2021年07月30日掲載

BOOK REVIEW - 『経営者が知っておくべき ジョブ型雇用のすべて』

白井正人 著
マーサージャパン 組織・人事変革部門 代表 
四六判/334ページ/2200円+税/ダイヤモンド社 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 日本型雇用システムである"メンバーシップ型雇用"は、「長期雇用」「会社主導の異動・配置」「新卒一括採用」などの特徴を持ち、日本の高度経済期を支えてきた。しかし、人材の流動性が低く、個人に対してもリスキル(新しいスキル、技術を身に付けること)やスキルアップすることへのインセンティブがあまりないなど、現在の経済環境にはフィットしない面が目立ち、日本経済の成長に悪い影響を与えていると著者は指摘する。こうした状況を打破するためにも、"ジョブ型雇用"への変革が求められている。本書においては、ジョブ型雇用を「ジョブを介した市場取引」と定義し、ジョブ型雇用とはどういうものか、どのように移行するのかなどを丁寧に解説する。

 第1~2章では、日本の経済成長や企業を取り巻く環境変化と、メンバーシップ型雇用との関係性を紐解いていき、メンバーシップ型雇用における問題点をいくつか挙げていく。そして、メンバーシップ型雇用とは対照的なシステムとしてジョブ型雇用を位置づけ、その特徴を第3章で解説。第4章以降では移行に向けた検討の方向性、具体的な移行方法などを示していく。また、第6章はジョブ型雇用を機能させる上で必要とされる代表的な施策を取り上げ、施策の枠組みや運用のノウハウなどについて解説している。

 メンバーシップ型とジョブ型ではマネジメントの理念が根本的に違うことから、部分的な変更は難しいというのが著者の考えだ。そのため、本書ではジョブ型雇用へ全面的に移行することを前提に、その高いハードルをどう乗り越えていくのか解説していく。ジョブ型雇用への変革を検討している経営者だけでなく、具体的な制度改定に携わる人事担当者にも一読いただきたい内容である。

 



経営者が知っておくべき ジョブ型雇用のすべて

内容紹介

グローバル市場で優秀な人材を確保するために必須の仕組みであるジョブ型雇用。その特徴やメリット・デメリット、産業や企業ごとの適否、導入の進め方などを解説する。

メンバーシップ型からジョブ型へ。日本企業の人事システムを移行すべきという主張・議論が喧しい。
背景には人材の獲得競争がグローバル化し、新卒重視、年功序列を前提にした日本型の雇用形態では、海外の優秀な人材を採用しにくくなってしまうという事情がある。さらに、コロナの影響によってリモートワークが進み、数字に表れないもの含めて成果を適切に捉えるマネジメント手法が現場レベルでも求められている。
しかし、この問題意識は今に生まれたことではない。1990年代、バブル崩壊による売上・利益の落ち込みから、それまでの年功序列による賃金の右肩上がりを抑えるべく、多くの企業がアメリカから持ち込まれた「成果主義」を導入した。しかしその試みは長期的なテーマやリスクの高いテーマにチャレンジしなくなるばかりか、株主や消費者、市場を欺く不正が生まれる構造まで作り出してしまう。
ジョブ型雇用も成果をベースにした仕組みである。正しい理解のもとでこの移行を進めなければ、前例と同じ轍を踏むこととなる。
人事システムの変革は経営と人事部門だけでなく、全ての部門が直接的に関わる取り組みであり、それぞれで適切な理解・行動が求められる。本書は、メンバーシップ型が生まれた背景や利点、ジョブ型における採用や報酬といったサブシステムのつながり、最適な移行のプロセスなど、ジョブ型雇用とその移行の全体像を経営者が知っておくべき水準まで解像度を高めて解説したものである。人事・組織変革のコンサルタントとして、日本企業の人事システムの設計から運用までサポートしてきた著者が、ジョブ型雇用の効果を最大限発揮するための移行ノウハウを経営者に向けて示す。