2022年08月03日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2022年8月

ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介

(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 HR総研では、今年も就活会議株式会社が運営する就活生向けクチコミサイト「就活会議」と共催で、7月に採用担当者と2023年卒の就活生を対象として、これまでの活動を振り返って、それぞれの目線からの印象深いエピソードをテーマにした「2023年卒 採用川柳・短歌」と「2023年卒 就活川柳・短歌」を募集しました。
 今年も応募作品は「オンライン面接/Web面接」を題材とするものが比較的多く見られましたが、入選した作品の題材は、「パリピ」「AI」「内定辞退」「ガクチカ」「玉手箱」「圧迫面接」など、例年以上にバラエティに富んでいます。ぜひご一読ください。

AIが人間と置き換わる日は来るのか

 まずは、採用担当者による「2023年卒 採用川柳・短歌」の入選作品から紹介します。【最優秀賞】は通常は1作品ですが、審査員の採点合計が同点で並び、審査会議でも甲乙つけがたく、イレギュラーではありますが、今回は2作品とし、代わりに【優秀賞】を1作品としました。

候補者の SNSを 確認し 元パリピかと 我緊張し (東京都 総務GLさん)

 最近の採用活動では、応募者のSNS(InstagramやFacebookなど)で発言内容や掲載写真等をチェックして、普段の生活や考え方を探ることが珍しくありません。応募者が多い企業では最終面接に近い段階で、応募者がそれほど多くない企業であれば一次面接前からチェックすることもあるようです。SNSでチェックしてみたら、応募者が明らかに「パリピ(パーティー・ピープル:集まって楽しく騒ぎまくり、時に周りに迷惑をかける若者)」だった事実を発見してしまうことで、人となりを想像し、つい身構えてしまう心情を見事に表現した作品です。自社にカルチャーフィットするのか不安になる気持ちが非常によく表現されていますが、実際に会ってみてどうだったのか、面接結果が非常に気になります。
 余談ですが、こちらの作者はなんと昨年も最優秀賞を受賞されています。初の2連覇達成です。東京勤務の方のようですので、機会があれば一度ぜひお会いしてみたいものです。

 もう1作品はこちらです。

AIを 扱う人材 採るために 書類審査 するのはAI(愛知県 ひつまぶしでひまつぶしさん)

 年々、さまざまな分野にAIの導入が浸透し始めていますが、中でも「採用領域」ではAIの導入が特に早かったといわれています。面接やエントリーシートの合否判定などを通して、これからAIを扱う人材をシステムに搭載されたAI自身が判定し、さらにそのAIによって合格とされ、入社したAI人材がさらにAIを活用した新しいサービスを生み出していくという循環が始まっていることを、風刺的に、そして見事に表現した作品です。AIと人間の立場が入れ替わっていく前兆が感じられ、「AIがAIに都合の良い人間を採用し始めたらどうなるのだろう」と、読み手の想像を大いに膨らませる作品になっていると思います。

 続いて【優秀賞】です。

夢は何? 聞いてる社員の 目が魚(東京都 わっちさん)

 目をキラキラ輝かせて面接に臨む新卒の応募者に向かって、夢を聞く社員自身は夢など見失っており、死んだ魚の目をしていたという、なんともいえぬ哀愁が感じられる作品です。作者によれば、ご自身のお子さまの体験談を基にしていますが、後日談があり、入社してみたらその採用担当者はもう退職していたとのこと。この採用担当者自身の入社当時の夢は何だったのか、いつ夢が破れてしまったのか、はたまた夢など最初から持っていなかったのかと、いろいろと想像してしまいます。皆さんの目は、キラキラしていますか?

ついに学生の反撃が始まった

 【佳作】の中から5作を抜粋して紹介します。

テンプレの 辞退メールで 祈られる(新潟県 うさたろうさん)

 内定辞退の方法が電話からメール、それもテンプレート化されたメールへと変わってきている様子を詠んだ作品です。これまでは、企業から学生への不合格メールをお祈りメールと呼び、不合格だったことを「祈られた」と表現する学生もいましたが、時代は変わったようです。内定辞退を伝えるメールの末尾には、「貴社の益々の発展を心よりお祈り申し上げます」と添えられていたとか。もはやお祈りメールは学生が恐怖するものではなく、企業側が恐れるものになりつつあります。学生の反撃が始まったといってもいいかもしれません。採用担当者からすれば、聞きたいこともあるでしょうし、せめて最終選考や内定の辞退は電話で伝えてほしいと思うでしょうね。

家のそば 月並給与 貰いたい そんな会社は 俺が行く(東京都 トリピーさん)

 以前は少なかった「なるべく住環境を変えずに、自宅通勤で働きたい」と主張する就活生の増加に、「甘いぞ」と言いたげな作者の悶々(もんもん)とする心情を詠んだ作品です。ただ、転勤や単身赴任をなくす企業が現れるなど、多様な働き方を認めようという動きが広がりつつある中、「原則・在宅勤務」という企業も徐々に増えはじめています。「家のそば」どころか「家の中」というわけです。「自宅から通いたい」から「自宅で働きたい」と主張する学生が増える時代もそう遠くないかもしれません。

コロナ禍で ガクチカ言えない 23卒(東京都 こぬきさん)

 2020年1月頃から突如として沸き起こった今回の新型コロナウイルス。通学や各種課外活動がまともにできたのは1年生の1月までで、その後の2年間以上を自粛して過ごさざるを得なかった2023年卒学生に、これまでの先輩たちのように語れる、留学、サークル活動、ボランティア、アルバイト、旅行等のアクティブな「ガクチカ(学生時代に力を入れた活動)」はありません。「ガクチカ」抜きに彼らを評価せざるを得ない、今の採用の難しさを詠んだ作品です。
 ただ、「ガクチカ」がないことを嘆くのは採用担当者のほうではなく、むしろそのような体験をすることができなかった学生たちこそ、一番辛いことだと思います。いまだコロナ禍の収束が見えない中、新たな「ガクチカ」の表現方法を模索していく必要がありそうです。

対面は マスクで表情 伺えず だからZoom なのにマスクかよ(東京都 ちんやさん)

 対面の面接では、質疑応答以外の所作や雰囲気は確認できるものの、マスク越しであるため顔全体の表情は確認できません。一方、オンラインでの面接であればマスクの着用は必要なく、顔全体の表情が確認できるのがメリットだったはず。ところが、「オンライン」でかつ「マスク着用」という二重苦で、絶望的に手応えのないさまを表現した作品です。採用担当者のこの上ない失望感が、「なのに・・・かよ」に見事に凝縮されています。作者によれば、1人だけではなく、そういった学生が何名もいたとか。表情を悟られたくないのか、化粧が間に合わなかったのか、自宅ではなく周りに人がいる環境だったのか、マスク着用の意図は不明です。

個室無く トイレに籠る ウェブ面接(群馬県 よしよしよっしー)

 面接のオンライン化で顕著になった、就活生が個室を持っていない場合にどうするかという問題を、「トイレで面接受験」という実際にあったシーンで表現した作品です。必死に無音のプライベート空間を探した結果、トイレに籠るしかないと考えた学生と、その状況を察知しつつ、何も突っ込むことなく微笑ましく見守りながら面接を続ける採用担当者の関係がいいですね。作者によると、「トイレで面接受験」という学生は、意外に多いとのこと。ところで、学生が面接を受けている間、家族はトイレを使いたくなったらどうしているのでしょうか。じっくり面接する企業の場合、1回の面接時間が1時間ということも少なくありません。それともうひとつ、学生が便座に座ってPCを膝に置いているのか、それとも便座にPCを置いて、学生は床に座っているのか、どんな態勢で面接を受けているのかといったところも気になるところです。

[図表1]「2023年卒 採用川柳・短歌」入選作品

入選 作品(地区・雅号)
最優秀賞 候補者の SNSを 確認し 元パリピかと 我緊張し(東京都・総務GL)
AIを 扱う人材 採るために 書類審査 するのはAI
(愛知県・ひつまぶしでひまつぶし)
優秀賞 夢は何? 聞いてる社員の 目が魚(東京都・わっち)
佳作 学生と アクリル板より 厚い壁(東京都・きゅうぴいちゃん)
自分より 当社をよく知る 学生たち(大阪府・ナーポリ)
テンプレの 辞退メールで 祈られる(新潟県・うさたろう)
コロナ禍で ガクチカ言えない 23卒(東京都・こぬき)
自己紹介 画面で顔見ず Word見る(東京都・きゅーちー)
対面は マスクで表情 伺えず だからZoom なのにマスクかよ(東京都・ちんや)
家のそば 月並給与 貰いたい そんな会社は 俺が行く(東京都・トリピー)
もう終盤 形成困難 母集団(東京都・かけるん)
個室無く トイレに籠る ウェブ面接(群馬県・よしよしよっしー)
人事にも 保障はないのか 緊急事態(辞退)
(東京都・もう聞かなくなったゆとり世代)

出典:HR総研、就活会議「就活会議」([図表2]も同じ)

就職・採用は男女の恋愛に似ているとは言うけれど

 ここからは、就活生からの投稿による「2023年卒 就活川柳・短歌」の入選作品を取り上げます。まずは、【最優秀賞】です。

面接の フィードバックは 家族から(大阪府 スーススーさん)

 自宅でのWeb面接が当たり前になった今、家族に聞き耳を立てられている学生はこの方だけではないでしょう。作者のコメントによると、「もっと明るくしゃべられへんの?」「なんか途中、めっちゃ訛ってたで」「なにが『家族への恩返しがしたい』や、洗濯物一つ畳まないくせに」など、関西人らしいストレートなフィードバックをもらえるとのこと。面接官からのフィードバックでは決して聞くことのできない、忌憚のない(なさすぎる)客観的なアドバイスをもらえることを、Web面接ならではのメリットとして肯定的にとらえ、「家族からのフィードバック」に苦笑する、作者の心情を見事に表した作品です。「壁に耳あり、障子に目あり」は、必ずしも注意を促す言葉ではなさそうです。

 続いて、【優秀賞】の2作です。

恐ろしや 仏頂面の 面接官 よくよく見れば 画面フリーズ(東京都 ひよこぶたさん)

 面接で多くの人が不安を感じるのが「沈黙」と、オンライン特有の「回線問題」でしょう。その両方が組み合わさった、現代ならではの就活での不安を凝縮した作品であるといえます。作者は、面接の最初の質問で、画面越しに表情一つ変えない面接官に、自分の話にまったく興味を持ってもらえていないのではないかと、かなりビクビクしたとのこと。仏頂面のまま表情が変わらなかったとしたら、さぞ怖かったことでしょう。フリーズ解消後、面接を続けてみると、実際にはとても温和でにこやかな方だったとか。画面がフリーズしていないかどうかをすぐに見分けられると、面接での余計な緊張が少しは減るのかもしれません。

内定後 カップルみたいな 会話する 別れたいのに 別れてくれない(兵庫県 さんちゃんさん)

 学生と採用担当者、双方の困った感情、表情を男女関係に例えて表現した、ストレートでありながら非常に共感性の高い秀逸な作品だと思います。採用担当者の思いとしては、「相思相愛だと思っていたのに。あんなに第一志望だと言っていたのに。何か誤解があるなら解きたい。内定承諾して戻ってきてほしい」と、引き止めに必死なのでしょうが、得てして別れを決めた人(内定を辞退して、別の会社に行くことを決めた人)の心は既に前(別の会社)を向いているもの、という学生の立場も理解してあげたい。作者によれば、これは電話でのやりとりで、その場では内定辞退は認めてもらえなかったとのことです。

「玉手箱」から「メルカリ」まで登場

 こちらも【佳作】の中から5作を抜粋して紹介します。

地方から 夜行バス乗り 6時間 面接時間は わずか10分(宮城県 お暇頂戴いたします)

 Web面接が主流となった今でも、たった10分の面接のために遠方からわざわざ学生を呼んで「対面」面接にこだわる企業があることに驚きます。きっと、宮城県から東京にある企業の面接のために上京したのでしょう。交通費を抑えるために、新幹線ではなく夜行の高速バスを利用した移動時間の6時間と、わずか10分という面接時間の短さの明確な対比によって、理不尽さや虚しさをうまく表現できた作品だと思います。人を思いやる力や想像する力を問われているのは、学生ではなく、むしろ採用担当者の方ではないでしょうか。

玉手箱 解いた疲労で 歳をとる(埼玉県 霧崎鋭さん)

 新卒採用で、「SPI2」と並んでよく利用されるWebテストの一つである日本エス・エイチ・エル社「玉手箱シリーズ」を、おとぎ話「浦島太郎」のストーリーに重ね合わせ、Webテストに向き合う作者の苦労や疲労を軽やかに表現した作品です。「玉手箱シリーズ」は、短時間で大量の問題を解くことを求められ、終了後には「疲れた」と漏らす学生が多いといわれています。もしかして「玉手箱」の命名者は、本当におとぎ話から名前を取ったのではないかと思わずにはいられませんが、もしそうだとすればかなりのブラックジョークの効いたネーミングですね。

面接中 「ご飯どうする?」 「面接中!」(埼玉県 山田太郎さん)

 Web面接により、就職活動が日常生活に食い込んだ現代を、印象的で共感性の高い家庭での一コマとして表現した作品です。「ご飯どうする?」という母親からの問い掛けの前に、ドアのノックなど何かしらのサインがあれば、一旦マイクをオフにすることもできますが、多くの家庭ではそのような配慮を日常的にしていないでしょう。子どもがWeb面接を受けていると知らなければ致し方のない行為です。リビングから大声で呼び掛ける母親と、面接中に焦る学生の姿が鮮明に目に浮かびます。作者によれば、「面接中!」と叫んだ時には、一時的にマイクをオフにしたとのことですが、カメラはオンのままですから、画面越しの面接官に声は届かなくても、大きく開けた口の動きから、おおよその判断はつきそうです。面接官のほくそ笑んだ表情までもが思い浮かびます。面接を受ける際には、指向性の高いマイクの付いたヘッドセットの着用をお薦めします。そうすれば、家族の声が面接官には届くことはないでしょう。

御社から 弊社に変わる 達成感(三重県 きこさん)

 自分の就活を振り返って込み上げてくる達成感を、社会人特有の言い回しで表した作品。学生時代には使っていなかった「御社」、「弊社」という響きを自分の言葉にしており、学生から社会人への成長過程もうかがうことができる素敵な一句です。就活中はずっと「御社」と呼んでいた企業に内定し、入社を決意してからは、後輩に対して「弊社は・・・」と自慢げに企業説明する姿が微笑ましい限りです。その達成感をいつまでも忘れずにいてほしいと思います。

圧迫面接 するならこちらは メルカリで 御社の商品 ぜんぶ売ります(東京都 あいこさん)

 対面で圧迫面接という精神的な負荷が大きい面接で受けたストレスを、いま家にあるその企業の商品をフリマアプリ「メルカリ」で売り払って、自分の目の前から全部消してしまおうという、斬新かつ今どきの発散法を詠んだ作品です。
 ただ、疑問なのは、その企業の商品を見るたびに、圧迫面接の悪夢を思い出すことのないようにしたいという思いなのか、フリマアプリでその企業の商品を安値で売り払うことで、その企業の商品イメージを少しでも落とそうとしたいのか、何なのでしょうか。いずれにしても、それによって気分がスッキリするのであれば、面白いストレス発散法だと思います。ところで、無形商材しかない応募先企業の場合はどう対処するのかも、作者の考えをぜひ聞いてみたいところです。

[図表2]「2023年卒 就活川柳・短歌」入選作品

入選 作品(地区・雅号)
最優秀賞 面接の フィードバックは 家族から(大阪府・スーススー)
優秀賞 恐ろしや 仏頂面の 面接官 よくよく見れば 画面フリーズ(東京都・ひよこぶた)
内定後 カップルみたいな 会話する 別れたいのに 別れてくれない
(兵庫県・さんちゃん)
佳作 地方から 夜行バス乗り 6時間 面接時間は わずか10分
(宮城県・お暇頂戴いたします)
御社です! 未来はきっと 弊社です!(茨城県・けねすけ)
玉手箱 解いた疲労で 歳をとる(埼玉県・霧崎鋭)
ご健闘 祈られ続け 不健康(広島県・かぶるくん)
面接中 「ご飯どうする?」 「面接中!」(埼玉県・山田太郎)
御社から 弊社に変わる 達成感(三重県・きこ)
難しい 質問来たら 回線が 悪いと言って 時間を稼ぐ(愛知県・へいへいぼーい)
羨ましい 進路決まってる 台風さん(新潟県・wasabi)
Web面接 目線はパンダの ぬいぐるみ(埼玉県・オンラインアルゴリズム)
圧迫面接 するならこちらは メルカリで 御社の商品 ぜんぶ売ります
(東京都・あいこ)

 HR総研のオフィシャルページでは、「2023年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」の全入選作品について、作者の思いを踏まえての寸評・解説とともに掲載しています。それぞれの作者がどんな気持ちでこの川柳や短歌を詠んだのか、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご覧ください。

■ HR総研 「2023年卒 採用川柳・短歌/就活川柳・短歌」オフィシャルページ
 こちらからご覧ください ⇒ https://hr-souken.jp/senryu2023/
寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
https://www.hrpro.co.jp/