卒とは思えないほど優れていましたが、チームプレーが苦手で融通が利きません。部内で同僚と協調できず、次第に誰も彼に仕事を教えなくなり、孤立しました。産業医面談で、精神面から来る体調不良を認めるものの、本人は最後まで"上司が悪い"という気持ちを変えることはできず、結局、退職していきました。
また、ほかの会社で中途採用された女性社員のケースでは、博士号を持っているためか、周囲をやや小ばかにする傾向がありました。締め切り間近に起こったトラブルで誰にも助けを求められず、結果として大失敗してしまい、そこからうつによる休職となりました。
社会人として仕事をする上で三つの必要なこと
このように、いくら認知能力が高くて優秀でも、社会では通用しないことは多々あります。社会人として仕事をする上では、学校の授業では教えてくれない3種類の非認知能力が必要だからです。
まず、学生時代は、試験など"自分の課題を解決すること"が求められていましたが、社会人になると"相手(お客さまやチーム)の課題を解決すること"が求められます。他人のために何かをするには、相手の問題を察したり、聞き出したりする共感力やコミュニケーション力、利他性などが必要です。
二つ目は、協調性や忍耐力、回復力です。学生時代は仲のいい友達たちと過ごしていればよかったのですが、社会人になると上司やクライアントなど、苦手だったり気の合わない人たちとやっていかなければなりません。
三つ目は、行動力、やり抜く力、責任感です。学生時代は勉強で知識をつけて試験で点を取るという"机上"での作業で評価されましたが、社会人は、知識を活用して結果を出す"行動"が求められます。それには行動力、やり抜く力などが必要になるのです。
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もちろん、仕事へのミスマッチから来るストレス原因は、どちらの能力不足でも起こり得るものです。単にその仕事に対する十分な認知能力(基本的能力)が欠けている場合もありますので、認知能力はある程度は必要です。ただ、ストレスに強くあるためには、認知能力を上回る非認知能力が必要なのです。
非認知能力の高い人は、自分の知らなかった新しい世界の人々と交わっても、協調し、試行錯誤を繰り返し、転んでも立ち上がることができます。その姿勢こそが、ストレスに強いと言われるゆえんなのです。
あなたの職場では、どのような非認知能力を持った人が欲しいですか?