2022年07月08日掲載

Point of view - 第208回 大岩俊之 ―テレワーク時代の「正しい若手社員の叱り方」

大岩俊之 おおいわ としゆき
ロールジョブ 代表

理系出身。大学卒業後、ITエンジニアから営業職へ転身。電子部品メーカー、半導体商社、パソコンメーカーなどで法人営業を経験。最高売り上げ3億円/月。年上の部下25人を持った経験がある。営業、コミュニケーション、リーダーシップなどの講師として、新入社員、リーダー、マネージャーなど1万人以上に指導してきた実績を持つ。著書に『部下を動かす! ─超一流の伝え方・三流の伝え方』(さくら舎)などがある。

「叱り方」に悩む上司たち

 企業研修で、若手社員の叱り方で困っている上司から、よく相談を受ける。どこまで叱っていいのか、その度合いに悩んでいるようだ。自分では軽く叱ったつもりが、次の日に部下が出社しなかったという話は、現実にある。
 管理職が多い年代(40代中ごろ~50代)は、パワーハラスメント(パワハラ)という概念がなく、仕事で怒鳴られたり、夜遅くまで仕事や飲み会に付き合わされたりしても、上司や先輩には逆らえなかった。そのため、いまだに、「若手社員には自分たちが苦労してきたように厳しく指導しなければならない、甘やかしてはいけない」と思っている人も一定数存在する。
 このような昭和的な考え方が基になって、コロナ禍でテレワークが普及しても、カメラをつけたままにさせたり、逐一、メッセージを送りつけ「返信が遅い」と怒ったりと、過剰な管理をしてしまう。
 ハラスメントに向けられる視線がここまで厳しい時代になってくると、厳しい口調で叱ってはならないことは、上司も理解している。実際に、若手社員に厳しく言えないとなると、どうしたらいいか分からないのだ。逆に、パワハラを気にし過ぎて、若手社員を叱れない上司も出てきた。部下に問題があっても、感情的になって怒るのはいけないが、相手の成長を考えて叱るのは、部下の成長には欠かせない。
 そのためには、どうしたらいいだろうか。

「怒る」と「叱る」の違いを知ろう

 「怒る」と、「叱る」は、そもそも意味合いが違う。

怒る:自分のために、マイナスな感情を相手にぶつけること。口調が強くなりがち

叱る:相手のために、問題点を指摘し、部下の成長を促すこと。口調や伝え方は、コントロールすることができる

 多くの上司は、叱っているつもりでも、実際は、怒っているケースをよく見掛ける。上司の年代と世代間ギャップがある「Z世代」「ミレニアル世代」は、その場の空気を読まず、上司や先輩からの指示待ちであるという特徴がある。
 例えば、テレワークで部下・後輩らが目の前にいない時に、「急いでいるのに、メールや電話をしてもすぐ返事がない」「口調から急ぎだと分かるのに、すぐ報告がない」などというケース。多くの上司は、「急いでいるのに、なぜ、返事がないんだ!」「口調から急ぎなのは分かるだろう」という感じで、部下に注意してしまう。叱っているように見えて、「すぐ返事がないからイライラしている」「急いでいるのになぜ分からないんだ!」と、自分が困って怒っているのだ。
 上司は、部下に「急いでいる」「すぐ返事が欲しい」ことを、ハッキリと伝える必要がある。その上で、すぐ返事がない場合に、「すぐ返事が来ていない」事実に対して叱るべきだ。決して、自分が困っているイライラをぶつけてはいけない。

叱り方にもルールがある

 「部下がきちんと報告しない」「仕事でミスをした」場合など、上司であれば、叱るのは当然だと思っていることだろう。相手のためを思って叱る気持ちは分かるが、叱り方にもルールがある。
 パワハラだと思われない叱り方が必要となる。パワハラの基準は、相手がパワハラと感じるかどうかだ。「Aさんには、多少厳しいことを言ってもパワハラと思われていないが、Bさんにはかなり気を使って叱っているのに、パワハラだと思われている」ことがある。これは、相手との距離感の問題だ。人によって叱り方を変えなければならない。とりわけ、気持ちだけでなく実際の距離感も異なるテレワークの際には心配りも必要だ。
 下記に、叱るときの五つの注意点を示す。

【叱るときの五つの注意点】

①なるべく信頼関係をつくってから叱る
信頼関係のありなしによって、叱られた側の感じる度合いが変わる

②叱るのは仕事についてだけ
エスカレートすると、人間性まで否定する人も出てくる

③叱るときはプラスの面も含めて
「〇〇は良かったけど、〇〇は良くなかった」と、両面を指摘するといい

④理由をつけて簡潔に伝える
ダラダラ話しても相手に伝わらない

⑤叱った後は、必ずフォローする
叱られた後に、一言フォローがあるだけで、相手に安心感を与える

相手に嫌な印象を与えないために

 相手に不快な印象を与えないためには、主語を「You(あなた)」ではなく、「I(私)」にする必要がある。例えば、主語を「You」にすると、「(あなたは)前回もミスしたよね」「(あなたは)返事が遅いよね」「(あなたから)報告がないんだけど」と、少し強い言い回しになってしまう。主語を「I」に変えると、「(私は)前回のミスから学んでほしいと思う」「(私は)返事が遅いと皆が困ると思うよ」「(私は)報告がないと上司に報告できないから困るんだけどな」と、口調がだいぶ柔らかくなる。
 伝え方次第で、相手に与える印象が大きく変わるということだ。叱るときは、「I」メッセージを使おう。

「I」メッセージ:自分を主語にして相手に伝える
「You」メッセージ:相手を主語にして相手に伝える

 ここまで意識することで、若手社員に通じる叱り方となる。
 大変かもしれないが、組織を動かすには大切なことだ。上司側も、若手社員に歩み寄る姿勢を持ちたい。