リーダーシップがなくてもできる「職場の問題解決3ステップ」
大橋高広 おおはし たかひろ 1982年生まれ、大阪府出身。人事評価制度、管理職育成、職場改善の専門家。開業から約5年間で70社以上のクライアント企業のスタッフへ直接面談を実施し、ヒアリングしたスタッフの総数は1200名以上を超える職場の問題に精通した人事のプロ。著書に『リーダーシップがなくてもできる「職場の問題」30の解決法』(日本実業出版社)などがある。 |
コロナ禍の今、経営環境は悪化するばかりで、職場の生産性向上は急務となっています。その職場の生産性を向上させる上で重要となるのがリーダー、つまり管理職の存在です。ところが、私はこれまでにクライアント様のスタッフ1200名以上と面談を実施してきたことで分かったことがあります。それは、「日本の職場にはリーダーシップをもっている管理職はほとんどいない」ということです。管理職に選ばれた人は、現場での実務レベルや営業成績などを評価されていることがほとんどで、マネジメント能力が評価されているわけではありません。
それにもかかわらず、管理職の教育を十分に実施している会社はとても少ないのが実情です。あったとしても1~2回の研修を受講して感想文を書いたら終わり。その後は本人の努力次第というケースが非常に多いのです。
そのため、意欲のある管理職は本を読んだり社外の勉強会に参加したりするのですが、そこで教えられることは管理職としての在り方や心構えといった精神論が中心です。結局、明日から現場で何を実践したらよいのかは分からないまま。精神論には、再現性がないのです。
そこで今回は、再現性の高い、「リーダーシップがなくてもできる職場の問題解決3ステップ」をお伝えしたいと思います。
【ステップ1】部下から職場の問題を聞き出そう
職場の問題を解決していくために、まずは、職場の問題を正しく把握することが重要です。ただし、やみくもに部下から聞き出そうとしても、うまく聞き出せないことが多いと思います。そこで、今すぐ実践できるメソッドを三つご紹介します。
一つ目は「コンセプト共有法」。部下から職場の問題を聞きたいとき、唐突に「面談がしたいからお願いね」と伝える人は多いと思いますが、部下にしてみれば、面談のコンセプト(なぜ面談をするのか)が分からないと警戒心や反発心から本音を話しづらいといえます。そこで、「面談の目的やゴール」を事前に共有しておくのがお薦めです。これらを面談の数日前までに伝えておき、なぜ面談をやるのかを理解できていると、部下も安心して面談に臨むことができます。
二つ目は「残業代支給法」。実態として、職場の問題を話し合い、聞き出すための面談を業務時間外に残業代を支給せずに実施しているケースは意外にも多いです。しかし、サービス残業で面談を行うことは、そもそも労働法上問題があることに加えて、早く帰りたい・面倒くさいと思う部下に嫌々面談をしても、有益な情報を聞き出すのは難しいという問題もあります。そこで、面談の実施が業務時間外になってしまう場合は、きちんと残業代を支給することが重要です。残業代を支給し、面談を「仕事化」することで、部下に積極的な姿勢で面談に取り組んでもらいましょう。
この場合、コミュニケーションの重要性を理解している会社であれば問題は少ないと思いますが、残業代を支給して、直接利益につながらない面談を行う理由の説明を求められることもあると思います。その理由としてお薦めなのが、「採用広告費の削減」と「スタッフの定着率向上による教育コストの削減」の二つです。この二つは、比較的数値目標を設定しやすく会社の利益にもつながるため、会社を説得する材料としては有効です。
三つ目は「上司沈黙法」。面談のとき、上司ばかりが話をして部下の話を聞かないというケースはよくあります。しかし、せっかく面談を実施しても、部下から話を聞き出せないようでは本末転倒です。なぜ、このように上司は黙ることができずに話してしまうのかというと、それは「部下の話を聞いているうちにポイントが分かり、すぐにアドバイスをしたくなる」からです。
このような場合、部下を「クライアント」に見立てて、上司はひたすら「質問と共感」に徹すると良いでしょう。話したくなっても、沈黙を恐れず、また沈黙の時間を無駄と考えずに、グッとこらえて部下が話し出すのを待ちましょう。
【ステップ2】職場の問題を正しい方法で会社に共有しよう
ここまで、上司が部下から職場の問題を聞き出す方法についてお伝えしてきましたが、聞き出すだけで終わりではありません。上司は部下から職場の問題を聞き出した後、それを改善するために、会社に報告する必要があります。しかし、これが最大の難所なのです。というのも、部下から聞き出した話を、そのまま会社へ報告してしまうと、部下との信頼関係が壊れてしまうリスクがあるからです。
そこで、会社へ情報共有するときに上司から部下へ事前に確認していただきたいことが五つあります。
①共有の許可:
聞き出した話を会社へ共有してよいか確認する
②共有の内容:
会社へ「共有してよい内容」と「共有してほしくない内容」を確認する
③共有の範囲:
誰に(間接的に伝わってしまう人も含む)共有してもよいか確認する
④共有のタイミング:
会社へ共有する適切なタイミングを確認する
⑤共有の方法:
共有するための方法(人事評価シート・社内SNS・直接報告する、など)を確認する
このように、社内での情報共有に関して部下と一緒に決めていくと、会社からの信頼を得るだけでなく、部下との信頼関係も築くことができます。
【ステップ3】最適な職場改善メソッドを実践しよう
最後に、職場の問題を適切に把握した上で、改善に取り組むために今すぐ実践できるメソッドを二つお伝えします。
一つ目は「スタッフのトリセツ」。職場はさまざまな個性をもつメンバーの集まりです。例えば、仕事中に話し掛けられるのが嫌な人もいれば、何とも思わない人もいます。つまり、仕事に対する考え方や得意不得意などは人それぞれであって、自分の常識は他人の常識とは限りません。
そこで、同じ職場のスタッフ一人一人が自分の「トリセツ(取扱説明書)」を作成し、お互いに共有しておくことで、職場内でのトラブルを軽減することができます。事前に話すと「説明」、事後に話すと「言い訳」になるのです。スタッフのトリセツを作成する際は、項目があまり多すぎても覚えられないため、下記の5項目ほどに絞ることをお薦めします。
①仕事をする上で大切にしていること
②仕事中にイラッとすること
③得意なこと
④苦手なこと
⑤将来実現したい目標
二つ目は「プラスワード変換法」。言霊(ことだま)という言葉があるように、人が口に出す言葉には、物事を実現させる力が宿っています。しかし、日本の職場では日常的に否定語がよく使われています。
例えば、「私は管理職として諦めることなく頑張ります」と聞くと、一見前向きな姿勢のように聞こえます。しかし、「諦める」は否定語のため、このような言葉を日常的に使っていると思考がどんどん否定的になってしまいます。残念なことに、人間の脳は二重否定を理解するのが得意ではないのです。そして、上司がいつも否定語を使う職場では、部下の思考も否定的になり、職場の雰囲気が悪化してしまうというわけです。
前述のフレーズをプラスワードに変換すると「私は管理職として必ず目標を達成します」となります。また別の例では、「失敗した→良い経験になった」「不良率を減らす→良品率を増やす」というように言葉が変わると思考も変わっていきます。
プラスワード変換法は、実際に取り組みを継続していると、職場の雰囲気が変わってくることが実感できます。人の考え方はすぐには変化しないため、ぜひ効果を実感できるまで、粘り強く継続してみてください。
いかがだったでしょうか。生産性を低下させる「職場の問題」は、コミュニケーション不全が原因であることがほとんどです。そのため、それらの解決に必要な3ステップの手法を解説させていただきました。
この3ステップをきちんと繰り返し実践している上司は、リーダーシップがなくても、部下と信頼関係を築くことができます。職場の問題解決の一助となりましたら幸いです。