長年にわたり日本企業を観察してきた著者は、日本の組織には、個人のパッションの炎を消してしまう「もったいない」力が働いているといいます。この状況を変えていかなければ「望ましい未来」はないとし、目指すはしなやかで強い人間集団「レジリエント・カンパニー」であり、その実現のためには「マネジメント・イノベーション」が必要であるとしています。
そして、著者はそのために「3つのトレード・オン」の実現が求められるとします。"トレード・オン"とは、トレード・オフ(二律背反)の反対の意を表現するために著者が生み出した造語で、善の循環や相乗効果、シナジーに似た概念であるとのことです。 その1つ目は、企業の発展と、健全な社会および自然環境の間のトレード・オン、2つ目は、組織の発展と働き手個人の充実感、やりがい、いきがいの間のトレード・オン、3つ目は、業績・ワークと家族と暮らしの幸福度の間のトレード・オンであるとしています。
第1章では、これまでの人びとの働き方は、「暮らし」「幸福度」「人間性の解放」が軽視されてきたとしています。第2章では、日本的組織のこれまでの強みであったまじめさ、継続力、一体性は、20世紀には適していたが、こうした光(強み)の部分から生まれた個の軽視、均質化、前例主義といった影(弱み)の部分もあるとしています。
第3章では、これからの企業が「レジリエント・カンパニー」にならねばならない理由を、企業と組織を変えるメガトレンドとしての5つの「未来の種」を挙げて、それらの観点から解説しています。第4章では、日本企業がこれまでマネジメント・イノベーションを起こしにくかった原因を考察し、組織運営に必要な要素ごとに、21世紀に必要とされる実践スタイルを示しています。
第5章では、「しなやかで強い組織体質」を実現する原理原則として、「トリプルA」、すなわちアンカリング(Anchoring)、自己変革力(Adaptiveness)、社会性(Alignment)の"3つのA"と、それらを強化する"9つの行動"を提唱しています。第6章では、日本の上場企業に勤める社員2000人以上に対してトリプルA経営の観点から行った調査の結果から、日本企業におけるその現状と経営効果を、個別項目別、性別、職級別、業種別に分析しています。
第7章では、マネジメント・イノベータにとって必要な心構えとして、「主体性」「建設的思考」「行動重視」の3つが出発点となるとしています。第8章では、トリプルA(アンカリング、自己変革力、社会性)の原則、現場での行動、期待できる効果をより詳しく解説し、マネジメント・イノベーションの具体的なアクションを「カード」にして示しています。
終章では、冒頭に述べた「3つのトレード・オン」を実現し、しなやかで強い組織「レジリエント・カンパニー」となることが最終ゴールであることを改めて説き、本書を締めくくっています。
マネジメントの在り方や、組織運営そのものに革新を起こすことが日本企業にとっての最重要課題であるという趣旨が明確であり、目指すは「しなやかで強い人間集団」=レジリエント・カンパニーであるという方向性もしっかりしているように思いました。マネジャーでなくともマネジメント・イノベータになり得るというのも啓発的でした。
ただし、トリプルAとは何か、それを「現場での行動」にまで落とし込んだとしながらも、例えばそれが「強い信頼感の醸成」といった抽象レベルにとどまっており、全体としては"実践書"としてより"啓発書"としての色合いが濃かったように思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年7月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー