前川孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学 兼任講師
1.バッドニュース・ファースト。組織人の義務としての報連相
報連相(報告・連絡・相談)は、ビジネスパーソンがまず身に付けるべき基本中の基本。現在、40代以上の上司は、入社時にそう教育され、励行してきたことだろう。
社員一人ひとりが任された仕事は自分一人のものではなく、会社の看板を背負ったもの。仕事の最終責任は上司や組織が負わなければならない。だから、報連相は"心掛けるもの"ではなく、組織人としての"義務"なのである。特に顧客や取引先とのミスやトラブル、クレームなどはバッドニュース・ファースト(Bad News First/Fast、悪い知らせほど最優先で、迅速に上司に報告・相談し、早期対応が欠かせないということ)だと厳しくたたき込まれ、常に意識してきたのではないだろうか。
しかし、その一方、筆者が営むFeelWorksが開講する「上司力®研修」を受講する管理職の多くから寄せられるのは、「部下から必要な報連相がない」または「報連相が遅い」といった嘆きの声だ。新入社員研修で、組織人に求められる基本ルールとして、また職場に必須のコミュニケーション・スキルの一環として、必ず教えられるのが報連相なのにもかかわらず、上司を悩ませる課題として常に挙げられるのはなぜなのか。どうすれば解決できるのだろうか。
2.《マネジメントの非常識》報告や相談がない・遅れは、部下の怠慢!?
組織を預かる上司からすれば、報連相が組織人の務めであることは明らかだ。したがって、必要な報連相をしないことや遅れることは、部下の怠慢にほかならないと上司は認識している。「上司から言われる前に、部下から率先して行うべき」という意見は、確かに正論に思える。しかし、部下の側から聞こえてくる声に耳を澄ますと、異なる正論が浮かび上がってくる。
まず、部下からすれば、どの程度のことを報告・相談すべきか判断に迷う場合があることだ。責任感の強い部下ほど「この程度のことで上司に相談しては迷惑だろうし、きりがない。常々言われている主体性や当事者意識も疑われてしまう。まずは自力で解決する努力をしなければ」と考えがちだ。
また、以前に報告や相談をした際に、上司の反応や態度が悪かったため、それ以降は控えがちとの声も聞く。例えば、上司がパソコンの画面を見ながら、キーボードを打つ手も止めず、「ながら」で受け流したこと。思い切ってした報告や相談を、そっけない態度で上司があまり重視してくれなかったこと。上司やチーム内にミスやトラブルを起こした人を糾弾する雰囲気があり、バッドニュースの報告ほどためらってしまうなどさまざまな背景が考えられる。
上司が、いつも忙しそうで話し掛けにくく、報告や相談がしにくいとの声も多い。コロナ禍でリモートワークも増えてきたため、上司の状況が把握しづらいのでなおさらだ。上司からは「必要な報連相はいつでもするように」と言われはするものの、多忙な上司に声を掛けるのは、経験が浅い若者や異動してきたばかりの部下にとっては、思いのほか勇気がいることだ。
日常における上司の無意識の態度や言動が、組織の文化になっていくものだ。そうした対応が積み重なって、部下の報連相をする姿勢を後ろ向きにさせている面もあるのではないだろうか。
報連相が不十分なのは、部下に責任があると決めつけるだけでは解決しない。「報連相はまずは部下から」との固定観念を一度脇に置き、上司としての在り方を見直す必要がある。
3.《マネジメントの新常識①》報連相は業務完遂のためだけにあるのではない。組織活性化のためにこそ活用しよう
報連相を組織人の義務とする考え方の底流には、報連相は業務完遂のためという捉え方がある。一面としては大切な要素だが、それだけでは狭すぎるのではないだろうか。定義を広げて、報連相を上司と部下とのコミュニケーションの絶好の機会であり、マネジメントの有効なツールだと捉えてみてはいかがだろう。活用次第で相互理解を深め、信頼関係を築き、仕事の質を高め、組織内の協力を促す役割を果たす仕掛けと考えるのだ。変化が激しく正解のないVUCAの時代において改革やイノベーションが求められている中では、メンバーの創造力を高め、活かすためにも、報連相を活用することが重要だ。
それには、第1に、部下が報連相に後ろ向きになりがちな要因について、上司自らが改善を図る必要がある。あらためて報連相の意義を部下に伝えるとともに、日頃から歓迎し、部下の意欲を高めることだ。
上司としては、部下からの報告や相談は、仕事の手を休めてしっかりと聴き取りたい。多忙な最中なら、上司から時間を再指定すればよい。些細な内容や部下の悩みや迷いに対しても真摯に相談に応じる。前向きな報連相には、感謝や称賛の意を表す。上司からも、こまめに報連相を投げ掛ける。こうした取り組みを通じて、報連相がしやすい風通しのよい職場がつくられていく。チームワークも向上し、心理的安全性も確保しやすくなるだろう。
第2に、日常的な取り組みと共に、定期的な報連相の場をつくることも有効だ。週に1度、少なくとも隔週などで、部下との定例ミーティングを設定し、確実に報連相の機会を確保することだ。これは多忙な上司ほど必須の対応となる。また、新入社員や異動直後の社員などに対しては、暗黙知になりがちな組織内の報連相の仕組みを、形式知にして説明することが求められる。連絡ノートやメールによる日報や週報の授受など、組織内の報連相ルールを明確化しておくことが大切だ[図表]。
[図表]報連相を活性化するためには
部 下 |
①仕事が完了したときの報告、ミスやトラブルがあったときの連絡・相談は必須であることを徹底する ②報告ルール・手順を確認する ③組織内で報連相を共有する ④定期的な報連相の場(機会)を活用する |
上 司 |
①上司からこまめに報連相を投げ掛ける ②話をさえぎらない。質問攻めにしない ③きちんと最後まで話を聞く ④悪い報告にも不機嫌な態度や感情的な言動は慎む ⑤前向きな報連相には、感謝や称賛の意を表す ⑥真摯に相談に応じる |
4.《マネジメントの新常識②》部下の働きがい喚起・育成に報連相を活用しよう
さらに、報連相を積極的に位置づけ、部下の働きがいを喚起し、人材育成と活躍支援のための有効なツールでもあると捉えたい。拙著『結果を出す人の「報・連・相」』(日本能率協会マネジメントセンター)では、報連相を「周りから承認され、働きがいをつくる武器」と定義した。
例えば、部下からのミスやトラブルなどの報告や相談を単なる応急処置にとどまらせず、いかに今後の育成につなげるかは上司の腕次第だ。部下自身にトラブルの原因究明と分析、再発防止策の検討と実行、振り返りと対応策の改善という一連の流れを経験させ、意識の醸成を促したい。日々流れていく仕事を素材にして、PDCAを自ら回すことができる自律型人材に育成していく絶好の機会にするわけだ。
また、部下の今期の目標に対する遂行状況について、節目ごとに報告を促し、前向きな支援につなげていくことも有効である。まず、部下から自身の仕事の結果についてプラスとマイナス両面の自己評価を報告させる。成果についてはプロセスも含め承認し、さらに強みを伸ばすよう励ます。残された課題については原因分析と改善に向けたアイデアの検討を促し、自ら考え出したアクションを次期目標に掲げさせる。こうした自発的で創造的な仕事経験を積ませることで、部下一人ひとりが着実に成長していく。
報告時の課題設定と解決策については、つい上司が部下に対して指示命令しがちだが、極力控えることが肝要である。できるだけ部下自身に考えさせ、意見や提案を引き出すことだ。部下自身が納得して決めた目標に向かって邁進できるよう、内発的に動機づけることがポイントになる。
上司がアドバイスすべきは、部下が常に組織の理念やミッション、任されている仕事の目的に立ち返る視点を提供することである。どのように創意工夫をすれば、より顧客や社会への貢献につながるのかに意識を向けさせる。その結果、部下が仕事の意義を理解し、成果(お役立ち)を顧客からの感謝(ありがとう)として受け取る。さらに上司や同僚から承認や称賛を受け、自分の成長を強く実感できるようになる。こうして部下の働きがいを育むことも、報連相を活用することで可能となるのだ。
前川 孝雄 まえかわ たかお 株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師 人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力®研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。連載や講演活動も多数。 |
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著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月) |