2021年05月14日掲載

BOOK REVIEW - 『人事労働法 ―いかにして法の理念を企業に浸透させるか』

大内伸哉 著
神戸大学大学院法学研究科教授 
A5判/338ページ/定価2900円+税/弘文堂 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊


 本書の大きな特徴として、「法の≪あるべき≫体系と解釈を説く」ことを重視して書かれている点が挙げられる。つまり、労働法の「現在≪おこなわれている≫法の体系と解釈」に関する理論体系を裁判規範等から解説するアプローチではなく、企業が良い経営をするために、従業員に対してどのような義務をいかに履行すべきかという「行為規範」から構築することを重視した、「人事労働法」という新たなアプローチを試みる1冊となっている。

 本書は2部構成となっており、第1部の総論では、良き経営により企業と従業員の双方が"ウィンウィン"の関係を築くことを目的とする観点から、労働法の理念の核を解説する。第2部の各論では、採用と労働契約から退職、労使交渉等のテーマについて、六つの章にわたり≪おこなわれている≫法と実際を紹介する一方で、人事労働法のアプローチによる≪あるべき≫法の解説が続く。最終章では昨今の技術環境の変化で新たに生じている法的課題を解説している点に注目したい。各節の末尾に用意されている自学用の設問も内容の整理に活用できる。

 巻末の補説では、厚生労働省のモデル就業規則の構成にのっとりながら、書中で言及されている就業規則に盛り込むべきデフォルト条項について解説する。労働者保護の観点からの労働法の解説にとどまらない、人事管理論の視点を取り入れた「人事労働法」の教科書として、法律理論や解釈論というと縁遠く感じてしまう実務家にも、ぜひ一読いただきたい。

 



人事労働法 ―いかにして法の理念を企業に浸透させるか

内容紹介

紛争の解決よりも紛争の防止を目指し、企業が作成すべき就業規則を提示。良き経営のために、従業員に対し果たすべき義務を軸とした「人事労働法」を提唱する。各項ごとに補注、思考、自学(課題)も掲載。労働法の再設計を試みた画期的な教科書。

「おこなわれている」労働法のエッセンスを紹介することに加え、「あるべき」労働法を大胆に提示した斬新な教科書。
裁判規範を重視した伝統的労働法とは違い、企業が人事管理において「労働者の納得を得るよう誠実に説明すべきである」という納得規範(行為規範)を軸とした「人事労働法」により労働法を再設計したチャレンジングな内容。
実務上大きな役割を果たす就業規則を具体的にどう作成するかを示すことにより、法の理念が企業に浸透することを目指す。