2023年02月21日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [248]『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』

(ジョン・P・コッター/バネッサ・アクタル/ガウラブ・グプタ 著 池村千秋 訳 PHP新書 2022年9月)

 

 本書は、組織がなぜ変化に適応することが苦手なのかについて解説し、その対処法を紹介したものです。

 全3部構成の第1部「序論」(第1章・第2章)では、第1章で、人や組織は成熟するにつれて、安定・安全を重んじるメカニズムが強化されていくため、新たな脅威を察知しても、試練を乗り越えるための変化を十分なスピードで実行できない場合が多く、それは今日の世界では大きなリスクとなるとしています。

 第2章では、「人間の性質」としての生存本能は非常に強く、生き延びようとする本能が働く結果、新しいチャンスを素早く察知し、イノベーションを推進し、変化に適応し、適切なリーダーシップで変革を成し遂げる能力が、それによって押さえ込まれてしまうとしています。
 こうした「生存チャネル」のほかに、人間はもう一つ「繁栄チャネル」というメカニズムを持っていて、これにより、脅威ではなく機会に目を光らせ、チャンスへの好奇心で視野が広がり、ポジティブな感情が高まって、人はコラボレーションに前向きになり、創造性とイノベーションが活発になるとして、繁栄チャネルを活性化させる必要を説いています。
 また、安定性と効率性を重視する現代のピラミッド型組織は、変化の激しい時代には不向きであるとし、そうした組織の見直しと、加えて、変革のためのリーダーシップが求められるとしています。

 第2部「本論」(第3章~第9章)では、変革を早めるにどうすればよいかを、組織の七つの領域(戦略、デジタル・トランスインフォメーション(DX)、リストラ、組織文化、M&A、アジリティ、社会変革)について述べています。

 第3章では、戦略を通じて人々の行動を引き出し成果を上げるには、マネジメント中心よりもリーダーシップ中心のアプローチのほうが、変化の速い時代に適しているとしています。第4章では、DX成功のカギは、幅広い層の社員に切迫感を持たせて変革に本腰を入れさせ、行動とリーダーシップを引き出すことであるとしています。第5章では、リストラクチャリングは旧来のやり方では弊害は大きくなるばかりであるとして、成功するための方法を説いています。

 第6章では、企業文化が好業績を生むとし、文化を変え、はるかに良い結果を生み出すにはどうすればよいかを解説しています。第7章では、M&Aでしばしば見られる失敗を指摘し、その解決策について述べています。第8章では、「アジャイル」な組織の在り方として、2015年の著書『ジョン・P・コッター 実行する組織』(ダイヤモンド社)で自ら提唱した、ピラミッド型組織とネットワーク型組織を併存させた「デュアル・システム」が適しているとしています。第9章では、社会運動と企業変革は互いに学べることが多く、共に、変革の成否はリーダーシップの在り方にかかっているとしています。

 第3部「結論」(第10章・第11章)では、第10章で、より多くの人に、より多くのリーダーシップを発揮してもらうにはどうすればよいかを説いています。第11章では、現代型組織の在り方を捨てずに変える方法として「デュアル・システム」をあらためて推奨し、社内のあらゆる部署や組織階層の人たちのリーダーシップを引き出しやすい環境づくりが重要であるとしています。

 著者が共同で設立したコンサルティング会社のコッター・インターナショナルで取り組んできた研究プロジェクトの成果物である本書は、脳科学(人間の性質)、現代型組織の限界、変革のリーダーシップの3種類の研究をベースに、組織改革の七つの領域について論じている点で集大成的であり(著者らは第2部については、自らが関心のある個所から読めばよいとしている)、幅広い観点から啓発される組織論となっているように思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年10月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー