2023年02月07日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [247]『パワハラ依存症』

(加藤諦三 著 PHP新書 2022年8月)

 

 本書は、社会学者であり、ラジオ番組「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀にわたり務める著者が、パワー・ハラスメント(パワハラ)をやめられない人、いつもパワハラされる人について解説したものです。

 第1章では、パワハラが起きる理由を考察し、パワハラは「観客のいる前で」(みんなの前で)行われるという点が重要であり、パワハラをする人は自分の無意識にある失望を部下に投射し、部下を声高に侮辱することで自分の心の傷を癒しているため、観客は多いほど気持ちが落ち着くとのだとしています。
 そして、パワハラが多い職場に共通するのは、コミュニケーションがうまくいってないことであり、そうした職場では、個々人が心の底にマイナスの感情をため込むため、どうしても心を病んだ人が多くなるとしています。

 第2章では、パワハラの深層を分析し、パワハラをする人は、社会心理学者のフロムが唱えた、死を愛好するネクロフィラスな傾向、悪質なナルシズム傾向、近親相姦願望が統合された「衰退の症候群」の病理にあるとしています。
 また、心理学者のアドラーは、共同体感情を持つ人のみ人生の諸問題を解決できるとしており、共同体感情の反対は劣等感、ナルシズム、ネクロフィラスであって、パワハラをする人は、人生の問題を解決できないままに生きているが、無意識では自分の人生が行き詰まっていることを感じていても、意識の領域では認めていないとのことです。

 第3章では、パワハラをされるのは、危機的な状況に陥っても他人にお願いをすることができない人であり、そうした人がうつ病になったり、過労死するまで頑張ってしまうとしています。パワハラされる人は、世俗には質の悪い人がいることを知り、人を見る目を養わない限り、何度立ち直っても、またそうした人に利用されて燃え尽きるとしています。
 一方、パワハラをする人は、あらゆる方法で自分が優越していることを確認しようとし、それは強迫性を帯びていて、したくてパワハラをするのではなく、そうしないと自分自身では生きられないため、サディストになるのだと。つまり、パワハラをするのは善人を装ったサディストであり、彼らには苦しむ部下を見るのが快感であるとのことです。

 第4章では、パワハラする人は、子どものころに抑圧されて悔しかった思いを、大人になって弱い立場の相手にぶつけているのであり、パワハラする上司への従順は、火に油を注ぐことになるとしています。パワハラされないようにするには、狼の餌食にならない人間関係を築くことであるとし、心が触れ合う仲間をつくることなどの助言をしています。

 心理学の知見をベースとする一方で、人生訓的エッセイ風でもあり、読んでみて合う人、合わない人がいるかと思いますが、パワハラは依存症であると言い切っている点は明快でした。ただし、パワハラする側の人は、本書にもあるとおり自分でその意識がないため、きっとこうした本も読まないでしょう(パワハラされる側の人にとっては、状況改善のヒントとなる点があると思った)。

 この本のとおりならば、パワハラする上司は詰まるところ、独りで仕事するか辞めてもらうしかないようにも思いますが、企業としては、この点が最も難しいところではないでしょうか。ただし、そうしたマネジメント的な対処法は、本書で扱う範疇(はんちゅう)には含めないことを前提に書かれている本であり、その点は人事パーソンには物足りないのではないかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年10月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー