2020年11月13日掲載

Point of view - 第168回 佐々木かをり ―ダイバーシティを数値化しよう

ダイバーシティを数値化しよう

佐々木かをり ささき かをり
株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長
株式会社ユニカルインターナショナル 代表取締役社長

ダイバーシティの第一人者。企業組織のダイバーシティと企業価値の関係を可視化する「ダイバーシティインデックス」を発案。OECD、APECなど日本代表として参加・講演するほか、世界各地で講演は1600回以上。
金融庁「金融審議会」、内閣府「規制改革会議」、法務省「法制審議会」、経済産業省「産業構造審議会」の審議委員などを歴任。

 「人事の仕事は成果が見えにくい」と思っていらっしゃる方も多いだろう。講演などを通じて人事部の方とお話しすると、ご相談を受ける課題は二つ。いろいろな取り組みを重ねても、「社内の風土が変わらない」こと。もう一つは「効果が分かりにくい」ということだ。
 数十年前は地味な部署に見えた人事部が、今は注目の部門、企業の要である。明日の企業をつくるエンジンであり、女性活躍、外国人採用、障がい者雇用、働き方改革……時代の流れや要求に合わせて、多くの取り組みを行ってきている。しかし、どの程度「成果」につながっているのかが見えにくい。多くの企業が取り組むようになった「ダイバーシティ」の目的と意義を踏まえて、この二つの課題解決を考えていきたい。

女性活躍から、ダイバーシティへ

 世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数では、日本は2019年発表で153カ国中121位。G7では最下位ということも広く知られ、女性活躍というテーマに経営者も関心を持ち始めた。通称「女性活躍推進法」が2015年に成立し、301名以上の従業員を雇う企業では、女性活躍に関する人数や目標、アクションプランをホームページ等で発表しなくてはならなくなったことも拍車を掛けた。そしてその対象は、2022年4月には従業員数101名以上の企業にまで拡大される予定だ。
 今、企業は常に「女性の割合」を意識することとなり、その対応は人事にとって重要度の高い業務となった。OECD(経済協力開発機構)が行った「国際成人力調査」で、日本の男女は、読解力と数的思考力の習熟度で参加国第1位の成績を収めている。いわば、世界一の教育水準にある日本が、高い仕事力を備えた女性に十分な活躍機会を設けず、むしろ男性との格差をつけていることは、女性活躍に関心があるか否かを超えて、大きな経済的損失であることが分かる。
 また、各社での取り組みをリードする女性活躍推進室は、多くがダイバーシティ推進室へと名前を変えてきた。ダイバーシティと女性活躍を混同している企業もまだ見られるが、「ダイバーシティとは、視点の多様性」であるから、女性活躍を組織に多様な視点を取り入れるための一歩目と捉え、その先へ動いていく必要がある。

ダイバーシティが利益に直結

 では、「視点」が増えると、何が良いのだろうか。2012年にクレディ・スイス社が世界の2360社を調査した結果では、女性役員が1人以上いる企業は女性役員のいない企業より株価実績が26%上回っていたと報告されている。また、女性のキャリア推進を支援する非営利組織のCatalystからは、Fortune500の企業のうち、女性役員が3名以上いる企業のほうが、女性役員の少ない企業より売上利益率で84%上回る実績を上げているとも報告されている。このような経済効果の発表は他にも多く、女性を活用することが企業の利益に直結していることが分かってきている。日本を見ると、女性管理職はわずか7.7%、取締役も7.1%。女性取締役がいない企業が半数を超えている。これでは、企業成長に貢献する要素になりにくい。

※女性管理職:㈱帝国データバンク調べ、女性取締役:㈱プロネッド調べ

 私は長年、「ダイバーシティとは、視点の多様性」と定義しているが、組織に複数の視点が存在することで、常に健全な議論、健全な点検を促しながら歩むことが可能になる。マネジメントに携わる女性を増やすことは最初の取り組みで、最終的には新しい視点をより多く加えることが目的なのである。これが企業のガバナンスを高めることになり、いろいろなリスクを想定して危機管理できる体制となり、さまざまなアイデアが寄せられてイノベーションを導く。では、その進み具合をどう計測すればよいだろう。

「ダイバーシティインデックス」で可視化を

 今までは女性の数、外国人の数、障がい者の数を数えるなど外形的な計測しかなかった。しかし、女性が増えても一人ひとりのマインド、組織構造や決定プロセスなどが変わらなければイノベーションは起きにくい。一方で、企業価値の評価も変化しつつある。ESG投資の規模が世界的に大きくなり、財務情報だけでなく、非財務の評価も重みを増している。ダイバーシティのない企業には投資をしないという動きさえ出てきているのだ。
 こうした背景から、「風土を変え」「ダイバーシティを可視化」するための取り組みが加速化し、新たな可視化指標として「ダイバーシティインデックス」が誕生した。
 ダイバーシティインデックスは、ジェンダー・多人種・障がい・年齢などあらゆる角度から、企業で働く人の知識や意識、行動をチェック・分析し、それが経営戦略に、イノベーションに、ガバナンスにどのような影響を与えているかを数値化するものだ。企業サーベイ、個人サーベイ、個人テストの三つのプログラムで毎年一度企業成績を分析し、株価や売上利益率の変化も踏まえて対処すべき課題を明らかにした上で、そのための研修やコンサルテーションが提供される。分析結果は点数で示され、他社との比較もできる。どの部署がダイバーシティを理解できていないのか、どの都市に問題があるかなども数値から一目で分かるため、風土改革を含めた研修の在り方も明確になる。
 ダイバーシティインデックスの報告書はCEOに手渡され、1時間のCEOダイアログがもたれる。CEOに直接、具体的な情報と刺激が与えられ、それを契機に組織が動き出す。女性や外国人の人数だけでなく、組織全体の点検によってダイバーシティの可視化を続け、取り組みを重ねることで効果測定が可能となるのである。
 今やダイバーシティは経営戦略のど真ん中にある。企業の成長に欠かせない戦略である。ぜひダイバーシティを数値化し、経営に活用することをお勧めしたい。