2021年07月30日掲載

BOOK REVIEW - 『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』

守島基博 著
学習院大学経済学部教授 
四六判/240ページ/定価1800円+税/日経BP 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 日本企業が抱える「人材不足」の問題は、人口減少のみに起因するものではなく、各企業の現場で求められる人材や価値ある人材像の変化に、現在の人材マネジメントが追いついていないことが大きな要因であると著者は述べる。本書はこの問題に対し、"組織が人材を確保し、活用する能力"を意味する「組織力」の開発によるアプローチを提唱する。

 人材マネジメントに影響を与える三つの環境変化を解説する第1章では、戦略人事の転換点にある今こそ、企業で「全員戦力化」が必要となる理由を述べる。第2章では「全員戦力化」に必要な力として「組織力」を挙げ、続く第3章で組織力を構築する場として重要な「職場」の果たす役割を詳解する。第4章は「働きがい」と「働きやすさ」に焦点を当て、従業員にとっての企業価値と組織力の密接な関係について述べる。

 第5章以降は組織力の要となるキーフレーズごとに論が進んでいく。第5章は「インクルージョン(包括、一体性)」、第6章は「ミドル(マネジメント)」の果たす役割を考察する。第7章では職場における「チーム」の変化に焦点を当て、第8章は同一労働同一賃金をはじめとする法改正内容に踏み込みながら、人事管理における「公平性確保」を考察する。第9章は「エンゲージメント」が業績に与える影響、終章は新型コロナウイルス感染拡大がもたらす組織と人材の劇的な変化と、現代の日本企業において焦点となっているさまざまなテーマを取り上げた上で、働き手が目指すべき「仕事自律」を解説する内容となっている。組織の競争力を高め続けるために必須となる「組織力」を多角的に捉えるべく、本書をぜひご一読いただきたい。

 



全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発

内容紹介

コロナ禍によって加速された変化に対して、どのような人材マネジメントを構築すべきか。人材を確保、活用し、人材によって組織の競争力を高めていくための、組織を対象にしたマネジメントを紹介する。

日本企業が抱える最も大きな人材問題は「人材不足」だ。これを解決するためには、社員全員の戦力化を図る必要がある。その際キーワードとなるのが組織力という考え方である。現在、顕在化している人材不足は、単に労働人口や生産年齢人口が減少していることだけで起こっているわけではない。同時に、企業の経営環境や、それに対応した経営戦略が変化し、またITやAIなどの情報技術が進展し、さらには、働く人の価値観が変化し、多様化していることが大きく関係している。さらには、2020年初頭からは、コロナウイルスの感染拡大の経営や組織への影響がある。コロナウイルスの感染拡大は、働く人の働き方に影響を与えるだけではなく、今後は、組織そのものにも大きな変化をもたらす可能性がある。
こうした環境変化は、求められる人材や価値ある人材像を変え、さらには、人材を活用するための方法に変化をもたらす。これまでとは違ったタイプの人材が必要になり、また働く人も変わるなか、人材マネジメントの方法にも変化が求められる。こうした変化に現在の人材マネジメントが追い付いていないということが、人材不足に変える大きな要因である。まさに企業に貢献する人材の確保・活用が難しくなっている。
人材を確保、活用し、人材によって組織の競争力を高めていくためには、組織を対象にしたマネジメントが重要である。これが本書の基本的なアイディアである。