2022年10月04日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2022年10月

ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介

(調査・編集:主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 10月1日、2023年4月入社者に向けた採用内定が解禁となりました。ただ、今年は1日が土曜日だったこともあり、大企業の中でも一部の企業に限られ、多くの企業は週明け3日(月)の開催としたようです。
 今年の内定式の実施形式について、株式会社学情が調査した結果が発表されていますので、紹介します。学情が9月21日に発表した『「内定式」に関する企業調査(2022年9月)』によれば、2023年4月入社の内定式の実施形式は、「リアルで実施(コロナ前と同規模)」が30.6%で最多となり、「リアルで実施(規模を縮小)」25.9%、「リアルで実施し、一部学生はオンラインで参加」6.7%と合わせた63.2%の企業が、「内定式」をリアルで実施すると回答しています。「未定」や「実施予定はない」企業もあり、「オンライン(のみ)」で実施する企業は17.6%にとどまり、リアルで実施する企業割合は、昨年(34.5%)から30ポイント近くも伸びているとのこと。新型コロナ感染の第7波も、1日当たりの新規感染者数が10月に入ってピーク時の10分の1近くにまで減少し、「withコロナ」としてできるだけ日常に近づける動きがここにも見られるようです。

早期選考は本当に有効か

 今回も前回に引き続き、6月にHR総研が2023年卒の「楽天みん就」会員を対象に実施した「2023年卒学生の就活動向調査」の中から、「内定」「辞退」に関連したテーマの設問の結果について、学生の本音のフリーコメントも含めて見ていきます。

 まずは、最終的に入社先として内定承諾をした企業から内定(内々定)をもらった時期について見てみましょう。文系・理系ともに最多は「5月後半」で、文系は24%と約4分の1を占め、内定タイミングとしては明らかなピークを形成しています[図表1]。これに対して理系では、「5月後半」の18%は最多ながらも、2位の「4月後半」15%、3位の「6月前半」14%とそれほど大きな差はなく、ピークといったものは見られず、「4月前半」から「6月前半」にかけてほぼ並んでいる状態になっています。

[図表1]入社先として内定承諾した企業の内定時期

資料出所:HR総研「2023年卒学生就活動向調査」(2022年6月、以下図表も同じ)

 前回の本稿で見たように、採用活動の前倒し傾向から3月までに内定を取得した学生も多かったものの、「3月後半」までにもらった内定先に入社を決めた学生の割合は、文系21%、理系27%にとどまり、早期選考・早期内定出しが本当に有効な活動なのかは再検討してみる価値がありそうです。

 入社先として内定承諾した企業を就職先候補として初めて認知した時期については、文系と理系で異なる傾向が見られます。理系では、「2021年3月以前」(大学2年生、修士の場合は大学4年生の3月以前)が最多の20%となっており、具体的な就職活動を始める前のきわめて早い段階から就職希望先を決めている学生が多いことがうかがえます[図表2]。同時期を選択した文系は11%と理系の約半分にとどまります。続く「2021年4~6月」も、文系11%に対して理系15%と、理系の割合のほうが多くなっています。特に理系に対しては、必ずしも採用活動という枠組みではなく、早い段階から企業を認知してもらう広報活動が求められているといえそうです。

[図表2]入社先として内定承諾した企業を就職先候補として初めて認知した時期

 一方、文系の最多は「2022年3~4月」の23%で、次いで「2022年1~2月」が21%と、いずれも2割を超えています。就職活動を進めていく中で、徐々に具体的な就職希望先が形成されていく割合が高いことがうかがえます。なお、「2022年5~6月」になると、文系3%、理系2%と大きく減少する結果となっています。本命企業をはじめとした第一陣の企業群の受験に失敗し、仕切り直しとして新しい応募先を探さざるを得なかった学生ということなのでしょう。

内定承諾まで「1週間以内」が7割超の理系

 では、学生は内定をもらってから内定承諾をするまでにどれくらいの時間をかけているのでしょうか。一度は内定承諾をしながらも、より志望度の高い企業から内定を得たことで、内定辞退を申し出る学生もいますが、ここでは、最終的に入社を決めた内定先についての内定承諾に限定して聞いています。
 文系・理系ともに最も多いのは「1週間以内」で、文系56%と半数を超え、理系に至っては72%と7割を超えます[図表3]。理系は、推薦制度を利用した応募が一定程度ありますから、文系よりも高い割合となるのも理解できます。

[図表3]入社予定の企業に内定承諾するまでに要した期間

 次いで、「2週間以内」と回答した学生が、文系で19%、理系で12%となっており、「1週間以内」と合わせると、文系75%、理系では84%に達します。内定出しの時期にもよるでしょうが、文系では内定後「2週間以内」、理系では内定後「2週間以内」どころか「1週間以内」に内定承諾が得られないときは、要注意といってもいいかもしれません。
 一方、中には「3~4カ月以内」、さらには「半年以内」という学生もわずかながらいます。早期選考・早期内定出しの場合には、内定承諾に要する期間は長くなる傾向があるとはいえ、ここまで長くなる学生の入社意欲には疑問符がつく気がします。寛容な企業の姿勢には頭が下がりますが、一方で、企業側はここまで内定承諾を待つことが果たして必要なのかと考えてしまいます。

スペック重視の理系、ソフト重視の文系

 入社先を決めた学生を対象に「内定承諾を決めた理由」を聞いてみたところ、「仕事内容」が文系・理系ともに最多で、それぞれ73%、79%となっています[図表4]。次いで「事業内容」が59%、65%と、2位までは文理関係なく同じ項目が挙がっています。この2項目は理系の割合が文系より高くなっており、理系の学生がより強く重視していることがうかがえます。

[図表4]入社先として内定承諾を決めた理由(複数回答)

 文系3位の「福利厚生」の割合は文系・理系ともに59%ですが、理系3位の「給与」の割合は、文系の54%に対して理系は60%、理系5位の「勤務地」は、文系の50%に対して理系は56%になるなど、学生が入社する企業を選ぶ際に、理系のほうが勤務条件を現実問題として重視しているようです。「会社の知名度」(文系34%、理系39%)、「安定性」(文系30%、理系35%)など、会社の規模に関連する項目も理系のほうが高くなっています。
 一方、「会社の雰囲気」(文系57%、理系51%)、「人事の対応・人柄」(文系41%、理系37%)といった、スペックというよりソフト面について、文系のポイントのほうが高い傾向がうかがえます。

 次に、入社先として内定承諾した企業の「会社の雰囲気」の確認方法についてです。文系・理系ともに最多は「面接での人事からの説明」で、それぞれ51%、50%とともに半数に及びます[図表5]。次いで、「説明会での人事からの説明」が文系46%、理系44%といずれも4割を超える高い割合となっており、人事担当者が学生に与える影響の大きさがうかがえます。続く3位は「リクルーター・社員」で、文系39%、理系44%と、こちらも4割前後となっており、人事と同様に社員も「会社の雰囲気」の判断指標とされています。

[図表5]入社先として内定承諾した企業の「会社の雰囲気」の確認方法(複数回答)

 採用ホームページでは、社員インタビューなどを掲載することが多いと思いますが、掲載方法によるポイント差があることが分かりました。「企業HPでの紹介(動画)」が文系38%、理系42%と4割前後となっているのに対して、「企業HPでの紹介(文章)」は文系・理系ともに29%と3割に達しておらず、その差は約10ポイントもあります。同じ内容を訴求するにしても、「動画」と「文字・写真」では圧倒的に「動画」のほうが有効であることが分かります。
 ポイントこそ文系と理系で若干の差はあれ、学生の「会社の雰囲気」の確認方法の順位はほとんど同じとなっており、「新聞・雑誌・書籍」「SNS」はそれほど情報源にはなっていないようです。

※理系の「説明会での人事からの説明」は43.9%(3位)、「リクルーター・社員」は44.3%(2位)で、文系の順位とは異なります。「口コミサイト」と「職場見学」は同率です。

採用にも求められる個への対応

 内定承諾した(する予定の)企業で、印象の良かった「人事の対応・人柄」と「社員の対応・人柄」について、フリーコメントで回答してもらったので、それぞれ抽出して紹介します。
 まずは「人事の対応・人柄」からです。質問への真摯な対応、早い選考結果連絡、個別の柔軟な対応などを挙げる声が多いようです。

・面接の度に逆質問の時間をたくさん設けてもらい、会社について納得した上で内定承諾の判断をさせてもらえた(理系、旧帝大クラス)

・グループワーク後のフィードバックが手厚かった(文系、旧帝大クラス)

・私の言葉に対して、対等な目線で会話してくれていると感じた(理系、中堅私立大)

・対面面接の待合室において、若手人事の方とお話をして過ごし、緊張をほぐしてくれた。最終面接の際、面接中に内々定をもらえたため、面接直後に人事(中堅)の方と面談をしたが、その際も私について感じていたことなどを話してくださり、自分を見ていてくれたことがうれしかった(文系、上位私立大)

・質問攻めでなく、会話よりの面接でにこやかに話してくださった(文系、上位私立大)

・すべての選考を通して結果の連絡が早く、就活生ファーストの対応をしていただけた(文系、上位国公立大)

・イベントの際、企業側が答えにくいであろう質問にも、真摯に答えてくださった(文系、旧帝大クラス)

・とにかく能力や人柄を評価してくださった。また、「緊張させないことが目標」と面接の最初におっしゃっており、実際とても和やかな空気を作ってくださった(理系、上位国公立大)

・どれだけ入社してほしいかの説明をしてくださり、内定承諾書に添えて短い手紙を添えてくださった(文系、その他国公立大)

・耳を傾けて私の話を聞いてくださった。興味を持ってくださっていると伝わってきて、こちらも熱が入った(文系、上位私立大)

・結果連絡が素早く、合格者にはメール、不合格者には必ず手紙で連絡していたところにとても誠意を感じた(文系、早慶大クラス)

・どのような選択をするとしても後悔がないように全力でフォローするとおっしゃっていた。担当のリクルーターだけでなく、新卒採用を担当する人事の皆さんでフォロー方針を考えていることを教えてくださったこと。その時々の悩みに応じて適切な社員の方との面談をセッティングしてくださったこと(文系、旧帝大クラス)

・インターンシップから一貫して、毎回電話による日程の確認をしていただけたことが特に好印象だった。丁寧さや真面目さを実感した(文系、その他私立大)

・内定承諾後に依然として不安があることを伝えると、面談を設けてくださった(文系、早慶大クラス)

・内々定のご連絡をしてくださった人事の方が、とにかく親身になってお話を聞いてくださり、「あなたの人生だから今すぐに決断を求めたりはしません。ゆっくり考えてご自身の満足のいく決断をしてください。」とおっしゃってくださったことがとにかく印象的だった(文系、早慶大クラス)

・定期的にメッセージを送ってくれたり、不安なことも多いだろうからと内定承諾した後もフォローしてくれたりしたこと。また、内定承諾もじっくり時間をかけていいといわれたのも、他社と比較してさらに行きたいと決断できた理由だと思う(理系、中堅私立大)

・一人の就活生ではなく固有名詞の私として、最初から最後まで向き合ってくれた(理系、上位私立大)

・内々定後「いつでも不安があればメールでも電話でもしてください」と言ってもらえて、「社風や社員の方の人柄がつかめずに不安です」と連絡すると、わざわざ自分と境遇の近い社員の方を選んだ面談の時間を設けてくれたこと(理系、上位国公立大)

配属予定先社員との交流が有効

 次は、「社員の対応・人柄」です。会社の長所・短所の説明、楽しく働く様子、フランクな対応と温かいフォローなどのほか、配属先が決まっていることが少なくない理系学生にとっては、配属予定先の社員との交流が有効なようです。

・若い人が多く、自分の意見を否定せずに聞いてくれるところ。おおらかで優しい方が多いところ(文系、早慶大クラス)

・私が興味を持っている分野で働いている方で、とても楽しそうに業務について話してくださった。また、その業務とも関連のある、私のゼミでの研究内容について、興味を持って聞いてくださった(文系、旧帝大クラス)

・まとまりのない自分の質問に対して、少しずつ「本当に知りたい内容」の確認を挟みながら答えてくださった。社員の方も飾らずありのままの考えをお話しくださった(文系、旧帝大クラス)

・OB訪問アプリで訪問した際に、フランクに対応してくださった。また、訪問後も連絡をとってくださり、内定の連絡をした際にはSNSでお祝いの言葉もいただいた(理系、旧帝大クラス)

・会社見学の際に、2時間も自由に話す時間があり、話題が尽きず、非常に有意義な時間を送れたため(理系、上位私立大)

・最終面接日に社員と交流できる時間があったが、緊張をほぐそうとしてくださり落ち着いて面接に挑むことができた(文系、早慶大クラス)

・自分にとって最良の選択になるようにと、会社の良いところ、悪いところをすべて話してもらえた(文系、早慶大クラス)

・座談会を開催してくださり、仕事をする上で大変なことや入社理由など包み隠さず正直に伝えてくれました(文系、その他私立大)

・会社で作っている製品について詳細に説明していただき、また、製品の製造現場を見学させていただいた(理系、上位国公立大)

・1時間の面談を複数回行い、どの社員も優しかった。私の拙い質問に対して、意図を汲み取って教えてくれ、自分からどんどん情報を教えてくれた(文系、早慶大クラス)

・仕事を楽しんでいる、明るく気さくに話しかけてくださる方が多くて魅力的に感じた(理系、早慶大クラス)

・社員面談の際、丁寧に話を聞き、真摯に答えてくださった。また、会社用の連絡先も教えてくださり、「何かあれば連絡してね」「もし弊社に来てくれることになったら、いつか一緒に飲みましょう」と、真面目なだけでなく、フレンドリーに対応してくださった(理系、上位国公立大)

・質疑応答では、皆さんとても丁寧に回答してくださった。また、最終面接前にダメ元で人事部にOB訪問のお願いをしてみたところ、主任研究員の方との面談のお時間をいただけることになった。年次が上の先輩社員の方に会うことが多かったが、皆さんいい意味で柔らかく、笑顔で優しく接してくださった(理系、旧帝大クラス)

・人事の方とは別に、内定先の部署の部長が連絡をしてくださり、仕事内容や職場についての不安がないか質問に答えてくれた。取り組みたい内容についても意見を聞いてくださり、それが実現できるよう環境を整えてくれる印象を受けた(理系、上位国公立大)

就職先との出会いは「就職ナビ」と「インターンシップ」

 今度は、入社先として内定承諾した企業との就職活動における最初の接点は何だったのかを見ていきましょう。文系は「就職ナビからのエントリー」の26%が最多で、「インターンシップ」の23%をわずかながら上回ったのに対して、理系は「インターンシップ」の28%が最多で、「就職ナビからのエントリー」の19%を10ポイント近く上回っています[図表6]。理系は「インターンシップ」をきっかけに3割近くの学生が最終的な入社先と巡り会っていますが、前述したように早くから就職志望先を決め込んでいる学生の割合が高く、意中の企業のインターンシップに参加した結果ともいえるでしょう。

[図表6]入社先として内定承諾した企業との就職活動における最初の接点

 就職活動における最初の接点は、この2項目だけで、文系49%、理系も47%といずれも半数近くを占め、3位以下の項目とは大きな開きがあります。3位は文系・理系ともに「企業のHPからのエントリー」で、文系9%、理系12%と理系のポイントのほうが高くなっています。これも、理系のほうが早くから就職志望先を明確にしている割合が高いことの表れだと推測されます。
 そのほかでは、「逆求人サイトからのオファー」で就職先と巡り会った学生が、文系で6%、理系で4%ほどとなっています。年々、企業、学生ともに利用ユーザーが増えていることを考えると、今後はこの割合が徐々に高まってくるものと思われます。

 文系・理系の合計で25%の学生にとり、就職先となる企業との最初の接点となった「インターンシップ」ですが、インターンシップに参加した学生のうち、インターンシップ先企業から内定が出た学生はどのくらいいるのでしょうか。インターンシップに参加した企業からの内定取得の状況を聞いてみたところ、「インターンシップ参加企業の選考に応募していない」学生が文系で17%、理系で14%いるにもかかわらず、文系で46%、理系では56%と半数以上の学生が「内定が出た」と回答しています[図表7]

[図表7]インターンシップ参加企業からの内定(単一回答)

 「インターンシップ参加企業の選考に応募していない」学生を除いて考えれば、「内定が出た」学生の割合は文系でも56%と半数を超え、理系では66%と3分の2を占めます。まだ「選考中」の学生もいることを考えると、最終的な割合はさらに高くなる可能性があります。インターンシップに参加したにもかがらず、1社も内定につながらなかった学生のほうが、いまでは少数派という状況になっています。
 なお、就職先企業との最初の接点が「インターンシップ」と回答した学生の割合と、インターンシップ参加企業から内定を取得した学生の割合とを比べた場合、そのポイント差は文系で23%、理系で28%にもなりますが、そのすべてが内定辞退につながったと考えるのは早計です。最初の接点は、「インターンシップ」よりも早かった「逆求人サイトからのオファー」や「2月以前の業界研究セミナー」などにカウントされているケースも多々あると考えられるからです。夏季インターンシップではなく、冬季インターンシップに参加して内定を取得した学生は、特にこういった傾向が強く出がちです。

内定辞退をすべて連絡済みの文系は半数止まり

 次に、企業側が最も恐れる「内定辞退」について見ていきましょう。6月の段階で複数企業からの内定を取得していた場合、志望度の低い企業への内定辞退連絡はどの程度されているのかを聞いた結果が[図表8]です。

[図表8]志望度の低い企業への内定辞退の状況

 「すべての企業に内定辞退を伝えた」とする学生は、文系の56%に対して、理系では73%と7割を超えており、理系のほうが誠実な対応をしている様子がうかがえます。残りの学生は、「一部の企業に(のみ)伝えた」か「まだ(1社も)伝えていない」ということになり、理系で27%、文系に至っては44%と半数近くにも上ります。企業からすれば、6月時点ではまったく安心できる状況にはないことが分かります。

 では、「内定を辞退した理由」は何なのでしょうか。文系・理系ともに最多は「より志望度の高い企業から内定を受けた」で、それぞれ74%、78%と7割を優に超え、次点の理由とは50ポイント以上の差をつける、断トツの理由となっています[図表9]

[図表9]内定を辞退した理由(複数回答)

 ただ、ある意味、内定辞退としては当たり前の理由ともいえます。次点の理由は、「内定後に再考し、自分に合わないと判断した」で、文系で25%、理系で20%となっています。本来であれば、応募前、あるいは選考中に終えておくべき企業研究を、内定取得後に改めてより詳しく調べた結果、仕事内容や働き方、社風、勤務条件など、自分の志向と違う面を多々発見してしまったということなのでしょう。学生の不勉強を責めるだけでなく、企業側もミスマッチ防止のために最終面接までの段階で、学生の志向とのすり合わせや、疑問・不安の解消の機会を設けることが必要だといえるでしょう。
 そのほか、「ネット上や知人から良くない口コミを聞いた」、「給与・待遇が良くなかった」、「残業が多そうだった」などが上位の理由として挙がっています。注目したい項目は「希望する勤務地にならなそうだった」で、文系の7%(9位)に対して理系は11%(5位)とそれを上回り、内定辞退理由の上位になっていることです。文系と比べて理系のほうが採用職種や配属先が明確になっていることが多く、内定段階で勤務地が予想できるケースが多いことも背景にはあるでしょう。また、前掲の[図表4]で見たように、「内定承諾を決めた理由」では、文系の50%に対して理系は56%と、文系より「勤務地」を重視する傾向があり、その裏返しともいえそうです。「企業規模が小さかった」(文系3%、理系6%)も同様でしょう。
 「その他」と回答した学生のフリーコメントを見ると、「社風がいまいち分からなかった(文系、中堅私立大)」、「志望する職種ではなかった(文系、中堅私立大)」、「将来性への不安(理系、上位私立大)」、「Webと対面で印象にギャップがあった(文系、その他私立大)」などの理由が挙げられる中、最も多かった理由が「内定承諾期間が短かった」で、「その時点で決定する踏ん切りがつかなかった(理系、旧帝大クラス)」とのことです。

4割近い学生が内定者フォローに効果なしと判定

 最後に、多くの企業で内定式も終わり、今後ますます「内定者フォロー」に注力していくことになるかと思いますので、「内定者フォロー」に関する調査結果を紹介します。内定先企業から実際に行われたフォローの中で、「入社したい気持ちが高まった内定者フォロー」について取り上げます。
 文系・理系ともにトップは定番の「内定者懇親会(オンライン含む)」で、文系34%、理系33%とどちらも3割を超え、2位の「若手社員との懇親会(オンライン含む)」(文系15%、理系16%)のダブルスコアとなっています[図表10]。学生にとって最も気になるのは、やはり先輩社員よりも同期の内定者ということです。3位は「入社に向けた個人面談」で、文系11%、理系8%が「入社したい気持ちが高まった」としています。

[図表10]入社したい気持ちが高まった内定者フォロー(複数回答)

 一方、要注意といえるのが「(入社したい気持ちが高まった内定者フォローは)特にない」と回答した学生が文系で37%、理系で36%と4割近くもいることです。もちろん、内定後まだ間もなく、これまで何も内定者フォローを受けていないという学生もいるでしょう。しかし、何がしかの内定者フォローを受けていながら、何一つ入社したい気持ちを高めることにつながっていないとしたら、これは大問題です。
 内定者フォローは、かつてバブル期にあったように、他社への受験をブロックするために物理的に拘束するために行うわけではありません。あくまでも学生の入社意欲の維持・向上に寄与するものでなければ実施する意味がありません。実施することを目的化しないよう、今一度、見直してみる必要があるかもしれません。

 その参考となるデータが次のデータです。[図表10]は、「入社したい気持ちが高まった内定者フォロー」としての単純に得票数を基にしたランキングでしたが、実際に実施を受けた学生数を分母として得票割合を並べ替えた結果が[図表11]です。実施を受けた学生のうち、何%の学生に効果があったかを測る資料となります。分母が小さいと得票割合の上下動が激しくなりますので、今回は、実施を受けた学生数が文系・理系別で20人以上の項目だけを集計対象としています。

[図表11]入社したい気持ちが高まった内定者フォロー(複数回答/実施割合が分母)

順位

文系

理系

フォロー内容 割合 フォロー内容 割合
1 内定者懇親会 48% 企業・工場見学会 68%
2 入社に向けた個人面談 46% 資格取得支援 52%
3 若手社員との懇親会 39% 内定者懇親会 48%
4 経営者・役員との懇親会 35% 若手社員との懇親会 46%
5 管理職社員との懇親会 32% 入社に向けた個人面談 46%
6 企業・工場見学会 31% 入社前集合研修 36%
7 定期的な連絡 27% 定期的な連絡 33%
8 入社前集合研修 23% 管理職社員との懇親会 28%
9 インターンシップ 23% eラーニング・通信教育 27%
10 資格取得支援 22% 内定者サイト・SNS 22%

 文系のトップは依然として「内定者懇親会」(48%)ですが、2位は「入社に向けた個人面談」でトップとわずか2ポイント差の46%、以下、「若手社員との懇親会」(39%)、「経営者・役員との懇親会」(35%)、「管理職社員との懇親会」(32%)と、懇親会系が続きます。[図表10]では実施割合が少なかったためにポイントの低かった「経営者・役員との懇親会」や「管理職社員との懇親会」などがポイントを大きく伸ばし、上位にランクインしています。
 一方の理系は、トップすら入れ替わるなど、文系とはかなり異なる様相を呈しています。[図表10]ではわずか4%だった「企業・工場見学会」が68%と大きくポイントを伸ばして堂々のトップです。理系のほうが、「企業・工場見学会」を通じて、実際の設備や環境などを確認したいという欲求が強い傾向にあります。2位は「資格取得支援」で、こちらも2%から52%へとポイントを大きく伸ばしています。「入社に向けた個人面談」もポイントを伸ばして、文系同じ46%となるも僅差の5位。理系は、「資格取得支援」のほか「eラーニング・通信教育」も27%で9位にランクインするなど、学び系の内定者フォローも有効なようです。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
https://www.hrpro.co.jp/