武庫川女子大学経営学部 教授
四六判/314ページ/2400円+税/新評論
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ 厚生労働省の令和3年「労働組合基礎調査」によると、雇用者数に占める労働組合員数の割合を指す「推定組織率」は16.9%であり、2003年以降20%を下回っている。このような状況下で、労働組合はかつてのような存在感を発揮していないという見方も多い。本書が取り上げるKDDI株式会社の労働組合は、2020年に結成20周年を迎えた。本書は、人的資源理論、労使関係論の研究者である著者が、KDDI労働組合の歴史を細やかにひも解き、企業別労働組合の実像を広く伝えるべく記した、類を見ないノンフィクションである。
■ 本書は四つの時期に分けて構成されている。1章は2000年の3社合併直後から2010年まで、2章はユニオンショップ協定締結など大転換をした2010年以後の数年間の軌跡を記す。続く3章は勤務間インターバル制度や裁量労働制の議論など今日に至るまで、エピローグは「未来へ向けた視点」である。ユニオンショップからオープンショップを経て再びユニオンショップを採る、相次ぐ会社合併による労組の再編、労使協議制度など、KDDI労組の歩みを追う中で、"企業別労働組合のことを学ぶ教科書であるかのような錯覚"を覚えたと著者は振り返る。
■ 労働組合の活動では、1人でも多くの仲間を集め、相互扶助の意識を高めることが求められる。本書は、具体的な記録に基づいて、生々しいやり取りの描写がふんだんに含まれているため、労働組合関係者だけでなく、労働組合に未加入の労働者、管理職、経営者にとっても学びの多い一冊となるだろう。本書を片手に、一つの労働組合の誕生から激動の時代を経た現在に至る活動の軌跡を"疑似体験"するとともに、自社の労働組合や自組織へ思いをはせてみてはいかがだろうか。
内容紹介 「労働組合っていうのは、先輩たちから預かった財産・宝物。だから、常に磨き続けて、ピカピカにしておかなきゃいけない。もし、磨き続けることができないなら、せめて汚さずに次の世代に渡していかなきゃあかんよな。それがお前さんたちの使命なんだ」(元KDDI労組中央執行委員・杉山豊治) |