2020年10月09日掲載

BOOK REVIEW - 『働き方改革の世界史』

濱口桂一郎、海老原嗣生 著
新書判/256ページ/840円+税/筑摩書房 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 厚生労働省「労働組合基礎調査」(2019年)によると、雇用者数に占める労働組合員数の割合(推定組織率)は16.7%と過去最低の数字となった。近年は労働組合の存在感の低下が人口に上ることも多い。そもそも、日本の労働組合は世界でも異質な形態をとっており、海外の労働組合の多くは職業別や産業別といった企業横断的に組織されているのに対し、日本の多くの労働組合は、企業ごとに組織されてきた。こうした形態の差が、団体交渉や労働争議を実行する上での大きな違いとなっている。――本書はタイトルのとおり、英米独仏、そして日本と世界に視点を広げながら、労働思想がどのような歴史的経緯をたどって成り立ってきたのか、また、どのように労働条件を守り改善する仕組みができてきたのかを深掘りしていく。

 本書は、著者の1人が発行する雑誌『HRmics』の連載を一冊にまとめたものだ。全12講の中で、労働問題に関する古典的名著12冊を取り上げ、各講の冒頭に「受講準備」(知っておくと理解が深まる時代背景をまとめた解説)を置き、続く「本講」で詳細に労働思想の原典を読み解いていく。また、各講の要点や流れをおさえた「復習ノート」も挿入されるため、さながら大学の講義を受けている感覚を味わうことができる。

 労働思想の古典的名著を当時の時代背景も踏まえながら取り上げていく本書であるが、ジョブ型やメンバーシップ型など、日頃耳にする機会が増えてきた言葉の歴史的背景と現在の状況についても触れている。そのため、「ジョブ型人事制度」といった言葉が、本来はどのような議論の蓄積を背景に持つ概念なのかを大本から知ることができる。本書の内容を実務で用いる機会は少ないと思われるが、労働思想の歴史と構造への理解を深めるための貴重な一冊である。

 



働き方改革の世界史

内容紹介

経営者と従業員の利害は、どのように調整できるか。
労働者の団結や労使協調、あるいは経営参加という現代の労使関係の理論はどのように生まれたか。
英国のコレクティブ・バーゲニング、米国のジョブ・コントロール型労使関係やフランスの自主管理思想、ドイツ型パートナーシャフト、日本型雇用など、世界中で模索され、実践されてきた労使関係の理想と現実とは。
労働イデオロギーの根源を探訪し、働くということを根本から考える一冊。