2020年11月27日掲載

BOOK REVIEW - 『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』

楠木 建、杉浦 泰 著
A5判/272ページ/2200円+税/日経BP 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 ソフトバンクグループの孫正義氏が提唱・実践する「タイムマシン経営」という言葉がある。海外で成功したビジネスモデルやサービスをいち早く輸入・展開することで、利益を生むという経営手法を指す。一方、本書が示す「逆・タイムマシン経営」は、近過去の歴史を振り返って、当時はさまざまな"同時代性の罠"に目をくらまされて見えていなかったビジネスの本質的な論理を見抜き、大局観を得る――という思考の型をいう。『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』等の著作で知られる楠木建教授と、「社史研究家」という異例の分野で注目を集める杉浦泰氏のタッグは、経営分野において「アーカイブから洞察を得る」方法論を書くための、これ以上ない組み合わせとなっている。

 「AI」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「サブスクリプション」といったバズワードは、今も昔も各種メディアを賑わせて、"これに乗れない企業、ビジネスパーソンは競争から脱落していく"とばかりに喧伝されている。一方で本書は、「400万台クラブ」「商社3.0論」「日本的経営」といった近過去におけるバズワードが、10年、20年……という時間を経て振り返って見たときに、本当に具体的な内実を伴うものだったのかを明らかにしていく。その鮮やかな手つきは痛快そのものだ。

 本書で紹介されている"同時代性の罠"、つまり「飛び道具トラップ」「激動期トラップ」「遠近歪曲トラップ」は、人事担当者の守備範囲にもたびたび姿を現す。最新の(あるいは海外の先進企業で導入されている)施策に飛びついてしまうタイプには、「手段の目的化」に陥ってしまった、HR分野の視野の狭い担当者が多い――と、本書でも喝破されている。高い情報感度を自負する一方、せっかちに成果を求めてしまいがちな人事担当者こそ、自分は罠の餌食になっていないか、本書を読んで確認してみてはいかがだろうか。

 



逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知

内容紹介

「飛び道具トラップ」「激動期トラップ」「遠近歪曲トラップ」
経営を惑わす3つの「同時代性の罠」を回避せよ!


これまで多くの企業が、日本より先を行く米国などのビジネスモデルを輸入する「タイムマシン経営」に活路を見いだしてきた。だが、それで経営の本質を磨き、本当に強い企業になれるのだろうか。むしろ、大切なのは技術革新への対応など過去の経営判断を振り返り、今の経営に生かす「逆・タイムマシン経営」だ。

そんな問題意識から、日本を代表する競争戦略研究の第一人者、一橋ビジネススクールの楠木建教授と、社史研究家の杉浦泰氏が手を組んだ。経営判断を惑わす様々な罠(わな=トラップ)はどこに潜んでいるのか。様々な企業の経営判断を当時のメディアの流布していた言説などと共に分析することで、世間の風潮に流されない本物の価値判断力を養う教科書「逆・タイムマシン経営論」を提供する。

経営判断を惑わす罠には、AIやIoT(モノのインターネット)といった「飛び道具トラップ」、今こそ社会が激変する時代だという「激動期トラップ」、遠い世界が良く見え、自分がいる近くの世界が悪く見える「遠近歪曲トラップ」の3つがある。こうした「同時代性の罠」に陥らないために、何が大事なのか──。近過去の歴史を検証し、「新しい経営知」を得るための方法論を提示する。