2022年05月27日掲載

BOOK REVIEW - 『就職選抜論―人材を選ぶ・採る科学の最前線―』

鈴木智之 著
名古屋大学大学院 経済学研究科産業経営システム専攻 准教授 
A5判/232ページ/2500円+税/中央経済社 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ 「当社は求める人材を毎年確実に採用できている」と、自信を持って答えられる採用担当者は、どれくらいいるだろうか。膨大な数のエントリーシートに目を通し、高い利用料を払って適性検査を導入し、綿密に面接を設計したとしても、こうした努力が十分に効果を発揮しているか、常に疑問を抱いているのではないか。本書は、新卒採用における「選抜」を理論的・実践的に論じることで、こうした疑問に答える1冊だ。採用プロセスごとの特徴を踏まえて「良い就職選抜」の条件を探った上で、国内企業4社が新卒採用を行った際の実際のデータを基に、採用活動の実態と課題を明らかにし、分析結果を踏まえた改善策と成果を示していく。

■ 採用プロセスの中で、面接は最終的な合否を判定する意味で重要性が高い。本書では、良い面接の条件として、ある学生を評価する際に各評価要素への評定が複数の面接官の間で一致すること、また、面接の成績によって入社後の働きぶりが予測できることを挙げている。さらに実証フェーズとして、ある国内企業における最終面接のデータを基に行った分析を取り上げていることにも注目だ。分析結果として、①望ましい人材像として最も着目すべき要素「業績創出可能性」への評価が、面接官の間で全く一致していなかった、②面接官は評価要素別というよりも全体的な印象による評価を行っている――などの事実が判明した。同社は「構造化面接」を長年にわたって導入していたにもかかわらず、実際には満足いく結果が得られていなかった。そこで、評価項目を最小化するなど面接技法を大きく方向転換して、課題を克服したという。

■ 上記のような分析は、エントリーシートと適性検査についても紹介されている。採用担当者は、自社の就職試験で行ってきた選抜について、これまで抱えていたモヤモヤとした課題を定義し、解決するための道しるべ、ガイドブックとして本書を読んでほしい。

就職選抜論―人材を選ぶ・採る科学の最前線―

内容紹介
就職選抜に関する国内外の研究の最前線の成果を、企業がどう活用すればよいかを具体的に提示。

企業経営の勝敗を分けているのは科学的な就職選抜だった―。就職選抜論についての理論的検討を行い、何が良い就職選抜なのかを明らかにする。さらに、実証分析により日本の就職選抜の実態と課題を明らかにし、改善方法を示す。

就職選抜についての膨大な学術理論を網羅的に示し、国内外の研究の最前線の成果を、企業がどのように活用すれば経営成果につながるのかを提示した経営者・人事担当者必読書。