2022年05月27日掲載

BOOK REVIEW - 『ビヨンド! KDDI労働組合20年の「キセキ」』

本田一成 著
武庫川女子大学経営学部 教授 
四六判/314ページ/2400円+税/新評論 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 厚生労働省の令和3年「労働組合基礎調査」によると、雇用者数に占める労働組合員数の割合を指す「推定組織率」は16.9%であり、2003年以降20%を下回っている。このような状況下で、労働組合はかつてのような存在感を発揮していないという見方も多い。本書が取り上げるKDDI株式会社の労働組合は、2020年に結成20周年を迎えた。本書は、人的資源理論、労使関係論の研究者である著者が、KDDI労働組合の歴史を細やかにひも解き、企業別労働組合の実像を広く伝えるべく記した、類を見ないノンフィクションである。

■ 本書は四つの時期に分けて構成されている。1章は2000年の3社合併直後から2010年まで、2章はユニオンショップ協定締結など大転換をした2010年以後の数年間の軌跡を記す。続く3章は勤務間インターバル制度や裁量労働制の議論など今日に至るまで、エピローグは「未来へ向けた視点」である。ユニオンショップからオープンショップを経て再びユニオンショップを採る、相次ぐ会社合併による労組の再編、労使協議制度など、KDDI労組の歩みを追う中で、"企業別労働組合のことを学ぶ教科書であるかのような錯覚"を覚えたと著者は振り返る。

■ 労働組合の活動では、1人でも多くの仲間を集め、相互扶助の意識を高めることが求められる。本書は、具体的な記録に基づいて、生々しいやり取りの描写がふんだんに含まれているため、労働組合関係者だけでなく、労働組合に未加入の労働者、管理職、経営者にとっても学びの多い一冊となるだろう。本書を片手に、一つの労働組合の誕生から激動の時代を経た現在に至る活動の軌跡を"疑似体験"するとともに、自社の労働組合や自組織へ思いをはせてみてはいかがだろうか。

ビヨンド! KDDI労働組合20年の「キセキ」

内容紹介
「スマートな労組」? とんでもない!
激しく逞しくドラマチックな闘いの歴史を余さず描く、刺激に満ちた傑作ノンフィクション。

「労働組合っていうのは、先輩たちから預かった財産・宝物。だから、常に磨き続けて、ピカピカにしておかなきゃいけない。もし、磨き続けることができないなら、せめて汚さずに次の世代に渡していかなきゃあかんよな。それがお前さんたちの使命なんだ」(元KDDI労組中央執行委員・杉山豊治)
これが国際電電労組、KDD労組を経て、激動の情勢下で2000年に誕生したKDDI労組の、今に受け継がれる精神だ。本書は同労組の絶望と希望、その20年間の「軌跡」に迫るノンフィクションである。
華々しくも熾烈な競争を繰り広げるICT業界にあって、ベースアップを実現しながら、勤務間インターバル制度、非正規社員の待遇改善、被災地支援など数々の取り組みで「先駆的」と呼ばれるKDDI労組は、労働界では「スマートな労組」という印象をもたれ、名声を集めてきた――スマート? 実は全然、そんなことはない!
「稲盛イズム」が吹きあれるなか、逞しい気概をもって巻き返しを試みてきた。度重なる企業合併やグループ化で減り続ける加入。次々に見直しを迫られる労働制度。だがそれら数多の葛藤や苦難から決して逃げず、闘い続けたことで、必然とも思える「奇跡」をつかんだ。NHK「プロジェクトX」で見るような激しくドラマチックな歴史がそこにある。
日本の推定組織率は2021年に17%を切り、労働者の6人に1人にしか労組に加入していない。17%のほとんどは企業別組合員であり、ユニオンショップ制(入社時に労組加入)が効いている。しかも推定組織率は、実際の組織率(主体的、積極的に労組の活動に参加している組合員の組織率)とは違う。労組側は苦境に追い込まれた労働者たちを一人でも多く把捉し、仲間とする必要がある。そして労働者側も、組合の意義を見つめ、相互扶助の意識を高めることが求められる。企業別組合の本当の姿を凝視し、将来を考えていくために、労組関係者だけでなく、未加入の労働者、管理職、経営者にもぜひ読んでいただきたい。(ほんだ・かずなり)