2021年05月28日掲載

BOOK REVIEW - 『同一労働同一賃金を活かす人事管理』

今野 浩一郎 著
学習院大学名誉教授 
四六判/274ページ/定価2500円+税/日経BP 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 2021年4月から中小企業でもパートタイム・有期雇用労働法が施行され、「同一労働同一賃金」をめぐる話題はさらに多くの企業で身近なものになった。一方で、「同一労働同一賃金」に関する解説の多くは、法的側面からの内容にとどまり、法律に対応するために人事管理が行うべきことと、人事管理が本来の役割として行わなければならないことが混同されがちになっていると著者は指摘する。こうした状況に対処するため、本書は人事管理の観点から、「同一労働同一賃金」を体系的に解説する一冊として作成された。

 第1章では前提知識の整理として、非正規労働者の労働市場を解説する。非正規労働者の分類が政府統計においても目的に応じ多様である例を挙げつつ、労働者数や仕事内容、賃金水準といった複数の観点から検討を行う。第2章ではパート・有期雇用労働法に基づき、法改正内容やガイドラインなど、同法が企業に求める内容を整理する。第3章では労働者派遣法に基づき、派遣労働者における法的規制のポイントを解説する。

 第4章以降は、いよいよ人事管理の観点から「同一労働同一賃金」を検討する。第4章で賃金決定方式の設計に準拠すべき基礎理論を詳解した上で、第5章以降は非正社員を含めた全社員の人事管理、特に賃金管理に焦点を当てる。中でも筆者は多様化する人材への適切な評価と処遇には、伝統的な人事管理から「多元型人事管理」へ移行が必要であると述べる。最終章の第7章では正社員とパート社員、定年後の高齢社員の組み合わせを取り上げながら、「同一労働同一賃金」に対応する賃金制度のあり方を検討する。また、最高裁判決の枠組みに基づくポイント解説も注目したい。法対応から一歩広げて「同一労働同一賃金」をとらえ直す機会として、ぜひご一読いただきたい。

 



同一労働同一賃金を活かす人事管理

内容紹介

正社員×非正社員、同じ仕事であれば賃金は同じでなければならない?
賃金制度も同じにすべき? 同一労働同一賃金の法的要請に応えつつ、企業経営にとって、働く人にとって、望ましい人事管理を解説する。


2021年は同一労働同一賃金の本格導入の年となります。しかし、法の求めに対応する受け身の改革では成功しません。それが現場の混乱の原因です。本書は、同一労働同一賃金が賃金のあり方に影響を及ぼす重要な賃金決定の原則であるということを踏まえたうえで、法の要請に目配りしつつも人事管理の観点から同一労働同一賃金を体系的に検討。同一労働同一賃金のもとで必要な人事管理を以下の3点から解説します。
①法律が求める同一労働同一賃金とは何かを整理。法律の内容に複雑で分かりにくい点が多いので、そのポイントを正しく解説
②同一労働同一賃金は、賃金を合理的に決めるうえでどのような意味があるのかを、人事管理の観点から検討
③以上を踏まえて、企業のとるべき非正社員の人事管理とくに賃金管理の方向を明らかにする
筆者は、『マネジメント・テキスト 人事管理入門』『日経文庫 人事管理入門』と体系テキストを執筆する一方で、『勝ち抜く賃金改革』『正社員消滅時代の人事改革』などで節目節目に実務家に寄り添う解説を行ってきました。企業の制度設計に協力してきた経験を踏まえ、同一労働同一賃金の導入によって混乱をきたす人事担当者、社労士、弁護士に解を示します。