2022年03月11日掲載

Point of view - 第200回 斉田英子 ―共働き時代のファミリー&キャリア思考

共働き時代のファミリー&キャリア思考

斉田英子 さいた えいこ
彩り家族コミュニティ/ヒンメルカレッジ主宰、コーチ、キャリアコンサルタント
中央大学法学部兼任講師

2002年博士号取得後、デンマーク・コペンハーゲン大学政治学研究科にて客員研究員。2005年~2016年熊本県立大学環境共生学部准教授を経て、2018年夫婦で起業した㈱ヒンメル・コンサルティングでは、つながりと学び合いの場を主宰。著書に『家族と話し合いをしてますか?「伝わらない」「わかり合えない」がなくなる本』(2021年、PHP研究所)ほか。

話し合いはリスクマネジメント

 2月、家族5人全員が次々に新型コロナウイルス感染症の陽性が分かり、長期間、自宅から一歩も外に出られないという非日常を経験した。年明けから、「すぐそこまで来ている」ことは周囲の状況から明らかで、共働きのわが家では、この状況をどのようにリスクマネジメントしていくか、仕事への最大の配慮と最悪の事態の回避について、常々、夫婦で話し合っていた。

 子どもたち(小6、小3、3歳児)が過ごす小学校や保育園の事情を可能な限り把握し、彼らの楽しい学校生活や保育園での生活リズムを確保しながら、同居している80歳の老母には絶対にうつさないというミッションを、家族皆で共有した。

 気象キャスターという夫の仕事柄、在宅勤務が不可能で、かつ人の出入りが多い職場である。それは職場の他のスタッフも同様で、今回は特に家庭内感染の事例が多数あるからこそ、子どもがいるスタッフ同士で情報交換も重ねていたようだ。

 「個人的な事情、家庭の事情」をオープンにすることで、仕事を進める上でのリスクマネジメントにつながる。もちろん、今回の件に限らず、予期せぬ体調変化は誰にでも起こり得る。家庭内のさまざまなハプニングによる休職や退職でさえ、ひとごとではない。「誰にも言えない、迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーを手放す働き方や生き方は、これからの共働き時代にはますます重要だろう。

 家庭生活の安定があってこそ、仕事にも集中できる。家族のことと仕事のことはバラバラには存在せず、良くも悪くも影響し合っている。私はそれを「ファミリー&キャリア思考」と呼び、コンサルティングの現場でも重視している。

夫婦で話し合いをしてますか?

 1日の3分の1以上の時間を費やす仕事の時間、人生の多くの時間を共に過ごすパートナーや家族との時間をどのようなものにするかは、人それぞれ答えがある。
 一つ強調したいのは、「給与を得て働くことだけがキャリアではない」ということである。生涯を通しての学び、趣味、ボランティア活動、家事育児、介護、また、一見無駄に見えるような、寄り道に思えるようなことも、すべての経験が人生を彩り豊かにするキャリアである。

 しかし、相変わらず、私たちの生活は多忙な日々の自転車操業の中にあるようだ。少し先の未来を見通す心の余裕も、万が一のハプニングを自分ごととして考えることも後回しになっている感じがある。
 国際データを見ると、日本の夫婦や親子、家族内の会話時間は非常に少ないのが現状である。OECD(経済協力開発機構)各国と比べても、日本の男性は有償労働時間が最も長く、家事などの無償労働時間が最も短い。また、6歳未満の子どもを持つ夫の家事・育児関連時間は1990年代から伸びてはいるものの、2016年時点で1日83分と低水準のままである(総務省「社会生活基本調査」)。

 夫婦では、日頃、どんな話をしているだろうか。たわいもないおしゃべりや日々の愚痴、不満のつぶやき合いも必要だ。しかし、お互いにゆっくり向き合って話し合う時間を、あえてスケジュールに落とし込んで確保していくことをお勧めする。
 特に仕事に子育てに忙しい30代、40代では、一度話したら終わりというテーマは何一つない。日々成長する子どものこと、進路進学の問題、関連して悩ましいのは教育費のこと、住宅ローンやどこにどう住まうかという選択肢も多様になっている。老いてくる親のことや、自分自身の心身の健康状態は大丈夫だろうか。これらの変化と共にある働き方については、繰り返しテーマに挙がるだろう。忙しいからこそ、話し合う時間を確保するという意識が大切である。

夫婦の歩調を合わせよう

 「夫婦」や「家族」といっても、その伝統的なイメージと現実との間には大きなギャップもある。家族=血縁とは限らず、婚姻制度に縛られずとも、お互いの存在が家族なのかどうかは、それぞれが決めることだともいえよう。個性豊かな別人格の個人が、たまたま集合した「チーム家族」というイメージである。
 今まさに、チーム家族の幸せを最大化するため、「男性(夫)だから、女性(妻)だから、子どもだから」と従来の役割に縛られず、お互いの強みや好きを生かして、キャリアを豊かに描く時代の転換点にある。

 重要なことは、当事者夫婦がお互いに、日々の暮らしをどのように考えているか、歩調が合っているかどうかである。日々の生活において感じているモヤモヤも、不安や不満もため込まずに、伝え合う努力をしよう。話し合う、聞き合う時間を確保しよう。
 テーマ別に分類したり、小さく課題を分けたりすると、すぐできること、先々で改善できそうなことも、一つひとつ見えてくるだろう。
 「言わなくても分かってよ」という態度や、「言っても無駄だろう」という諦めは、夫婦ではなし。どういう「ファミリー&キャリア」を描くのか、夫婦で話し合うタイミングは、まさに今だ。