立教大学経済学部教授
四六判/208ページ/1500円+税/筑摩書房
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ 新型コロナウイルスの感染拡大により、とりわけ深刻な影響を受けた産業として、航空業界が挙げられる。感染拡大期に、世界中の航空会社において業績が大きく落ち込む中、労働需要の変化に対応して従業員の人数や労働時間を変化させることで調整する「雇用調整」の方法には、各国で大きな違いが見られたという。本書は、筆者が専門とする労使関係論の視点から雇用調整の国際比較を行い、日本における雇用調整の特徴を明らかにする。
■ 本書で示される事例は、著者によるインタビューや調査に加え、海外企業については現地の報道内容を基に構成されている。第1章はANAグループの事例を取り上げ、コロナ禍のさなかであった2020年の労使交渉の過程を踏まえつつ、同社が取った「雇用を守る」ための対応を詳解する。第2章ではアメリカ、イギリス、ドイツの大手航空会社における雇用調整を取り上げる。これらの事例に基づいて、第3章では雇用調整の規模、方法、実施時期、賃金・労働条件の変更内容についてさらに比較を進め、雇用と賃金という二つの調整要素へのアプローチについて、各国の雇用慣行や労使関係を背景に、相違性と共通性を解説する。
■ 航空業界と同様に大きな影響を受けた日本の百貨店の事例を取り上げ、長期的雇用調整手段としての出向・転籍の実態を明らかにする第4章を経て、最終章の第5章では、日本における短期的・長期的雇用調整の特徴を示した上で、社会レベルで雇用を保障し、安心して働き続けられる社会の姿を考察する。企業側が明らかにしたがらない部分も多い雇用調整の内実を示した本書の分析内容は、労使いずれの立場にあっても知見が深まるものだ。また、賃金調整や雇用調整の概念を整理した上で各国企業の事例を分析する解説が示されており、労使関係論に通じていなくとも理解の進む一冊である。
内容紹介 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、航空業界は大きな打撃を受けた。売上が大幅に減ったなかで、これまで通り雇用を維持して賃金を払い続ければ会社が潰れる。「クビか、賃下げか」。世界中の航空会社において、労使がこの二極の間でギリギリの調整を行っていた。従来、日本は賃金引き下げが速く、人員削減が遅いとされてきた。それは今も変わらないのか。コロナ禍への対応の国際比較と、長期的に労働需要が減少した百貨店の事例から、日本の雇用調整の内実を明らかにする。 |