庭本佳子 にわもと よしこ 2015年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程を修了。博士(経営学)。2015年に摂南大学専任講師を経て、2017年より神戸大学大学院経営学研究科准教授。専門領域は、経営組織論、人的資源管理論。主な論文に「組織能力におけるHRMの役割」(『経営学の再生』〔経営学史学会年報21輯〕2014年、経営学史学会賞受賞)、「経営戦略論における知的熟練の意義」(日本労務学会誌23(1)2022年)、主な著書に『経営組織入門』(共編著、2020年、文眞堂)がある。 |
組織が高い成果を出し続けるには
近年、不確実性の高い環境にあっても、組織が高い成果を出し続けるための新しい考え方として、"チーム"と"シェアドリーダーシップ"の活用が注目されている。環境変化がある程度見通せる場合には、明確な目標が立てやすいので、指揮命令系統の下で組織メンバーが効率的に実行していくことが組織成果の鍵となっていた。しかし、今日のVUCA時代に組織に求められるのは、より良い目標を迅速かつ柔軟に設定することであり、その都度必要なことを学び、アウトプットにつなげていく適応力こそが組織の成果を高めていく。
そのためのアプローチの一つが、チームにおける「二つの自律性」だ。すなわち、①組織内に自律性の高いチームをつくっていくことと、②チーム内で活動の自律性を高めるシェアドリーダーシップである。
組織内に自律性の高いチームをつくっていく
第一の自律性は、全体組織の権限を小さな組織単位に分散させ、各ユニットでの自律的な活動を増やしていくというものである。ユニットには多くの意思決定の権限を与え、高い自律性を持たせる。ミッションは上層の組織から与えられるとしても、目標設定から実行まで自律的に意思決定させることで、各ユニットで進捗を把握し、軌道修正を柔軟に繰り返していくことができる。
こうしたユニットは、"チーム"と名付けられることもある。チームとは、共通の目的やミッションを遂行する2人以上の人々で構成され、その遂行プロセスにおいて非常に多くの相互作用と調整が見られる活動形態である。チーム単位での活動にすれば、顧客反応や潜在的な市場ニーズ、技術・情報の進展など環境の微細な変化をいち早くキャッチでき、「われわれのチームはその問題をどのように解決できるのだろうか」という視点から、メンバー自身としても責任意識の高い活動につなげていきやすい。
とりわけ、自律性の高いチームにおいては、常に新しく仕事のやり方を学習し必要な修正を行うことで、チームを取り巻く内的・外的環境の変化に応え続けることができる。企業としても、不確実な環境認識のままにアクションを起こすリスクを分散し、しなやかに環境に適応していくことが可能となる。もっとも、こうした小さいユニットで良いチームワークが生まれるためには、組織に対する高い自律性を維持していることの他に、メンバー自身のスキルが高いことや、メンバー同士の知的な相互交流が盛んであるといった条件が必要である。
チーム内で活動の自律性を高めるシェアドリーダーシップ
実際のチーム活動は柔軟で流動的であるため、メンバー自身のタスクは独立しているものの、各タスクは他のメンバーのタスクと密接につながっている。チームの成果も、各メンバーの活動のコラボレーションから生じている。それゆえ、チーム活動においては、「何のためにわれわれはこの活動を行っているのか」についてのイメージが、メンバー全員にシェアされていることを前提に、適材適所で各メンバーのスキルや知識が最大限に駆使されることが重要である。かくして、チームではメンバーの能力の総和以上の力が発揮されるようになる。
第二の自律性は、このようなチームワークを高めることに関わる。優れたチームでは、チーム内に共有された認知枠組みの下で、各メンバーが臨機応変に自律的なリーダーシップを発揮している。リーダーと名前がついている人だけが権限に基づいてメンバーをまとめていくのではなく、リーダーシップは各メンバーに委ねられている。
チーム内のメンバーが高い自律性を持ってリーダーシップを共有している状態は、"シェアドリーダーシップ"と呼ばれる。リーダーシップを共有しているといっても、全員が一斉にリーダーシップを発揮するということではない。シェアドリーダーシップとは、チームメンバーのそれぞれが、チームの目標を達成するために必要なときに必要なリーダーシップを発揮し、誰かがリーダーシップを発揮しているときには、他のメンバーがフォロワーシップに徹するようなリーダーシップの「プロセス」である。
シェアドリーダーシップがチーム内で機能すれば、個人レベルでは職務満足やモチベーションを高め、個人のタスクとしても高い成果につながりやすい。また、チームレベルでは、チーム内の情報や知識量が増えて組織力を向上させる。加えて、適切な状況で最適なメンバーがイニシアチブを取ることでチームとしての意思決定の質も高めていく。
最後に、シェアドリーダーシップが機能するためには、他メンバーと異なる考えや疑問や懸念に関して率直に話しても大丈夫だと思える経験がチーム内に蓄積していること、すなわち「心理的安全性」が、チームの土台として構築されている必要がある。その他、個人の多様な視点や能力が尊重され、組織メンバー間での権限と責任の分散が受容されやすい組織文化であること、組織メンバーとしての専門スキルとともに、他メンバーとの対話スキルを高めていくといったことも、シェアドリーダーシップを促進していくための重要な条件となってくる。