2020年10月09日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2020年10月


ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介
(調査・編集: 主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 10月1日、多くの会社で内定式が開催されましたが、今年は「対面」「対面とオンラインの併用」「オンライン」と、企業によって対応が分かれたようです。
 経団連の会員企業へのヒアリングによると、「対面」での実施企業は、伊藤忠商事、三井物産、キリンホールディングスなどで、全体の2割にも満たなかったとのこと。キリンホールディングスは、本社と札幌、仙台、大阪の会場をオンラインでつなぐ形で開催するなど、対面型の場合も本社に一堂に会するのではなく、会場を分散しての開催も多かったようです。また、トヨタ自動車や富士通、パナソニックなどは、今回のコロナ禍を理由としてではなく、以前から学業優先を理由に、内定式自体を取りやめている企業もあります。
 今年は、オンライン説明会に始まり、最終面接までのすべての面接をオンラインで受け、内定式もオンラインとなると、入社まで本社に行くことがない「フルオンライン就活」という状況になっています。来年4月の状況にもよりますが、今年のように入社式も中止やオンラインとなると、社員や同期と対面するのはさらにその先という異例の事態となります。一日も早く、同期と会える日が来ることを願うばかりです。

調査時点(2020年7月上旬)で8割の学生が就職活動を終了

 今回は、就職活動が少し落ち着いた7月上旬のタイミングで、HR総研と理系大学院生向け就活サイト「LabBase」(株式会社POL)が共同で実施した「理系学生(院生)の実態調査(7月)」の結果を取り上げます。
 文系と理系では、新卒の採用事情が大きく異なります。文系で新卒といえば主に学部生を指しますが、理系では国公立大学を中心に大学院生(修士)の割合が多くなります。理系大学院生の採用活動は、文系学生とは異なり、専攻に関連した職を志望する学生が多い点や、研究室(指導教官)との強い関係も特徴です。教授の意向が就職先を左右することもあり、人事部は研究室との関係を重視します。
 調査では、理系大学院生がどのような方法で情報収集を行い、どのような点を重視して企業を選んだのかなど、実際に就職活動を経験した理系大学院生にその実態を聞いてみました。「専攻分野と入社予定の企業での業務内容の関連度」「どのようなタイミングで志望度が向上したのか」など、フリーコメントを含めて紹介します。
 まず、調査時点(2020年7月上旬)での理系大学院生の就職活動の実状を見てみましょう。「就職活動の状況」は、「就職活動を終了した」と回答した学生は81%に上り、「進学希望のため、就職活動をしていない」(3%)という学生もいるものの、「就職活動を続けている」学生はわずか15%にとどまり、大方の学生はこの時点で内定を得て就職活動を終了しています[図表1]

[図表1]7月上旬時点での就職活動の状況

資料出所:HR総研×LabBase「理系学生(院生)の実態調査(7月)」(以下図表も同じ)

 1社でも応募した学生を分母に取ると、既に内定を受けている学生は94%に上り、そのうち複数の内定を持っている学生も54%と、半数以上となっています[図表2]。内定率の高さに対して、内定社数が「1社」の割合が40%と比較的高くなっているのは、学部生よりも大学院生のほうが、同時に複数受験が認められない「推薦」利用者が多いためと推測されます。事実、本項目の回答者の28%が推薦を利用しています。

[図表2]内々定を受けた社数

 リクルートキャリアが7月7日に発表した「就職プロセス調査」では、7月1日時点の就職内定率は、文系で67.6%、理系(学部生+院生)で86.0%となっており、コロナ禍での厳しい就職活動となった中でも、理系大学院生の就職活動はかなり進んでいることがうかがえます。

半数が入社予定の企業のインターンシップに参加

 就職活動の各プロセスについても見てみましょう。まずはインターンシップ参加社数です[図表3]

[図表3]インターンシップに参加した社数

 「0社」は13%しかなく、残りの87%、9割近い学生がインターンシップに参加しています。「1~3社」が最も多く41%に上りますが、「4~6社」24%に続き、「7~9社」が12%、さらには「10社以上」という学生も10%もいます。理系大学院生は、研究との両立で、それほど就活に時間を割くことは難しいイメージはありますが、意外とインターンシップにも参加しているのだなと思われた方も多いのではないでしょうか。
 インターンシップに参加した時期を見てみると、「修士1年・8月」が54%、「修士1年・9月」が52%と高く、「修士1年・2月」46%、「修士1年・1月」41%が続きます[図表4]

[図表4]インターンシップに参加した時期(複数回答)

 国内で新型コロナウイルス感染拡大が騒がれ始めたのは2月になってからで、2月下旬に予定されていたインターンシップやイベントが中止となったケースもあったため、本来であれば参加率が50%を超えていた可能性もあります。驚くのは、「修士1年・12月」が1月とさほど変わらない39%にも達していることです。「修士1年・11月」「修士1年・10月」もそれぞれ25%、24%と、4分の1の学生がインターンシップに参加しています。夏季休暇中に開催されるサマーインターンシップだけでなく、その他の時期にも、文系や理系学部生と同様に参加していることが分かります。
 入社予定の企業のインターンシップ参加実績を聞いたところ、「参加した」学生は49%と半数に達し、「参加しなかった(応募したが落選した・欠席した)」(9%)までを合わせれば、ほぼ6割の学生が入社予定の企業のインターンシップに応募していたことになります[図表5]。理系大学院生も、インターンシップが採用選考において重要な場であると認識していることの表れでしょう。

[図表5]入社予定の企業のインターンシップ参加の有無

「推薦」利用により、就職活動量に文理の差

 次は、エントリー社数について見てみましょう[図表6]。「4~6社」が最多で22%、次いで「1~3社」が19%、「10~14社」が17%などとなっています。また、「1~9社」(「1~3社」「4~6社」「7~9社」の合計)と回答した割合は54%と半数以上に上っており、エントリー時点である程度絞り込んでいる学生が多いことが分かります。ただ、中には「30社以上」の11%をはじめ、「20社以上」(「20~24社」「25~29社」を含めた合計)とする学生が20%もいます。

[図表6]エントリーした社数

 面接社数については、「4~6社」が最多で29%、次いで「1~3社」が28%、「7~9社」が17%などとなっています[図表7]。「1~6社」(「1~3社」「4~6社」の合計)で57%と6割近くを占めています。

[図表7]面接を受けた社数

 HR総研が「楽天みん就」と本年6月に実施した「2021年卒学生の就職活動動向調査」では、文系学生の面接社数は「1~6社」が36%にとどまり、「10社以上」が41%にも上ります。「10社以上」の面接を受けた理系大学院生は、25%と4分の1にとどまっており、面接社数では大きな差異が出ています。ここでも「推薦」利用の学生の割合が多いことによる、就職活動量の違いが見られます。
 就職活動を終了した学生を対象に、入社を決めた企業をいつ知ったのかを聞いたところ、「以前から知っており、もともと入社を志望していた」は24%にとどまり、「以前から知っており、就職活動の中で志望するようになった」が50%、「就職活動開始以前は存在を知らなかった」が26%という結果となりました[図表8]

[図表8]入社を決めた企業の認知時期

 文系と理系を比較すると、理系のほうが大手志向の傾向が強く、理系の中でも学部生よりも大学院生のほうがその傾向が強いと考えられています。現に、今回の結果でも「以前から知っており、もともと入社を志望していた」と「以前から知っており、就職活動の中で志望するようになった」と回答した学生を合わせると、74%と4分の3近くに達しており、就職活動以前に既に社名を知っていた企業に入社を決めています。
 ただ、もう一つ別の見方をすることもできます。もともとは志望していなかったのに「就職活動の中で志望するようになった」50%と、「就職活動開始以前は存在を知らなかった」26%とを合わせた76%、全体の4分の3以上の学生が就職活動を通して志望度を上げていった企業に入社を決めたという事実です。特に、「就職活動開始以前は存在を知らなかった」とする学生が4分の1以上もいるという事実は、大企業・人気企業以外の企業にとっても、希望の光となるのではないでしょうか。
 では、どのようなタイミングで学生の志望度は高まるのでしょうか。入社を決めた企業について、「最も志望度が高まったタイミング」を尋ねたところ、「インターンシップ」が最も多く28%、次いで「採用面接」が23%、「説明会・セミナーでの説明」が19%などとなっています[図表9]

[図表9]入社を決めた企業への志望度が最も高まったタイミング

 上位二つはともに、学生にとって社員と双方向のコミュニケーションを取れる場面であり、コミュニケーションの密度が高いこれらのタイミングを、いかに学生の志望度を高めるために活かせるかということが企業にとっては重要になってくるといえます。ただし、インターンシップで志望度を高めた理系大学院生が多いものの、学生は複数の企業のインターンシップに参加しているため、より充実した内容のインターンシップで他社と差別化し、学生の心をつかむことが求められます。また、もう一つ注目したいのは、「もともと第1志望だった」と回答した学生が5%にすぎないことです。大多数の学生は就職活動のプロセスの中で志望を固めているということになります。

「自分の将来の働く姿」をイメージできるかが鍵

 学生のフリーコメントから、志望度が高まった要因をそれぞれ具体的に見ていきましょう。

【インターンシップ】

・長期インターンシップに参加して、自分の将来の働く姿を想像することができた(愛媛大学大学院・機械)

・仕事に対する考え方を深く知ることができたため。またどのような人が同期となるのか、鮮明にイメージすることができた(金沢大学大学院・建築・土木)

・グループワークを通じてより仕事のイメージができ、社員の方とも交流することができた(東京農工大学大学院・生物・農)

・社員の方々の雰囲気や人柄が自分に合いそうだと感じた(広島大学大学院・化学)

・もともとプロダクトや理念に興味を持っており、インターンシップを通じて社内・社員の雰囲気が自分に合っていると感じて入社を決意しました(東京工科大学大学院・情報)

・参加した研究開発インターンで社内の雰囲気、社員さんの技術力などがとても良い印象だったため。また、インターン終了後も延長インターンで論文執筆の機会もあったので、社内の人と仲良くなれた(同志社大学大学院・情報)

【採用面接】

・面接官の雰囲気が良かった。こちらの希望や性格を理解してくれようとする姿勢があった(岐阜大学大学院・生物・農)

・選考の中で、自分を最も引き出してくれたと感じた。また、選考途中で会社説明などの動画を見て、志望度が高まった(京都大学大学院・生物・農)

・面接で自分の素を出すことができた。また、面接官の印象が良く、一緒に働きたいと思えた(東京大学大学院・生物・農)

・面接を受けている中で、面接官の方々の雰囲気や熱意に魅力を感じ、ここで働きたいと思った(九州大学大学院・化学)

・面接時の会話の中で、社内の働く意識や社員同士のコミュニケーションの取り方など知ることができたため。最終面接時の役員の方の対応を見て、志望度が高まりました(山形大学大学院・化学)

・面談してくださった方が皆さん仕事に誇りを持っていて、とても楽しそうにご自身の仕事について語っていらっしゃった(早稲田大学大学院・化学)

【説明会・セミナー】

・働くイメージが具体的に持てた(茨城大学大学院・天文学)

・働いている方が生き生きとしていた。具体的な環境や業務の説明を通して興味を持った(神戸大学大学院・電気・電子)

・昨今の情勢に合わせた強み・弱みをしっかりと説明されていたため印象に残った。また、1対1のweb説明会があり、知りたいことを知ることができた(九州大学大学院・電気・電子)

・参加後のフィードバックから自分に対する興味がとても深いと感じた(千葉工業大学大学院・機械)

・社員の方との会話をする機会が非常に多く、コロナウイルス感染拡大防止としてオンラインでの説明会でも満足のいく話を聞けたこと。広い事業領域を持つため、いろんな人から話を聞いて自分のやりたいことを明確にできた(東北大学大学院・電気・電子)

【OB・OG】

・福利厚生が手厚く、家庭を大切にすることができる企業だと感じた(京都工芸繊維大学大学院・化学)

・社内の雰囲気や社風を深く理解できた。また、(こっそり?)社内の食堂や設備を案内してくれたので、働く場所をほかの学生よりも深く知ることができた(上智大学大学院・電気・電子)

・実際に働いているOBの話を聞いて、入社したい気持ちが高まった(青山学院大学大学院・情報)

・OBとの面談を通じて、自分の専攻で得た知識が活かせると思った(北陸先端科学技術大学院大学・情報)

・先輩社員の人柄および業務内容が自身のイメージと一致していると思われた(大阪大学大学院・機械)

【内定後のフォロー】

・リクルーターがどんな質問にも答えてくれた(岐阜大学大学院・生物・農)

・スピード感(京都大学大学院・エネルギー)

・コロナの影響がある中で自分に対するサポート姿勢が変わらず手厚かった(埼玉大学大学院・物理・数学)

・来てほしいという意思も十分に伝わってきたが、それ以上に自分の進路について親身に考えてくれた(静岡大学大学院・機械)

・これでもかというほど丁寧な対応だった(早稲田大学大学院・化学)

【HP等からの情報収集】

・企業選びをしていく上での安定性(千葉大学大学院・電気・電子)

・給与、福利厚生、勤務地、業務内容等のバランスがよかった(千葉大学大学院・化学)

・さまざまな製品を作っているため安定性が高そうだった(早稲田大学大学院・化学)

・業界での規模の大きさや、事業内容に関して詳しく知ることができ、志望が高まった(大阪大学大学院・化学)

・企業HPが最も内容が充実しており、説明会などと比べても志望業界の企業をじっくりと比較できた(東京大学大学院・生物・農)

内定承諾の基準は条件面より事業内容や仕事内容

 次に、入社を決めた企業への内定承諾の決め手について見ていきましょう[図表10]。最も多かったのは「事業内容」の62%、次いで「仕事内容(自分の専攻やスキルが活かせる)」が55%、「企業規模」「社風」が46%などとなっています。上位二つは6割前後の理系院生が挙げており、条件よりも仕事ベースで入社企業を選ぶ学生が多い傾向がうかがえます。

[図表10]入社を決めた企業への内定承諾の決め手(複数回答)

 「楽天みん就」と6月に共同で実施した「2021年卒学生の就職活動動向調査」の結果では、文系学生は「仕事内容」が73%と最多で、次いで「会社の雰囲気」と「事業内容」がともに60%となっていたことからも、「事業内容」や「仕事内容」の項目については文系・理系関係なく、学生が入社する企業を決める際に重視される要素となっていることが分かります。また、「企業規模」が3位にランクインするあたりに、理系学生、特に大学院生においてはやはり「大手志向」が強いことがうかがえます。
 一方、ポイントが低かった項目に着目した場合、もう少し上位でもいいのではないかと思えるのが、「人事制度・評価制度」(4%)、「教育体系・育成方針」(9%)、「配属先の希望実現率」(9%)、そして理系であればもっと重視してほしい項目として「商品・サービス・技術力」(14%)が挙げられます。かつては「技術力」にこだわりを持つ理系学生がもっと多かったと記憶しているのですが、近年の理系学生は文系学生との垣根が低くなっているということなのでしょうか。
 最後に、理系大学院生は自身の専門分野を活かせるかどうかも重要な判断軸になりそうですが、この点についてはどう考えているのでしょうか。「学生自身の研究テーマ・専攻分野と入社後の業務の関連性」について聞いてみたところ、「自身の専攻分野の知識を一部活かすことができる」が最も多く41%で、「自身の具体的な研究テーマと関連が深い」は意外にも10%にとどまりました[図表11]

[図表11]自身の専攻と入社後の業務の関連性

 「自身の具体的な研究テーマと関連が深い」「自身の専攻分野と関連が深い」「自身の専攻分野の知識を一部活かすことができる」までを合計すると73%と4分の3近い学生が、自身の専攻分野に関わりのある業務を選んでいることが分かります。ただ、裏返せば、大学院まで進学したものの専攻分野での限界を感じたのか、新たな分野に興味を持ったのか、「ほとんど関係ない」とする学生が22%もいるということになります。ぜひ新しい分野で活躍してもらいたいものです。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
http://www.hrpro.co.jp/