2021年10月08日掲載

BOOK REVIEW - 『ジョブ型雇用社会とは何か ―正社員体制の矛盾と転機』

濱口 桂一郎 著
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT) 労働政策研究所長 
新書判/306ページ/1020円+税/岩波書店 


BOOK REVIEW 
人事パーソンへオススメの新刊

 2020年以降、多くのメディアで流行した「ジョブ型」という言葉は、もともと著者がつくったものである。元をたどれば、2009年に著者が執筆した『新しい労働社会――雇用システムの再構築へ』において、日本的な「メンバーシップ型」と対比させるために用いられたものであり、現在多くのメディアで使用されているジョブ型の概念は著者が提示したものと大きく異なる。本書は、世間にはびこる間違いだらけのジョブ型論にメスを入れるとともに、雇用システムの基礎をさまざまな項目からひもといていく。

 序章は、メディアに掲載されたジョブ型の関連記事を取り上げ、その矛盾点を指摘する。続く第1章では、ジョブ型とメンバーシップ型の「基礎の基礎」を改めて詳細に解説し、第2章以降において問題領域ごとにメンバーシップ型の矛盾点がどう現れているのかを分析していく。第2章はジョブ型論で見落とされがちな採用・定年・高齢者雇用・解雇、第3章は賃金制度、第4章は労働時間――と続いていく。多くの議論において労働時間問題は残業代の問題に偏りがちであるが、本書ではワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルス等の観点を含め説明している。

 第5章は「メンバーシップの周縁地帯」と題し、短期的メンバーシップとして位置づけられてきた女性正社員や、メンバーシップ型に馴染(なじ)まない障害者雇用、また、出入国管理政策の観点から扱われた外国人労働者について問題提起する。終章となる第6章では労働組合をテーマに、世界的な歴史を踏まえつつ、日本特有の労働組合の状況を説明している。本書は、日本における労働問題を多角的に分析し、正しいジョブ型の理解へと導くためのバイブルといえるだろう。人事担当者であれば一度は読んでおきたい一冊だ。

 



ジョブ型雇用社会とは何か ―正社員体制の矛盾と転機

内容紹介

間違いだらけのジョブ型論を一刀両断! ジョブ型とは何かを改めて説明した上で、ジョブ型とメンバーシップ型の対比を用いて、日本の雇用システムの隠された問題点に切り込む。

前著『新しい労働社会』から12年。同書が提示した「ジョブ型」という概念は広く使われるに至ったが、今や似ても似つかぬジョブ型論がはびこっている。ジョブ型とは何であるかを基礎の基礎から解説した上で、ジョブ型とメンバーシップ型の対比を用いて日本の労働問題の各論を考察。隠された真実を明らかにして、この分析枠組の切れ味を示す。