2022年04月22日掲載

BOOK REVIEW - 『ウェルビーイング』

前野隆司、前野マドカ 著
慶應義塾大学大学院SDM研究科教授 ウェルビーイングリサーチセンター長、EVOL株式会社代表取締役CEO 
新書判/240ページ/900円+税/日本経済新聞出版 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ “ウェルビーイング”とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態(満たされた状態)を指す概念であり、1946年に設立された世界保健機構(WHO)の憲章で初めて使われて以降、医療、心理学、福祉などさまざまな分野で用いられている。近年、ビジネスでも働きがいやエンゲージメントの観点から社員の「幸福」に注目する企業が増える中で、ウェルビーイングは「時代の転換点にもなり得る重要なキーワード」だと著者は訴える。本書は、ウェルビーイングの広がりで私たちの生き方がどう変わるのかを、本領域の第一人者が解説する一冊だ。

■ まず第1章で、ウェルビーイングとは何か、なぜ注目されているのかに触れた後、第2章では、ウェルビーイングと社会(職場、政治)との関係性を整理する。続く第3章では、学術界・産業界における先行研究等の概要をまとめており、その中で著者(前野隆司氏)による幸福学の研究内容として、心の状態に作用する「幸せの四つの因子」も紹介されている。第4章は、ウェルビーイングの考え方を取り入れた経営を実践する企業事例を交えながら、会社・組織の在り方を解説する。そして、第5章で地域・家庭とのつながり、第6章で幸福度の計測・向上事例と論を進めていく。

■ 日本経済新聞では、2022年1月5日付けで「2022年をウェルビーイング元年に」との記事が掲載されている。一方、政府は2021年の成長戦略で「一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」方針を掲げており、2021年が公共政策における「ウェルビーイング元年」であった、との見方もある。いずれにせよ、今後の数年間で企業人事に大きな影響を与えることは想像に難くない。ウェルビーイングを正しく理解し、仕事を、そして人生を豊かにするために、ぜひ本書をご一読いただきたい。

ウェルビーイング

内容紹介
ウェルビーイング(幸せ、健康、福祉)とは何か。研究者として、またビジネスの推進者として活躍する2人が、ウェルビーイングの広がりによる社会やビジネス、人間の生き方への影響の大きさと、研究の最前線、実現策を綴る。

ウェルビーイングとは、ひとが身体的・精神的・社会的に“良好な状態"であることを指す概念。それは昇進や結婚などのイベントによって一時的に得られる幸せや、あるいは日本国憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活」ができていることを指すのではありません。人生の満足度だけでなく、幸せを生み出している複合的な要素を組み合わせ、一時の感情に左右されない「持続的幸福度(Flourish)」を指標にしていこうと考え出されたものなのです。
そのなかで日本は、客観的なウエルビーイングの指標の一つであるGDPは右肩上がりに上昇し、世界第3位を堅持していますが、国連の発表する世界幸福度ランキングでは156国中62位と、世界各国と比較しても客観的地位と主観的地位の差が目立ちます。
オランダの資産運用会社ロベコのハッセルCEOは、投資の3要素を「リスク、リターン、そしてウェルビーイング(社会的な幸福)だ」と指摘しています。新しい資本主義では、ウエルビーイングの達成も目的となっているのです。