来年春入社の新卒採用で、応募者の選考評価に人工知能(AI)を活用する試みが広がっている。メガバンクをはじめ国内有数の大企業がオンライン面接の内容をAIで分析する実験を新たに始めた。選考の公平性が高まるとの見方の一方、学生からは「採点基準が分かりづらい」といった戸惑いの声も。利用する企業には十分な説明責任が求められる。
「AI選考に関する学生の相談が徐々に増えている」。早稲田大キャリアセンターの担当者は話す。新型コロナウイルスの影響でオンライン面接が浸透し、企業がAIで録画データを分析しやすくなったためだ。
典型的な導入例はこうだ。動画面接ツールに接続すると、質問事項が自動音声で再生され、応募者はスマートフォンの画面に向かって志望理由などを話す。その後、回答内容を「状況適応力」や「チーム志向」といった複数の観点からAIが評価する。
昨年の採用活動でソフトバンクが動画面接の評価にAIを導入。今年は三菱UFJ銀行やみずほ銀行などが実験を開始した。伊藤忠商事や野村証券、トヨタ自動車系の部品会社も今後を見据えてAIシステムを試験導入したという。
有名企業には学生の応募が殺到するため、採用業務の効率化が課題だった。各社は1次面接など選考序盤の評価でAIを部分的に活用し、人事担当者の負担を軽減するのが狙いだ。
AI面接ツール「ハイアービュー」を販売するタレンタ(東京)は「AIを併用することで人事担当者の偏見を回避できる」と自信を示す。
一方、学生の受け止め方は複雑だ。東京都内の男子大学生は「(顔の表情など)どこまで採点されているのかよく分からず気味が悪い」と打ち明ける。明治大の就職キャリア支援センターの担当者は「対人の面接に比べて、学生は選考に落ちた理由を分析しにくい」と指摘した。
AIの信頼性に対する懸念は強い。海外では米アマゾン・コムがAIを使った採用を中止した。過去に採用したエンジニアは男性が多いことをAIが学習し、女性に不利に評価していたことが判明したためだ。
採用にAIを活用する日本企業も判断基準を十分に説明していない場合が多い。AIの倫理問題に詳しい名古屋大大学院の久木田水生准教授は「面接システムの開発・導入企業は判断基準の透明性を高める必要がある」と強調した。
(共同通信社)